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「生」と「死」に向き合う仕事 

「生」と「死」に向き合う仕事 

吉田政弘



 皆さんは自分が進行性の病気になった場合、その病気が今後どのように進行し、自分がどのようになっていくのかを知りたい派か知りたくない派かどちらだろうか。
 私は知りたくない派だと思う。実際にそのような境遇になったら知りたくなるかもしれないが、現時点では知りたくないと考えている。

 重度訪問介護では「生」と「死」について、自分に置き換えて考える場面が多々ある。逆に言えば、利用者様は「生」と「死」について真正面から向き合い、気高く毎日を生きておられる。
 
 人工呼吸器を付けない選択、人工呼吸器を付けて子供や孫の誕生・成長を喜ばれる姿、人工呼吸器を外して欲しいとご家族やヘルパーにお話しされる姿(もちろん「安楽死」は認められていないので外すことはできない)。重度訪問介護では様々な場面、考えに出会う。例え発せられる言葉が後ろ向きな発言であっても、そのお言葉には、今の私には到底想像さえ及ばない「生」と「死」の重みがあり、私に考える機会を与えてくださる。

 最近、病気の進行についての考え方に対照的なお二方に出会った。
 一人は自分の病気の進行の仕方や今後の病態について「知りたくない」という方であり、我々ヘルパーに対しても他の同じ病気の方の話をしないようにと仰る方である。私もこの考え方に共感しており、自分が病気になった時も同じようにヘルパーに依頼すると思う。
 ここからは私の考えであるが、知ったとしてもそれは所詮他の人の症状であり自分がそうなるとは限らない、行く先を知らなければその都度楽天的な考え方で精神を保つことが出来る、どうなってもそれが運命と考えることができる、等々の思いから私は知りたくないと考えている。まさに「知らぬが仏」的な考え方である。

 もう御一方はその病気の今後の進行や自分がどうなっていくのかを「全て知りたい」という方である。
 その方のお話しは、今後の進行の仕方を知った方が心積もりができる、そのステージに備えて先手を打って考えることができる、最後まで自分らしさを保った姿を維持できる、等々の考え方から知りたいというものである。正直なところ今の私にはピンと来ない、逆に自分らしさを保つ自信が無い考え方である。

 重度訪問介護では上記両方の利用者様の支援に入ることがあるが、例えば私が後者の全て知りたいと仰る利用者様の支援に入った時、包み隠さず全てを教えてくれと言われても、包み隠さず全てを話すことができるかと言われると分からない。
 逆に私が病気になって今後の症状を知りたくないと思っている時に、知った方がよいと考えるヘルパーが全てを教えてきたら平常心でいることはできないと思う。

 普段、人間は「死」への恐怖を回避し、精神の平静を保つために「死」を考えないようにできているという。「死」を考えないため、その対となる「生」についても深く考えるというよりは日々当たり前のものとして生きている人も多いのではないかと思う。そんな中で重度訪問介護の現場に入り、利用者様から上記のような「生」と「死」を考え抜いた問い掛けや依頼に遭遇した時、戸惑って何も言えずに終わってしまう。安易な肯定も出来ないし、かといって否定できる程その利用者様と同程度にそのことについて考え抜いたこともない。まさにタジタジという状況である。しばらくの期間重度訪問介護に従事したヘルパーであれば同じような経験をしている方は多いのではないかと思う。
 このような場合、私は素直にその問い掛けをいただいたことにお礼を申し上げる。その言葉、その問い掛けに同調も肯定も否定もせず、その問い掛けが自分の「生」と「死」を考えるきっかけになったことについてお礼を言うようにしている。そしてちゃんと家族や同僚とその話題について話をし、その利用者様の考えや思いについて一人ではなく複数人で考えるようにしている。

 重度訪問介護では対応の仕方に正解はない。
 例えば進行の行く末を「知りたくない」派の利用者様に対し、私も「知りたくない」派だからと言って変に同調したり、気持ちを慮って「優しい嘘」をついたりすることが正解という訳ではない。
 逆に「知りたい」派の人に対してありのままの事実を全て伝えることも正解とは言い切れないし、「優しい嘘」を交えてオブラートに包んだ伝え方をすることも正解とは言い切れない。

 私のお礼を申し上げるという対応も正解という訳ではないと思うが、少なくとも私はその利用者様が発した言葉一つ一つを真剣に受け止め、その瞬間にその利用者様と関りを持っている人間として、同じように「生」と「死」に向き合う機会にしたいと考えている。

 重度訪問介護は「生」と「死」を真剣に考えるきっかけとなる仕事である。私はこの仕事を通じて「生」について真剣に考えることができており、自分の人生を豊かに、有意義なものに出来ていると感じている。まだまだお役に立てていないことも多いが、この仕事、利用者様に感謝している。
 重度訪問介護はそんな仕事である。


【略歴】吉田政弘(1982年12月生 37歳) H18:一橋大学経済学部卒業 H18~H27: 中小企業専門の政府系政策金融機関 (H23~H24:経済産業省中小企業庁に出向) H27~H30:国内経営コンサルティングファーム H30~:ユースタイルラボラトリー㈱(現職)  高校時代に父がリストラを受けて失業した経験から経済学の勉強を志し、一橋大学経済学部に入学・卒業(H18)。  福祉業界への就職を考えるも、給与面等現実的な問題から断念。中小企業の安定・発展に貢献するという考えから、中小企業専門の政府系政策金融機関に就職。そこで様々な業界の慣行や業界特性を学ぶ。  H23~H24の2年間は経済産業省中小企業庁に出向。国会議論を通じた支援法、支援施策の策定プロセスや予算要求プロセスを経験し、国策の成立プロセスを体験。  H27には企業側に立った事業再生コンサルティングを志し、国内経営コンサルティングファームに転職。そこでの介護施設再建の経験から介護業界の発展の一助を志し、自身も介護業界に身を置くことを決意。  H30ユースタイルラボラトリー㈱と出会い、様々な重度訪問介護の現場を経験し、現在は「すべての必要な人に必要なケアを」届けるという理念の下、業界発展への貢献を目指して日々奮闘している。