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第一回連続学習会「優生思想と自己肯定」安積遊歩さん講演会 報告

第一回連続学習会「優生思想と自己肯定」安積遊歩さん講演会 報告

吉岡理恵




連続学習会の起案は今年の夏頃にあり、業務の合間に企画・調整を行い、2019年10月7日の当日を迎えることができました。講師の安積遊歩さん、参加者の方々、会場設営に協力くださったスタッフの皆様、心より御礼申し上げます。ありがとうございます。

第一回は、「優生思想と自己肯定」というテーマにつき、安積遊歩さんに登壇いただきました。優生思想とは、人には優劣がある、とする思想です。誰を優れているとして誰を劣っているとするか、実は誰も答えられないこの問いに対して、人類の歴史は自律性にその回答を置きました。そして、自制できること、歩けること、話せること、家庭環境に事足りないと思われる事項があること等々をもとに、より多くの言葉をもつ人たちが人の優劣を定めてしまいました。遊歩さんは骨が脆いという体を理由に幼少期からこの優生思想の犠牲となり、骨の弱さは男性ホルモンの投与で克服できるのではと注射され、自分の体を実験台のようにされてしまったそうです。そして施設で過ごした2年間は管理と監視下で、トイレの時間も決められている、人間の尊厳を奪われたようなつらい日々だったそうです。

ご息女の宇宙(うみ)さんには、自分と同じような目に合わせたくないと遊歩さんの想いを全て伝えてきたそうです。まずは名前。親であっても自分の呼ばれたい名前で呼んで欲しいと、宇宙さんは遊歩さんのことを「遊歩」と呼び、父親のことを「たけさん」と呼ぶそうです。それは母と父が、宇宙さんをお二方の元に訪れた対等の人間としてこの世に迎えた、そんな関係性に映ります。学習会では、元パートナーの石丸偉丈(ひでたけ)さんにも10分程ゲスト参加者としてお話いただきました。宇宙さんの子育てには本当にたくさんの方に助けていただき、その助けがなかったら僕たちは宇宙さんを育てることができなかったと仰っていました。石丸さんのメッセージは、宇宙さんが両親二人だけの子供というのではなく、宇宙さんの幼少期に母と父と子の三人と関わったすべての方が宇宙さんの親ともいえるような、コミュニティの子供であるというような印象を持ちました。

生まれたときは誰もが最重度障害者だったと遊歩さんは表現します。そして一人では食事を取ることも排泄の処理も着替えも何もできなかった赤ん坊は、人の助けとともに成長して、自分が人を助けることができるようになった頃から、人を助けることではなく、人と争うことを教え諭されていくのだと仰いました。その教諭は、人に勝つことが正解で、人に負けることが不正解だという価値観であり、他人と自分の違いに対するなぜという疑問を自分自身に問うことを喪失させてしまうように思います。

遊歩さんは想像力の乏しさも優生思想を導くと言っています。それは、他人や周囲の定めた価値観や指標を鵜呑みにして、何ら疑問をもたずに過ごしてしまうことといえるでしょう。そこでは、自分が違うと思ったことを違うと訴えてもいいのだという想像力を奪われ、他人のいう通りにすることが素直でよろしいと、自分自身の主権を奪われていくことのようにも思えます。遊歩さんは、間違っていると思うことは間違っていると言うべきだ、と仰います。そしていつも、嬉しい、よかったと思うことには笑顔で感謝の気持ちを表現されます。

遊歩さんは笑顔の絶えない方なのですが、体が小さいから、足が萎びているからと、平均値に近くなかったがために受けた差別は、成長するにつれ差別をなくすというエネルギーになったとしても、癒えることのない心の傷として笑顔の背後に隠されているように思います。そしてその傷が、言葉だけではなく体に切り刻まれているとしたら、それほど人への信頼を失うことはないでしょう。それでも遊歩さんは人を信用し、人に語り、また会いたい、と人に思わせる方です。この原動力が、遊歩さんのご自身に対する揺るがない信頼なのではと今回このテーマで遊歩さんに講演をお願いしました。

講演の最後に、遊歩さんは向き合うことをしてほしいと言いました。他人とも向き合い、自分とも向き合う。優生思想の根付くこの争いの社会は、自分と他人の違いを否とします。でも、人間の本質は違いを正としているはずなのです。だから争うことを知らない幼い子供はかけっこで転んだ友達を助けることに夢中になるのでしょう。優生思想の中にあっても、自分の心と体を信頼し、否には否を唱えた遊歩さんはエネルギーに満ち溢れています。遊歩さんは身長は低いのですが、キャラクターの明るさと強さのせいか、座って話しているときは少しも体の小ささを感じません。でも遊歩さんが起立すると自分が遊歩さんよりだいぶ大きな体であることに、申し訳ないという気持ちを抱きます。これこそが優生思想なのだと自戒し、第一回の学習会の報告とさせていただきます。



吉岡理恵

1981年東京都生まれ、東京都立大学経済学部卒業、大学在学中にオーストラリア、マッコーリー大学に公費留学、帰国後法律系事務所でOLとして働く、2014年東京都職場体験プログラムを機にESLのデイサービス、ユースタイル諏訪ノ森で介護職デビュー、2016年より常勤職員として土屋訪問介護事業所の重度訪問介護事業に参加し各地のマネージャーを務め現在に至る、2018年介護福祉士登録、OL時代にフルマラソンに挑戦し完走8回、趣味は料理と読書