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施設介護と訪問介護

施設介護と訪問介護

吉岡理恵



当社の運営法人であるユースタイルラボラトリー株式会社は、2012年に介護保険法に基づく認知症対応型通所介護(デイサービス)の事業所としてスタートしました。そして2014年に障害福祉サービスの重度訪問介護事業が始まり、今ではこれら以外に介護保険法の訪問介護、介護系資格研修事業、居宅介護支援等の事業を全国各地に展開しております。私はこれまで通所介護事業と重度訪問介護事業に携わることが多かったので、本稿では高齢者・通所介護と障害者・重度訪問介護の違いを私なりの視点でお伝えしたいと思います。

通所介護は施設介護です。スタッフは朝利用者を利用者ご自宅まで送迎車で迎えに行き、施設に到着後バイタルチェックから始まり、入浴介助、排泄介助、調理・食事介助、体操・レクリエーションなどをして夕方ご自宅にお送りします。業務はこうした直接的な利用者のケアだけでなく、事務作業や清掃も含むので、スタッフ同士一丸となって数々の業務に同時平行で取り組んでいかなくてはなりません。当社の通所介護施設は同性介助を原則としていますので、今日は男性利用者が多いなと思ったら、男性スタッフが男性利用者の入浴・排泄介助をしている間、女性スタッフは積極的に体操・レクリエーション、清掃その他の業務をこなしていきます。逆もまたしかりです。また、スタッフ自身が業務のそれぞれに得意・不得意があります。体操・レクリエーションは上手でも事務作業は苦手だったり、入浴介助を率先してやる方と極力避けようとする方、時間内に調理ができる方と何事も時間配分を間違えがちな方、元トラック運転手のドライバーとペーパードライバーのため送迎担当を任せられない方、等々一緒に働くスタッフの個性と能力は本当に様々です。その上、1+1が2ではなく4にも-5にもなってしまうスタッフ同士の人間関係。これらを加味してすべての業務を営業時間内に収めなくてはならないので、言ってみれば難題を次々とクリアしながらゴールを目指す時限付き迷路のようです。それゆえ、利用者の要望を第一に聞きながら、その日一日の利用者とスタッフの集団生活を安全・安心なものとするには、リーダー職のスタッフとフォロワー側のスタッフとの協力関係が鍵となります。また、利用者の大多数が軽度であれ重度であれ認知の症状があります。同じことを何度も言ったり、今自分がいる場所がどこか分からなかったり、施設内を一日中歩き回る利用者もいます。よって、高齢者施設においては、スタッフがある程度利用者を誘導しなくては一日のスケジュールが停滞してしまいます。こうした施設の在り方は当社のデイサービスだけでなく、同業他社においてもおおよそ同じことが言えるのではと思います。

一方、重度訪問介護は一対一のケアになります。他のスタッフはその場にいないので、何かおきても安易に助けは呼べません。ケア現場におけるスタッフ同士の人間関係からは脱却できますが、利用者と信頼関係を築かなければなりません。重度訪問介護は一回の支援時間が長いので、仕事とはいえ他人同士が二人きりでその日一日を共有することになります。それゆえある程度お互いの相性もモノを言いますし、一人の人間の生活なので、時間はその利用者に合わせたスピードで流れていきます。また、障害福祉サービスの利用者は、若い方から高齢の方まで年齢層は幅広いです。そして、とくに身体障害の方は判断能力がスタッフと同等かむしろそれ以上と思われる方々ばかりなので、スタッフが利用者に認知症状のある高齢者と同じような接し方をしたり、利用者をスタッフの意向に従わせようとすると、利用者はそのスタッフに嫌悪感を示します。一方、どの利用者からも信頼が厚いスタッフは傍から見ると利用者の黒子のようだったりします。決してスタッフ自身が前には出ずにまるで利用者の手足であるかのように目配り・気配り・心配りをして介助をしています。

