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よきリーダー4

よきリーダー4

吉岡理恵




いいリーダーの素養は、バランスを保てることだと思っています。コラムのどこかで学んだ、中庸という言葉も相応しいと思います。そして重度訪問介護事業においてこのバランスをどこでとるかは、利用者、仲間、事業者、関係者、自分、です。この五つの焦点で五角形を描いたとき、その五角形をまず正五角形にし、その正五角形の面積をより広くできる人材が、重度訪問介護事業のいいリーダーだと思いますし、当社の主たるリーダーたちを眺めていて浮かんだ図柄です。

重度訪問介護における危険なケースとして、利用者と職員の共依存の関係が想定されます。一人の職員が、利用者からの依頼通りの日時に期待以上の支援をして、利用者からご指名が入るようになり、自分の承認欲求が満たされた嬉しさのあまりもっともっといい支援をと、利用者の要望のほぼすべてに応えることができたという手応えを感じると、その職員が自分と同じ水準かつ同じ勤務体系で支援のできない他のスタッフに利用者とともに不満を抱き、自分以外にその利用者の支援を任せられる職員はいないと思い、かつ利用者もその職員以外のスタッフの勤務は不安で仕方ないと訴えるため、その職員は致し方なく、しかし一方でその利用者から真の信頼を得たという自分自身の価値を維持するために、その職員自身のプライベートを放り投げてシフトに入った末、青白い顔をして休みなく働く職員とその職員にすがるしかない利用者の関係が築きあがってしまったら、これは典型的な共依存の関係といえます。利用者に対しても、仲間である他のスタッフに対しても、事業者として利用者と契約した組織に対しても、調整役のケアマネージャーや同業他社に対しても、自分自身に対しても、バランスが崩れてしまったといわざるを得ません。

ここまでの典型的で危険な共依存の関係はそうそうなくとも、似たようなエッセンスのある関係は想像に難くない、というのが重度訪問介護従事者の感覚ではないでしょうか。そしてこのバランスの崩れを、より正しい在り方に軌道修正することは理屈でも感情でも分かっていても、本当に難しいことです。そもそも重度訪問介護の利用者は、重度の障害をお持ちか、進行性の難病を抱えているため、その境遇に職員は人間として同情せざるを得なく、かつ利用者からも同情を乞われるというところがあります。そしてときに死と隣り合わせの痛みや苦しみの軽減が職員自身の力でできるなら、少しでも力を貸したいし、そもそも利用者から目の前で訴えられたことを退けることはできないというのが職員の人間としての本能なのだと思います。

さらに重度訪問介護は利用者の生活空間で行われます。そこにプライバシーは本当にほとんどなくなります。一つ屋根の下で、同じ空気を吸って、同じ部屋で、同じトイレを使って、かつ利用者が助けを必要とする日常所作に、その都度利用者の肌に触れて手を貸して一日を過ごすのです。そうした環境下では、利用者は客であり、事業者は訪問介護員を派遣するという契約書面上の表層的な関係は崩れがちになり、家族ではないけれども家族のような、もっと原始的な人類という言葉が意外にも相応しく感じるような、人間の本能に基づく関係性が築かれるような気がします。

ゆえに重度訪問介護事業のリーダーには、この人間の本能の操作によって生じてしまう利用者と事業所の訪問介護員という関係性の崩れを、利用者と事業所の訪問介護員という表層的な関係に留めおく意志が求められると思っています。それはこの表層的な関係性の維持こそが、実はこの事業そのものの維持存続の要だと考えられるからかもしれません。事業であるがゆえ、事業者と利用者にサービス提供者・サービス需要者という取引関係を成立させて収益を出さないと組織としての土台が崩れます。組織の土台が崩れるということは、その事業体で働く自分と仲間の生活が揺らぎます。そして組織が維持存続されなければ利用者へのホームヘルプサービスも提供できなくなり、業界として常に人手の足りない同業他社に今以上の負担を押し付けることになるか、利用者が切に願う在宅生活を奪ってしまうことに繋がります。

だからこそ、この五角形を正五角形に保ちながらその面積を広げていくことがいいリーダーの素養なのだと思っています。正五角形を正五角形として保つために、ときに客である利用者に対して、命と生活に困難を抱える一人の人間であることを十二分に認識しつつも、サービスを需要する何万人の客の一人としてこの制度を使っていただきたいという非情な理解を求め、利用者と職員の強い信頼関係をおかしいだ危険だのと言って遮断しようとし、リーダー個人の心の平静をかろうじて保ちながら、五角形の内角108°をギリギリ維持する苦渋の判断と決断をする責務が、重度訪問介護事業のリーダーに求められているように思います。それは、事業者やリーダー個人の私的な利益のためではなく重度訪問介護利用者にずっとこの制度を使って住み慣れた家で生活してほしいと一人の人間として願うからこその言動です。そして、当社の主たるリーダーたちはこの思いをすべての必要な人に必要なケアを、という表現をもってすべての職員が同じ方向を向くように、自分たちの事業体が重度訪問介護事業者としてより正しい道を選択できるように、その都度光の矛先を定めていっているように思います。大仰になりましたが、これが(重度訪問介護事業の)いいリーダーとは、の今の私なりの回答です。



吉岡理恵

1981年東京都生まれ、東京都立大学経済学部卒業、大学在学中にオーストラリア、マッコーリー大学に公費留学、帰国後法律系事務所でOLとして働く、2014年東京都職場体験プログラムを機にESLのデイサービス、ユースタイル諏訪ノ森で介護職デビュー、2016年より常勤職員として土屋訪問介護事業所の重度訪問介護事業に参加し各地のマネージャーを務め現在に至る、2018年介護福祉士登録、OL時代にフルマラソンに挑戦し完走8回、趣味は料理と読書