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知的障害者が重度訪問介護を利用して自立生活するパーソナルアシスタンスのビジョン

知的障害者が重度訪問介護を利用して自立生活するパーソナルアシスタンスのビジョン

鈴木良



日本政府が2014年1月に批准した障害者権利条約第19条には、知的障害者を含むあらゆる障害をもつ人たちの自立/自律生活と地域へのインクルージョンを目指すことが明記されました。自立/自律生活とは生活のあり方を自ら選び決めることを、インクルージョンとは社会一般の人たちが利用するあらゆるサービスを利用できるようになることを意味します。つまり、自由に、地域に関わりながら、生活するということです。条文では、この目標を実現するうえで、パーソナルアシスタンスというサービスが重要な手段になると位置づけられています。

パーソナルアシスタンスとは、日本では、1)利用者の主導(ヘルパーや事業所ではなく利用者がイニシアティブをもつ支援)、2)個別の関係性(事業所が派遣する不特定の者が行う介助ではなく利用者の信任を得た特定の者が行う支援)、3)包括性と継続性(支援の体系によって分割され断続的に提供される介助ではなく利用者の生活と一体になって継続的に提供される支援)を備えた生活支援、と定義されています。このパーソナルアシスタンスに最も近いサービスこそが、重度訪問介護なのです。

知的障害者が重度訪問介護を利用することによって、地域での自立生活の可能性が広がり、社会のあり方そのものを変える可能性があります。

まず、どのような場所で、だれと生活するのかを知的障害者が選択できるようになるということです。つまり、ひとりで暮らすのか、家族と暮らすのか、友だちと暮らすのかを選択できるようになります。これは、社会一般の人たちは当たり前のように行っていることですが、多くの知的障害者にとっては、十分に保障されていない権利の一つです。彼らの多くは、家族の支えが難しくなれば、施設やグループホームで生活せざるをえないのが現状です。

相模原障害者施設殺傷事件が起きた津久井やまゆり園は施設の一つです。日本の施設の多くは定員50~60名であり、定員100名を超える施設もあります。その多くが、地域社会から離れた場所に設立され、生活の自由や社会との関係は制約されています。 施設に代わる地域生活の受け皿として、おもに整備されてきたのがグループホームでした。グループホームは、地域の一戸建て、アパート・マンションなどで職員から食事・身辺ケアなどの支援を受けながら生活しますが、数名が台所・風呂・トイレ・玄関を共同使用して生活します。施設だけではなくグループホームでも、他人と生活しなければならないので、人間関係のトラブルが絶えることはなく、息苦しい生活を送ることになりかねません。
一方、重度訪問介護を利用すれば、利用する人にサービスがつくので、その人は自由に住む場所や一緒に住む人を選ぶことができます。ひとりでは寂しかったり不安であったりすれば、気の合う人と一緒に住むことだってできますし、家族と暮らすこともできます。

次に、どのような生活を送るのかということについて選択し、地域と関わりながら生きることが可能になるということです。施設やグループホームでは、他人と生活をあわせなければならず、支援する職員がルールを決めることが多いので、自由な生活を送れません。グループホームでも、共同生活で職員が複数の利用者の支援をするので、一緒に住む人が買い物に行けばそれに合わせて買い物に行かなければならないことがあります。外食をするにしても、行く場所を他人に合わせなければなりません。 重度訪問介護であれば、好きなときに買い物に行き、自分の好きな飲食店で食事をとれます。休日には、1日中好きなだけ電車をみていることもできますし、飛行機で旅行に行くこともできます。他人とあわせることなく自分のペースで好きなことを行い、社会一般の人たちと同じように地域のあらゆるサービスを利用しながら生活できるのです。

