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一流の介護士とは

一流の介護士とは

吉岡理恵



重度訪問介護事業に携わっている中で、非常に難しいと感じることがあります。それは、利用者とヘルパーのマッチングです。人と人なので、相性だと言われればそれまでなのですが、せっかく予定を調整して利用者に派遣したヘルパーが、たった数十分の顔合わせでうちには合わないと利用者からお断りをされてしまったり、イメージしていたものと違うとヘルパー自身が支援をためらってしまうことが多々あります。重度訪問介護は、喀痰吸引・胃ろうといった医療的ケアを必要としながら在宅生活をしている難病の方や、自立生活(=一人暮らし)をしている障害者の方も利用している障害福祉サービスです。そして利用者が必要とする介護・介助は千差万別で、その方のケアを習得するのに、時に数か月もかかることがあります。特に難病の方のケアは、医療と介護の中間と表現するのがふさわしく、一つのミスが命に直結してしまうこともあります。それゆえ、利用者・利用者家族としては、ヘルパーなら誰でもいいというわけにはいかず、自分や自分の家族の命をそのヘルパーに預けられるという安心感を抱いてはじめて、そのヘルパーを支援者の一人としてチームの輪に受け入れます。事業所としては、支援の志を持っているヘルパー全員が、支援を必要としている全ての人にまんべんなくケアを提供できる環境を作ることが理想です。しかしながら現実は、そういう事業所の思いと、いいヘルパーにいい支援をしてもらいたい、と思う利用者の心情にズレが生じがちです。また、たとえお互いファーストインプレッションがよかったとしても、実際にケアの習得のための研修同行(=引継ぎ)を始めると、利用者・ヘルパーどちらからともなくミスマッチを訴えることもあります。

そのようなミスマッチをいかに最小限に抑えるかが事業所の課題の一つです。それで、先日とある利用者に、どのような基準でヘルパーに自分の家族の介護をお願いしたいと思うか、と伺ったところ「いて邪魔にならない人」との返答をいただきました。私が聞いた初めての表現だったのですが、その通りだと思いました。きびきびした雰囲気を好むお宅でのんびりゆったり仕事をするのはふさわしくなく、時間がかかっても丁寧にケアをしてほしいという利用者に対して、スピード重視の雑なケアは望ましくありません。また、手順通りにやったかどうか気になりすぎて、部屋の隅でもじもじしているのは目についてしまいます。利用者の体調が悪い時に質問攻めも利用者の気分を悪くし、利用者が明るい気分でいるときに無表情で淡々とルーティンをこなしていくのもどうなのかなということになります。

大概の利用者はのべ3ケタのヘルパーと関わっています。介護が未経験の新米ヘルパーは、自分は何もかも初めてです、と初めてであることをアピールしがちなのですが、利用者にとってその方は、単なる何百人目かのヘルパーに過ぎなかったりします。傍から見ていて過度な新米アピールは不要だな、と思ってしまいます。でも、分からないことを分からないままにして、やるべきことをやっていなかったらそれも問題です。教わったことができない、は言わずもがなです。

ではどうしたら邪魔と思われないか、あくまでも一案として参考にしていただければと思います。コミュニケーション=2、仕事=6、空気になる=2、の割合かなと思いました。利用者との、ある程度のコミュニケーションは必要です。自分がどんな人間か、相手が今どのような状況なのか、今日は昨日と何が違うのか、明日はどう過ごしたいか、を知るのはコミュニケーションがあってこそです。また、吸引、胃ろう、文字盤、オムツ交換他、いわゆるケアの部分は当然比重が大きいです。ヘルパーの仕事として、ある程度できて当たり前、のところです。それから、重度訪問介護は基本的に長時間の支援です。利用者は実のところ、一人になりたくてもなれない、ような状況だったりします。そんな中、あえてヘルパーが空気のような存在になることで利用者個人の時間を作ることも大事なのではと思います。私は排泄介助の時は特にこの空気感を意識します。利用者が用を足しているとき、そこに誰もいないような空気感が作られるべきだと思っています。

どこの事業所にも、あらゆるタイプの利用者に適応できる事業所自慢の人気ヘルパーが必ずいます。そのようなヘルパーに共通しているのは、第三者から見て、そのヘルパーがその家の雰囲気に溶け込んでいる、と感じられることです。家族ではない、友達でもない、でもその家で不可欠な存在、といった奥ゆかしい風情があります。アイコンタクトだけで利用者が言わんとしていることが分かる、たたずまいに緊張感のようなものを感じる一方、いないと息苦しくなる、そんなヘルパーです。まさに、いて邪魔にならない、一流の介護士です。


吉岡理恵

1981年東京都生まれ、東京都立大学経済学部卒業、大学在学中にオーストラリア、マッコーリー大学に公費留学、帰国後法律系事務所でOLとして働く、2014年東京都職場体験プログラムを機にESLのデイサービス、ユースタイル諏訪ノ森で介護職デビュー、2016年より常勤職員として土屋訪問介護事業所の重度訪問介護事業に参加し各地のマネージャーを務め現在に至る、2018年介護福祉士登録、OL時代にフルマラソンに挑戦し完走8回、趣味は料理と読書