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『シーラという子』トリイ・ヘイデン著/入江真佐子訳/早川書房

『シーラという子』トリイ・ヘイデン著/入江真佐子訳/早川書房

高山力也




この本との出会いは、確か私がまだ学生のときだったんじゃないかと思います。
当時の私は『24人のビリー・ミリガン』や『アルジャーノンに花束を』でダニエル・キースにはまり、そのD.キースが推薦する本ということで、本書を手に取ってみた次第です。
著者のT.ヘイデンはアメリカ合衆国の児童心理学者で、特殊学級の教員を務める傍ら、本作を始めとした数々の文学作品を執筆していることで知られています。

さて件の『シーラという子』ですが、齢六歳半にしてIQ180という類稀な知能をもった少女にまつわるノン・フィクションです。
この物語は「十一月の寒い夕方に、女の子は三歳の男の子を連れ出し、その子を近所の植林地の木にしばりつけて火をつけた」という非常にショッキングな出だしで始まります。
それから一月のある日に、何ら背景説明もないまま、その子「シーラ」が著者のうけもつ特殊学級の教室にやってきたそうです。
著者いわく「艶のない髪に敵意むきだしの目をしたちっぽけな子ども」が。

教室に連れてこられたシーラは、当初まったく周りと馴染もうとはしませんでした。
そんなシーラに対して、クラスメートは「おしっこみたいな臭いがする」などと詰ります。
こうして只でさえ頑なシーラをさらに意固地にさせてしまいます。
物語の前半はこのように完全に心を閉ざした少女と著者との壮絶な戦いの繰り返しでした。

ところが物語が進むにつれ、やがて何故シーラがこのように至ったかの背景が明らかにされてゆきます。
「あたし、ぜったいに泣かないんだ」
「誰もあたしを痛めつけることはできないんだよ。あたしが泣かなければ、あたしが痛がっていることはわからないでしょ。だからあたしを痛めつける事にはならないんだよ」
「だれもあたしを泣かせることはできないんだよ。あたしをぶつときのおとうちゃんだってそうだよ。校長先生だってそう。見たでしょ。校長先生に棒でぶたれたときだって、泣かなかった。見たでしょ?」
本作は絶望的な状況にあった一人の少女の「救い」の物語だといえましょう。

そして本作のもう一つの特徴として、物語のクライマックスでこれまた私の大好きなサン・テグジュペリ作の『星の王子さま』の引用が散りばめられていることです。 例えば著者とシーラが遂に邂逅するシーンでは、『星の王子さま』の王子さまとキツネとの出会いのエピソードが彩りを添えています。
「誰かを飼いならしたら泣いちゃうんだよね?あの本の中で、二人ともずっと泣いていたけど、あたしはなんでなのかよくわからなかった。泣くのは誰かにぶたれたときだけだとずっと思っていたから」
正直この描写だけで、誰でも涙腺ウルウルじゃないでしょうか(笑)。

精神障害や障害児に関わる方々だけでなく、広く福祉関係に携わる方々に是非とも読んでいただきたい一冊と断言できます。



【略歴】高山力也
某国立大学大学院を修了後、H11年に当時まだ珍しい再生医療を扱うバイオベンチャーに就職、先端医療領域での新規事業立ち上げに携わる。その後、生殖補助医療領域でのMRを経て、H19年大手ITベンダー系の事業会社に転職、バイオテクノロジーやヘルスケアを専門領域として投資活動や大学との共同研究を手掛ける。またその傍ら、医療経済などに関する見識も深める。H21年に独立、診療所や介護施設の開設支援コンサルを手掛け始める。このときの経験から介護・福祉領域での仕事のやりがいに目覚め、弊社ユースタイルラボラトリー株式会社にはH29年5月より参加。名古屋事業所や北九州小倉事業所など日本全国各地での新事業所立ち上げに関り、現在は土屋訪問介護事業所甲府を担当している。