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「中庸」が仇となることも ~重度訪問介護事業でのマネジメントにおける気付き~ 

「中庸」が仇となることも ~重度訪問介護事業でのマネジメントにおける気付き~

吉田政弘



   私は高校1年生の時、アリストテレスの「中庸」という言葉を知り、頭を殴られるような衝撃を受けたのを覚えている。

 アリストテレスのいう「中庸」とは「過剰」と「不足」を調整するものであり、過剰と不足を足して2で割った状態が、バランスが取れていて最適であるという考え方である。 
つまり、何事も行き過ぎてはいけないし、また不足であってもならない。幸福な状態はその中間、つまり中庸にあるという考え方である。現在使われる「中庸」の意味は、東洋哲学の意味も含まれ、極端ではないこと、偏っていないことを意味するとされているが、そこには道徳的、倫理的に好ましいという意味が含まれている。

 極端な意見ではなく、その中間のバランスの取れた部分が最適であり、大事だという、現代ではあまりにも当たり前な考え方であるが、私が衝撃を受けたのはその考え方が唱えられた時代背景にある。
 当時のギリシャはプラトンやソクラテスを始めとした哲学的な議論が活発であり、議会や法廷などで聞いている人を魅了し説得する、あるいは押し切るための実践的な「雄弁術」が隆盛を極めていた。
 「これはこうだが、そちらの主張ではこうなる、どういうことか!?」
 「いやいや、その主張で考えると逆にこうなるじゃないか、それについてはどう説明するのか!?」
という議論が繰り広げられる中、アリストテレスの主張は「どちらも一理あるけど、極端すぎて本質を見失っている。間を取った考え方が最も幸せになるよ。」というものである。

。。。確かに!!!!!

プラトン、ソクラテスの考え方を学び、当時のギリシャ青年はローマに雄弁術・弁論術を勉強するために留学していたという。雄弁術・弁論術を学び、自分の考えとは異なる主張でも、お題を与えられればそれを納得させ、論破するためのロジックを組み立て、弁論術を鍛えたという。
対立する意見・主張を敢えて戦わせている状況の中、「中庸」という考え方を敢えて提唱したアリストテレスの考え方・発想に私は感銘を受け、それ以降私の人生の渡り方にも「中庸」という考え方が常に影響を与えている。

当たり前すぎる考え方だけど、今言う?という状況に対する驚きと、でもそれが確かに一番幸せだという、聞き手の実体験に即して考えてもそれがベストな答えだと納得してしまう説得力、そしてそれを裏付けてしまうアリストテレスの実績と人間性、全てが私を感動させた。

アリストテレスは「万学の祖」と言われるように、形而上学、倫理学、論理学といった哲学関係のほか、政治学、宇宙論、天体学、自然学(物理学)、気象学、博物誌学的なものから分析的なもの、その他、生物学、詩学、演劇学、および現在でいう心理学なども含め、あらゆる学問を整理した人物である。
現在の英語の哲学「フィロソフィー」という言葉の語源は、アリストテレスの「人間の本性は知(ソフィア)を愛する(フィロ)」という考え方から来ているぐらい現在の哲学にも影響を与えている人物である。
さらに、アリストテレスは世界の歴史上2番目の広大な帝国を築いたマケドニアのアレクサンドロス大王の家庭教師をしていた人物でもある。(因みに1番はチンギス・ハンです。)

 実際、アリストテレスの著書「弁論術」の中で、説得の三大要素は①「話す人の人柄」②「聞く人の気分」③「話の内容の正しさ」と述べられており、上記の「中庸」という考え方の説得力においても①アリストテレスの実績、②極論を戦わせる時代背景とそれに対する疑問、③実体験を基にした実感からの信憑性が私を感動させたものと思われる。

 この、極論ではなく、バランスを見た考え方はビジネスマンのリーダーシップにおいてもとても大事な考え方だと思う。
 特に重度訪問介護は制度上曖昧な部分(これが介護保険と違い、重度障害者の全てのケアを提供できるという良さもあるが。)が多いため、間を取った考え方やバランス感覚を持った考え方が求められる場面が多い。

 一方で、常に間を取る考え方やバランスを考慮した判断は時に制度やチームの秩序を乱してしまい、公平性に欠ける判断となってしまうことがある。私は最近、主張が激しい利用者やスタッフの意見に引っ張られてしまい、「中庸」のバランスが崩れ、ケアやチームの不公平感を醸成してしまうことが何度かあった。
 あらゆるビジネス書を読んでもリーダーたるもの明確な判断基準を持つべきと記載されているが、自分の「中庸」の考え方がいつしかこれを阻害してしまっていると感じることがあった。ビジネス、リーダーシップにおいては「白黒」はっきりさせることが求められる場合もあり、チームの統率を図るためにはむしろリーダーはそうあるべきという場面が多々ある。

アリストテレスは私が尊敬する歴史上の人物であるが、彼は天動説を唱えた人物であった。以降1000年以上も、「偉大なアリストテレスが言うんだから、、、」ということで天動説はひっくり返されなかったが、コペルニクスが地動説を唱えた事象については「コペルニクス的転回」という言葉でカントが180度物事の見方を変えることという比喩で使っている。

私も「中庸」という考え方に魅了され続け、特に重度訪問介護のマネジメントにおいて常に意識し続けてきたが、重度訪問介護従業者が時には会社への不満、時には利用者からのハラスメント等で減り続け、重度訪問介護制度自体の存続可能性に危機感を持っている中、その考え方が仇となる可能性もあることを認識し、発送の転換を図っていく必要があると感じている。

 制度上の曖昧さ、組織のガバナンスにおける曖昧さに常に「中庸」を求めるのではなく、白黒が必要な部分を見極めていく視点を持ち、制度の安定的な存続を模索していきたい。
 重度訪問介護制度の従業者が減っていくことによる制度の綻びや反動は絶対に回避しなければならない。未来に向けた新しいステップを歩んでいく必要がある。常に発想の転換を図っていく必要があると感じている。


【略歴】吉田政弘(1982年12月生 37歳)
H18:一橋大学経済学部卒業
H18~H27: 中小企業専門の政府系政策金融機関
(H23~H24:経済産業省中小企業庁に出向)
H27~H30:国内経営コンサルティングファーム
H30~:ユースタイルラボラトリー㈱(現職)

 高校時代に父がリストラを受けて失業した経験から経済学の勉強を志し、一橋大学経済学部に入学・卒業(H18)。
 福祉業界への就職を考えるも、給与面等現実的な問題から断念。中小企業の安定・発展に貢献するという考えから、中小企業専門の政府系政策金融機関に就職。そこで様々な業界の慣行や業界特性を学ぶ。
 H23~H24の2年間は経済産業省中小企業庁に出向。国会議論を通じた支援法、支援施策の策定プロセスや予算要求プロセスを経験し、国策の成立プロセスを体験。
 H27には企業側に立った事業再生コンサルティングを志し、国内経営コンサルティングファームに転職。そこでの介護施設再建の経験から介護業界の発展の一助を志し、自身も介護業界に身を置くことを決意。
 H30ユースタイルラボラトリー㈱と出会い、様々な重度訪問介護の現場を経験し、現在は「すべての必要な人に必要なケアを」届けるという理念の下、業界発展への貢献を目指して日々奮闘している。