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やって差し上げたいんですけど、、、 

やって差し上げたいんですけど、、、 

吉田政弘



 重度訪問介護の現場では、利用者様や利用者ご家族からの依頼に対して、「やって差し上げたいんですけど、、、(できないです。)」と回答しなければならない場面が多々ある。
 このような場合、利用者様や利用者ご家族は今後の在宅生活について強い不安を感じられ、できないと答えた事業所と押し問答になることが多い。

 そもそも重度訪問介護は障害者総合支援法を根拠とするサービスであり、同法の省令でそのサービス内容は、重度障害をお持ちの方に対する「入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助」と定義されている。
 介護保険サービスにおいては利用者様以外のご家族の洗濯物、食事準備には対応しない等のルールが一定定着しているが、重度訪問介護の現場では「その他の生活全般にわたる援助」というバスケット条項が利用者側と事業所側の解釈の相違を生み、冒頭のやり取りが発生する原因となっている。
 根拠法令における定義が「生活全般にわたる援助」となっている以上、利用者様の「生活」をどのように解釈するかで、対応すべきサービスと対応できないサービスの線引きは現場現場で異なっている場合が多い。ご家族も利用するような場所の掃除やご家族の食事の準備でさえも、介護保険と異なり、関係事業所横並びで対応しているケースも見受けられる。

 このように、重度訪問介護のサービス定義はあくまで重度障害をお持ちの方の生活に重きを置いたものになっており、このバスケット条項を含めた定義のお陰でヘルパーとしてやって差し上げたいところまで支援ができるという側面がある反面、時に利用者様の過剰要求と受け止められるような場面や利用者様とヘルパーに上下関係を生むこともある。
 利用者様の症状が様々であるため、一概に重度訪問介護の想定する「生活」の範囲を定義することはできないが、様々な支援事例が共有され、慣例としての検証材料をノウハウとして蓄積していくことは有用と思われる。

 重度訪問介護の現場における「やって差し上げたいんですけど、、、」という場面は上記のような掃除や食事といった日常生活に関する場面ばかりではない。
 重度訪問介護の利用者様は医療的ケアが必要な方も多いが、医療的ケアについてはヘルパーが対応できることが法令で縛られている反面、その範囲内だけでは利用者ご本人やご家族の負担や不安を十分に軽減できないという場面が多々ある。
 利用者様の体調によっては、ヘルパーでは対応できないような医療的ケアが夜中でも頻繁に必要な場合があるが、現行制度上ではその度に夜中でもご家族様か、独居の方の場合は訪問看護師や在宅医に連絡し、来てもらう必要がある。
 このようなケースの中には、ご家族や深夜に呼び出しされる訪問看護師からは「それぐらいヘルパーでもできるでしょう。」と不満を言われるものもあり、ヘルパーサイドとしても「これぐらいなら一度教えてもらえばできそう。」と思うこともある。ご本人含めた関係者全員が申し訳なさと不満と情けなさを感じている状態である。
 このような状態に気を使い、利用者様としても多少の苦しみや不快さは我慢するというケースもある。この場合でもそれを夜通し見守るヘルパーは不甲斐なさを感じ、明け方にはその状況を知ったご家族に理不尽に責められることもある。
 医療的ケアは命に関わる行為であり、知識が十分ではないヘルパーのできることが限られるのは当然であるが、その制限が実態に即していない場合には、ヘルパーの自身喪失にも繋がり、志の高い介護職が現場を去っていくきっかけにも成り得る。
 掃除や食事といった日常生活に関する問題であれば関係事業所との連携により解決は可能であるが、医療的ケアにおいて責められるヘルパーサイドの反論は「それがご理解いただけないなら在宅生活は無理なのでは?」という短絡的ではあるが核心的な結論しかない。

 医療的ケアが必要な方の重度訪問介護による在宅実績がさらに増え、このような現場の実態や矛盾がよりオープンに議論されていく環境を作っていく必要があると思う。
 8月末から本格的に始動する「全国在宅生活支援事業者連絡会(在宅生活をされている障害をお持ちの方々を支援している事業者の全国ネットワーク)」の活動に期待したい。


【略歴】吉田政弘(1982年12月生 37歳) H18:一橋大学経済学部卒業 H18~H27: 中小企業専門の政府系政策金融機関 (H23~H24:経済産業省中小企業庁に出向) H27~H30:国内経営コンサルティングファーム H30~:ユースタイルラボラトリー㈱(現職)  高校時代に父がリストラを受けて失業した経験から経済学の勉強を志し、一橋大学経済学部に入学・卒業(H18)。  福祉業界への就職を考えるも、給与面等現実的な問題から断念。中小企業の安定・発展に貢献するという考えから、中小企業専門の政府系政策金融機関に就職。そこで様々な業界の慣行や業界特性を学ぶ。  H23~H24の2年間は経済産業省中小企業庁に出向。国会議論を通じた支援法、支援施策の策定プロセスや予算要求プロセスを経験し、国策の成立プロセスを体験。  H27には企業側に立った事業再生コンサルティングを志し、国内経営コンサルティングファームに転職。そこでの介護施設再建の経験から介護業界の発展の一助を志し、自身も介護業界に身を置くことを決意。  H30ユースタイルラボラトリー㈱と出会い、様々な重度訪問介護の現場を経験し、現在は「すべての必要な人に必要なケアを」届けるという理念の下、業界発展への貢献を目指して日々奮闘している。