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介護・介助サービスを利用する側にも厳守すべき作法がある その3

介護・介助サービスを利用する側にも厳守すべき作法がある その3

古本聡



さて最後に、利用者が介護・介助職との人間関係の中で、これだけは肝に銘じておくべき事柄、そして絶対厳守すべき事項を箇条書きで述べておきます。

(1) 最初からテキパキ何でもできて、またやってくれる介護・介助職はいる筈がないのだから、自分が育てるつもりで接するべし。
誰にでも初めてはあるし、経験不足の段階があります。それを責めたところで改善されることは何もありません。身体や命に直接的な危険がない限り、心を広く持ちましょう。人を育て、能力を高めて行こうとするとき、スパルタ方式だけでは失敗の確率が大です。短気は損気、って昔から言われますよね。

(2) それぞれの介護・介助職の得意分野を活かして、自分のサポートをしてもらう。
最も賢い人の使い方です。一人の介護・介助職にのたれこまない、過剰な依存をしない、ということです。

(3) 介護・介助職が失敗したとき、見ていなかった自分にも責任があり、自分の指示の仕方にも問題があるのではないかと考え、相手だけを責めないようにする。
建設的で前向きな考え方をしましょう。介護・介助人材は無尽蔵どころか不足しています。一つの失敗を責めて、相手の心を折らせてしまったら、代わりの人材はそう簡単には見つかりません。

(4) 介護・介助職のAさんはこうしてくれたとか、Bさんといると楽しい・・・など、介護・介助職同士を比べないようにすべし。

(5) 長時間勤務に際しては、疲れ過ぎないように時々休憩を取ってもらうべし。

筆者自身が障害を持っていなかったら介護・介助の仕事に就いただろうか、と時々考えることがあります。答えはNoです。第一、色々な意味で不器用過ぎて私にはやれないと思いますし、第二に、頭脳労働、肉体労働の他に、感情労働の高い能力が必要とされるこの仕事は、私には難解で複雑すぎると感じてしまうのです。

筆者が若い頃に大きな盛り上がりを見せた障害者解放運動は、主役の障害当事者による命がけとも言える闘争活動もさることながら、周囲に集まってきてくれた普通の学生さん、近所の八百屋のおっちゃんやら商店街のおばちゃんたち、その他の善意の賛同者、支援者、支持者の皆様方の温かく力強い応援と協力がなければ実現しなかったでしょう。なにせ、抗議活動するにも、その集合場所まで誰かに連れて行ってもらわなければならなかったのですから。また、日常生活においても、食事ひとつ、トイレに行くにしても介助を必要としていた人たちが集まっていたわけですから、そうした支援者・支持者から理解と実際の介助は無くてはならないものでした。ですから、人と人との繋がり、絆をとても大事にしていました。一方的にただやって貰う立場、善意に甘えるだけの立場に陥るな、と言うのが私たち障害当事者の共通認識でした。こういうことって、私たちと介護・介助者との関係に代金支払いというものが介在するようになった今でも、基本的には変わっていないのでは、と思うのですが、どうでしょうか。全員がそうだとは言いませんが、介護・介助職の方たちの殆どが、私たちに最も近い賛同者であり、支持者だと言えるのではないでしょうか。

私は、ESCの重度訪問介護従業者養成研修統合課程の中で、障害当事者の講話を担当させてもらっていますが、受講生の皆さんの殆どから障害当事者のことをもっと深く知りたい、介護のノウハウを学びたい、そして誠意を持って仕事に当たりたい、という熱意が伝わってきます。皆さん、いい加減な気持ちでやっているわけでは決してないのです。

その点を利用者一人一人に理解していただきたいと思うのです。

私自身、障害者ですから介護・介助職との関係では、利用者の立場になる訳ですが、最近、介護・介助職の立場に立って色々考えることが多くなりました。近い将来、私も障害の程度が今よりもっと重くなり、介護・介助職の助けがなければ生活できなる日もかなり高い確率で到来するでしょう。そうなった時、どうせやってもらうんだったら介護・介助職と楽しくやりたいと思っています。例えば、料理をするにしても、私はすべてお任せではなくて、なるべく一緒にいて油の音や焼けてきた匂いを楽しみたいとも思います。そういう楽しみこそが生活の喜びだからです。利用者の中にはあの介護・介助職は料理が下手だなどと言う人もいると聞きますが、私はそういう考え方も言動もしたくありません。お料理がおいしくないとしたら、それは味つけのときに私が見ていなかったということも考えられます。だとしたら、自分にも責任があり、指示がよくなかったとも言えるでしょう。それに、新人や若い介護・介助職さんが全てにおいてベテランの人に引けを取らないくらいスキルが高くある必要はありませんし、またそんなことはあり得ません。時と場合にもよりますが、ゆっくりでもいいから一緒に私のペースで、指示通り動いてくれる人の方がありがたく、また楽しいと思える時もあるでしょう。新人のヘルパーさんが何か失敗したとしても、それが極端なQOLの低下や命に関わることでもない限り、「今日はNGだったけど、次に来る時までに練習してきます!」と相手が言えるくらいの雰囲気があった方が、こちらも気持ちが良いのではないでしょうか。私は介護・介助職に初めから完璧を求めないようにしようと思っています。それよりも、一生懸命やってくれているかどうか、そして私の生き方の「賛同者」、「支持者」になってくれるかどうかで判断したいのです。

介護・介助職は自分にはできない仕事だと思っている私がこんなこと言うのも変なのですが、介護・介助職の皆さんには、心が折れそうになることもあると思いますが、是非とも問題を一つ一つ乗り越えていってもらいたい、また利用者の皆さんには、介護・介助職さんに対し人間的な思いやりを……、とお願いしたいと思います。
 

【略歴】 昭和32年生まれ、脳性麻痺1種1級、6歳からの5年間余、旧ソ連の障がい児収容施設での生活を経験した最初で最後の日本人。早稲田大学商学部卒、大学院生だった25歳より英語とロシア語翻訳会社を経営。16年4月よりユースタイルカレッジにて障がい当事者としての講話を担当。