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「共依存」にご用心!

「共依存」にご用心!

吉田政弘



 重度訪問介護の現場では、「共依存」という現象が稀に起こる。
 「共依存」とは、読んで字の如く、利用者様とヘルパーが互いに依存し合う現象である。

 互いに依存し合って何が悪い、美しいではないか、と一瞬思ってしまうが、この共依存という現象は結果的に利用者様の在宅生活を脅かすことになってしまうので、注意が必要である。
 共依存は介護のどの現場でも起こりやすい現象であるが、重度訪問介護の現場においては、共依存になりやすい条件が他の介護現場よりも多く、また、共依存になったことによる利用者様への影響も大きいため、特に注意が必要である。

 そもそも介護の仕事をしている方は少なからず「人の役に立ちたい」というホスピタリティの気持ちを持っている。支援に入る利用者様の要介護度合いや障害の状態が重ければ重い程、「何とかお役に立ちたい、何でもして差し上げたい」という気持ちが強くなる傾向がある。この気持ち自体は「介護」を成り立たせている崇高な考え方だと思うし、私が介護に携わる方を尊敬している一番の理由でもある。私自身も少なからず持ち合わせている。

 翻って、支援を受ける利用者様側から見るとどのようなヘルパーがありがたいと思うか。私が今まさにこの瞬間に重度の障害者となり、支援を受けるとすると、それこそ自分がやってほしいことを何一つ嫌な顔をせず、何でもやってくれるヘルパーがありがたいと思うだろう。介護を「仕事」と割り切って出来ること、出来ないことを説いてくるヘルパーよりも、自分の気持ちにどこまでも寄り添ってくれ、何でも嫌な顔をせずにやってくれるヘルパーを好むと思う。つまり、ホスピタリティの気持ちが強いヘルパーを好むし、逆にそのヘルパーのホスピタリティの気持ちを助長するような演技をしてしまう可能性さえ勘ぐってしまう。

 重度訪問介護の利用者様は「重度」の障害をお持ちの方が支援対象であり、また支援時間も10時間前後とかなりの長時間になる。基本的に利用者様と1対1の状態であり、施設等のように目の前のことを逐一相談できる同僚がその場にいる訳でもない。
 一方で、ヘルパーが圧倒的に不足している中、土屋訪問介護事業所も積極的に介護未経験者の採用を進めているが、介護においてやっていいこと、やってはいけないこと、注意点などを経験的に心得ていないヘルパーも多い。つまり、障害者総合支援法の趣旨でもあるが、「総合的に」≒「何でもやってよい」ということで、どこまでも自分のホスピタリティマインドに従い、求められたことをしてしまうヘルパーが多い。
 このような利用者様とヘルパーの精神構造がぴったりと噛み合った時、「共依存」という現象が起きやすい。

 では「共依存」状態となった時、どのような事態が起こるか。
 利用者様側としては何でもしてくれるヘルパーを極端に好むようになり、そのヘルパーを何とかして独占したいと考えるようになる。そのヘルパーにより多く支援に入ってもらうように事業所側に要請し、そのヘルパー以外のヘルパーを排除していくような行動を取るようになる。「お気に入りのヘルパーさんはここまでしてくれたのに、あなたは出来ないの?もう来ないで。もうこの人以外を支援に入れないで。」という具合である。
 一方、利用者様から特別扱いで気に入られたヘルパーは、少なからず他のヘルパーよりも優越感を感じ、また、自分を必要としてくれている利用者様への情も増長し、より一層求められることを実施し、期待に応えようとしてしまう。利用者様からのNGも多い重度訪問介護の仕事において自分だけが求められるという事態は正直言ってヘルパー冥利に尽き、嬉しいものである。

 この状態を放置すると、最終的には利用者様とそのお気に入りのヘルパーのみの状況となってしまい、他にその利用者様の支援に入れるヘルパーがいなくなってしまう事態となる。
 一方、そのお気に入りのヘルパーに「自分の人生も全て捧げ、一生その利用者様の支援を続けられるか?」と問うと、そこまでの責任は持てないという場合が多い。
 重度訪問介護の利用者様の在宅生活は相談員、ケアマネ、在宅医、複数の訪問看護、複数の訪問介護事業所・重度訪問介護事業所、ご家族等様々な関係者が連携を図って支え、それにより初めて安心を提供できるものであり、それらの連携を壊してしまっては在宅生活の継続を脅かす結果になってしまう。
 そのような事態を招いてしまったヘルパーも結果的に自分の行動によって利用者様の生活を脅かしてしまった事実に後味の悪い思いしか残らなくなってしまう。

 重度訪問介護事業のマネジメントをしていると、上記の兆候に度々出くわすことがある。このような場合、「お気に入りヘルパーのみにしてくれ」や、「その他のヘルパーを外してくれ」という利用者様のオーダーに対して会社としてお断りすることになる。  現場でその利用者様と長時間を共にしている現場スタッフからすると「(利用者様のオーダーを)聞いてあげてもいいのに、、、」と思われるような事でも、お断りせざるを得ない場合もある。そうしなければ最終的に利用者様の在宅生活の継続を脅かすことになってしまうからである。

 私が「共依存」という言葉を初めて聞いたのは、ユースタイルラボラトリー株式会社のユースタイルカレッジが実施する「重度訪問介護従業者養成研修 統合課程」である。この時、ユースタイルカレッジ講師からも「共依存」の危険性について説明を受けたが、講師として来てくださった障害当事者の方も「共依存」には気を付けていると仰っていたことに衝撃を受けたのを覚えている。当事者講師の方は「ヘルパーとは一線を引いて付き合っている。依存しすぎると最終的に裏切られた場合に自分が傷つき、自分の生活も危うくなる。」と仰っていた。つまり、様々なヘルパーと長期間に渡って付き合っておられる当事者の方でも「共依存」には注意しているということである。「共依存」はもちろんヘルパー側、事業所側も注意するべきことであるが、利用者様側にとっても注意すべき事象と言える。

 「入り込みすぎない」というと少し寂しい感じもするが、長い目で見ればそれが利用者様の在宅生活の継続に必要な考え方であり、ホスピタリティの精神に溢れる介護職員にとってのプロの条件として認識しておくべきではないかと思う。



【略歴】吉田政弘(1982年12月生 37歳) H18:一橋大学経済学部卒業 H18~H27: 中小企業専門の政府系政策金融機関 (H23~H24:経済産業省中小企業庁に出向) H27~H30:国内経営コンサルティングファーム H30~:ユースタイルラボラトリー㈱(現職)  高校時代に父がリストラを受けて失業した経験から経済学の勉強を志し、一橋大学経済学部に入学・卒業(H18)。  福祉業界への就職を考えるも、給与面等現実的な問題から断念。中小企業の安定・発展に貢献するという考えから、中小企業専門の政府系政策金融機関に就職。そこで様々な業界の慣行や業界特性を学ぶ。  H23~H24の2年間は経済産業省中小企業庁に出向。国会議論を通じた支援法、支援施策の策定プロセスや予算要求プロセスを経験し、国策の成立プロセスを体験。  H27には企業側に立った事業再生コンサルティングを志し、国内経営コンサルティングファームに転職。そこでの介護施設再建の経験から介護業界の発展の一助を志し、自身も介護業界に身を置くことを決意。  H30ユースタイルラボラトリー㈱と出会い、様々な重度訪問介護の現場を経験し、現在は「すべての必要な人に必要なケアを」届けるという理念の下、業界発展への貢献を目指して日々奮闘している。