高齢者・施設介護も障害者・重度訪問介護もそれぞれそれなりに難しい仕事です。高齢者・施設介護は例えてみれば、監督の指揮下、フィールドでキャプテンとプレーヤーが走りながらチームでボールを大胆かつ慎重にゴールへ運ぶサッカーのようなところがあり、障害者・重度訪問介護はプレーヤーがキャディと相談しながら一打一打二人三脚でHit & Walkをするゴルフのようなところがあります。高齢者・施設介護のスタッフはサッカーチームのキャプテンまたはプレーヤーであり、障害者・重度訪問介護のスタッフはゴルフ競技のキャディです。ここがポイントなのですが、障害福祉サービスにおいてはフェアウェイのメインプレーヤーはスタッフではなく利用者です。介護でもなんでも、仕事というものはプレーヤーであるべきといった方が美しく感じられますが、障害者・重度訪問介護においては利用者がプレーヤーなので、スタッフすなわちヘルパーの役割は自分がプレーヤーとして輝くことではなく、利用者を最大限引き立たせることになります。

サッカー選手とゴルフキャディの共通項がボールを使うスポーツに関わることだとしたら、高齢者・施設介護と障害者・重度訪問介護の共通項は介護に関わる専門職という程度のものでしょう。そしてそれぞれが法律とケア環境を座標軸にしたグラフの真逆にあるといった感じです。それゆえ、なんらかの介護職の経験が豊富でもこのグラフを理解して行動に移せる方だけが、ご自身の経験を今の重度訪問介護のケア現場に活かしているようです。私は採用業務にも携わることが多いのですが、当社の重度訪問介護事業での就業を希望してくださる介護職経験者の中で一番多いのは高齢者・施設介護経験者です。また、異業種からの転職で当社を応募してくださる方も本当に嬉しくありがたいことに多数いらっしゃいます。営業や販売の仕事をされてきた方が多いかなという印象です。採用する側から見ると、そうした応募者の方々はプレーヤーサイドの仕事の経験者ということになります。理由は様々だと思いますが、採用後、高齢者・施設介護経験者の方にせよ、異業種から転職されてきた方にせよ、利用者というプレーヤーを引き立たせるサーバント業務ともいえる重度訪問介護従事者にすんなり馴染める方はそれほど多くありません。おそらく、今までその方自身が社会と組織で培ってきたプレーヤー意識を真逆に変えることにかなりの心の柔軟性を必要としているのでしょう。

私は当社の通所介護事業と重度訪問介事業を行ったり来たりしたのですが、チームプレーが大切な通所介護事業部にいたときにサーバント業務ともいえる重度訪問介護従事者の経験が活きるときがありました。それはその施設での勤続年数が比較的長いスタッフと接するときです。こうしたスタッフの多くは、監督もリーダーも利用者もいる今日の集団生活の中でなぜかキャプテンマークをつけていないキャプテンを務めたくなる傾向があるように思います。常勤職員としては、今日一日をつつがなく終えることが業務ですので、利用者だけでなくチームのメンバーにその日一日を気持ちよく過ごしてもらうために、最大限の目配り・気配り・心配りをして、時にリーダーとして、時にサーバントとしてその場で自分自身を自分で采配していく必要があります。今自分はサーバントであるべきだなと判断したら、すぅっと自分を今日のチームの黒子に変えていきます。重度訪問介護従事者の経験が活きる瞬間です。当社で通所介護事業と重度訪問介事業のどちらも経験したスタッフはあまりいないのですが、数少ない両刀使いのスタッフと話をするとき、この違いと共通点についていつもとても盛り上がります。


吉岡理恵

1981年東京都生まれ、東京都立大学経済学部卒業、大学在学中にオーストラリア、マッコーリー大学に公費留学、帰国後法律系事務所でOLとして働く、2014年東京都職場体験プログラムを機にESLのデイサービス、ユースタイル諏訪ノ森で介護職デビュー、2016年より常勤職員として土屋訪問介護事業所の重度訪問介護事業に参加し各地のマネージャーを務め現在に至る、2018年介護福祉士登録、OL時代にフルマラソンに挑戦し完走8回、趣味は料理と読書