また、日中どのような活動を行うのかについての選択も可能になります。重度知的障害者は、学校卒業後、福祉的就労という障害者だけが働く場所に通うことが多いです。しかし、重度訪問介護をつかえば、その人にあった日中活動のかたちをつくりだすことができます。
私の住む地域には、小学・中学時に地域の普通学校の普通学級に通い、中学卒業後すぐに在宅で重度訪問介護を利用するようになった人がいます。この人は現在、重度訪問介護のヘルパーと一緒に高校の体育祭や様々なイベントに参加したり、地域の農作業に参加したりしながら、高校進学の受験に向けて準備をしています。近年は、大学のキャンパスや在宅就労の場でも、重度訪問介護を活用することが検討されるようになりました。今後企業などの一般就労の場でも活用されるようになれば、さらに就労の選択の機会が広がります。

さらに、重度訪問介護は、事業所の対応次第で、本人が信頼するヘルパーが派遣されるので、本人とヘルパーとの間に信頼に基づく個別的な関係が作られることになります。施設やグループホームでは、支援をする人を選べないため、気の合わない職員がいてもその支援を受けなければなりません。重度の行動障害や重複障害のある人への支援では、些細な仕草や行動からその思いや意思を理解できるようになることが重要です。これは現在、意思決定支援と呼ばれています。こうした支援のためには、重度訪問介護をとおして、特定のヘルパーが長期間関わり、本人との間に信頼関係をつくることが求められます。
この関係に、ヘルパーではない友人や家族が加わることによって、本人を中心にした意思決定支援のネットワークがつくられていくことになります。重度訪問介護はまさに、知的障害者を中心にして、彼らが信頼する人の輪を作り上げていくサービスといっていいでしょう。こうした人の輪が、施設やグループホームといった「箱」ではなく、多くの知的障害者の親が抱える「親なき後の不安」を解消するための新たなセーフティネットになるでしょう。

そして、重度訪問介護は社会的にも大きな意義があります。日本には現在、約12万人もの知的障害者が施設で生活しています。その多くは、重度の行動障害や自閉傾向があり、他人と生活することが難しい人たちです。施設から地域に移行する際に、グループホームが活用されてきましたが、集団生活ができない人たちは施設に留まるか、地域に行ってもうまくいかなくなれば施設に戻されてきました。そもそもこのような人たちが集団生活を余儀なくされる施設で生活すること自体が問題なのです。

重度訪問介護を利用すれば、他人と生活する必要もなくなるので、地域で生活することが可能になります。この結果、施設はなくなっていくかもしれません。近年私は、重度訪問介護による地域生活への移行の可能性について施設職員や家族と研究会を行うことがあります(写真参照)。このとき、重度訪問介護を活用すれば、施設でしか生活できなかった人も地域で生活できるようになり、職員にとっても仕事が楽しくなるのではないかという意見や感想を聞きます。

重度訪問介護は、私たちの社会のあり方そのものを変えていくかもしれません。このサービスを通して、現代社会によって最も排除されてきた知的障害者を人間関係や社会の中心において考えるようになるので、これまでの人間や社会の見方を根底から変えていくことになるからです。重度訪問介護を利用する人々、そして、彼ら/彼女らを支えるヘルパーはまさに、新しい社会を創造する担い手になりうるのです。


[略歴】 1975年生まれ。慶應義塾大学卒。NPO法人ラルシュ・デイブレイク(カナダ)の職員、NGO地に平和(日本)のパレスチナ難民キャンプ支援事業担当員などを経て、2011年4月~2014年3月、京都女子大学家政学部生活福祉学科助教。2014年4月~現在、国立大学法人琉球大学人文社会部人間社会学科准教授。北欧・北米・日本の脱施設化とパーソナルアシスタンスについて研究。著書に『知的障害者の地域移行と地域生活‐自己と相互作用秩序の障害学』(現代書館)、『脱施設化と個別化給付‐カナダにおける知的障害福祉の変革過程』(現代書館)、翻訳書に『地域に帰る 知的障害者と脱施設化-カナダにおける州立施設トランキルの閉鎖過程』(明石書店)など。