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優生思想がわたしたちを殺す日

優生思想がわたしたちを殺す日

古嶋航太



統合課程の講師を務める際、受講者に対して必ず「優生思想」について説明します。時間の都合もあり、この思想について充分な説明ができていないのが心苦しいのですが、これは単に障がい者を差別する考え方ではないと知ってほしいと思っています。

「優生思想」に関して広辞苑では「優生学」として用語解説があり「人類の遺伝的素質を改善することを目的とし、悪質の遺伝形質を淘汰し、優良なものを保存することを研究する学問。1885年イギリス遺伝学者ゴールトンが首唱」と記されています。二十世紀初頭には大きな支持を集めていたことにも注目すべきです。この考えは恐らくは古い体制のもとではメインストリームだったと思われ、現代人の思想の深いところにも未だ根を張っていると感じます。

この思想がメディアに大々的に取り上げられた事件がありました。まだ記憶に新しい相模原障害者施設殺傷事件です。この事件でつくいやまゆり園の19人の障がい者が一人の男の手によって殺められました。
事件を通して、犯行の動機であった「優生思想」という考えが広く知られることになり、それに伴ってメディアやSNSは喧々諤々、非難する者、賛同する者が鍔迫り合いを繰り広げていました。
「障がい者は社会に不用である」ということを声を大にして言う者、口にはしないまでも賛同する者、その考えに嫌悪感を抱きながらも真っ向から否定できない者、両の意見に自らを顧みる者、そして人間性と倫理のもとに憤怒する者、19人もの命が奪われたこの事件はこの社会に流れる暗い深淵を顕わにし、現代人が各々の中に持っている闇と自分自身とを向き合わせるきっかけになったことは確かです。

出生前診断は「優生思想」の説明をする上で好例にあげられます。私は「優生思想」なんて差別的で非人道的なことには加担しない、という人でも何の気なしに出生前診断をしてしまっていることがあります。これは生まれて来ようと授かった命を選別しようとすることですから、知らぬうちに「優生思想」を支持してしまっているのです。出生前診断については、母体の状況や経済状態など様々な問題を含んでいますので、一概に否定することはできません。ただ、私を含め「優生思想」は現代社会に於いては非常に潜在化し易いということがわかります。

この潜在化した「優生」的な意識の中から、飽くまで一面的に相模原の凶行は起こっていたと私は考えています。
その凶行の源泉を辿っていったとき、そこには非常に単純な、他人に対する優位性の保持意識があると思います。自らに自信のない人やアイデンティティーがぼやけた人、プリンシプルを持たない人が、人種や生まれや体格、学歴や収入、健常者であることなど、他者に対して優越的になれることを選り出して短絡的な安心感や肯定感を持とうとするわけです。それが個人の間を反響し、個人の中で増幅し、攻撃的であることを許容することになり、最悪の場合、個人、果ては集団を死に至らしめるのです。

こどもたちが身体の特徴から仲間外れを作ること、学校や職場で頻出する数多のいじめやハラスメント、人種差別や部落差別、そして障がい者差別、他者との相違に優位性をつけて排除しようとする試みは「優生思想」と発露を同じくしています。ですから「優生思想」は単に障がい者を差別する思想ではないのです。その境はいつも様々なところに引かれていて、その基準はそのときの流行や権力者の一方的な価値観であることが多いのです。
我々が他者に優位性を見出し、それに加担したとき、我々自身がその負の連鎖に加担することになり、いつでも排除される側に回るとも限らない、そしてそのとき我々と我々の最も大切な人が拡大解釈された「優生思想」に殺される日が来るとも限らないのです。

--怪物と戦うものは、自ら怪物にならぬように用心した方がいい。あなたが長く深淵を覗いていると、深淵もまたあなたを覗き込む。--ニーチェの「善悪の彼岸」の一節です。
私たちは自らの美しさや醜さをよくよく見張らなければならないと思います。善意の河は本流に繋げ、悪意の河には堤防を構えて氾濫に備えなければならない。注意深く自分自身を見張らねばならない、と考えています。
知らぬふりはできません。他所事と割り切ることも許されません。植松聖の内に流れていたものも、そもそもは我々の中に流れているものと同じだと思えてならないからです。

古嶋航太
プロフィール

福岡県立修猷館高等学校中途退学。アルバイトをしながら音楽活動、子供や障碍者のボランティア活動を行う。詩、哲学、映画、文学、音楽に傾倒。運送業、アパレル業などを経て高齢者福祉に6年半携わり、介護福祉士、介護支援専門員の資格を取得。2018年7月ユースタイルラボラトリーに入社。北九州サービスマネージャー。全国障害者在宅支援事業所連絡会福岡支部長。現在に至る。