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『医療の裏側でいま何がおきているのか』/大阪大学医学部医療経済経営研究チーム編/ヴィレッジブックス新書

『医療の裏側でいま何がおきているのか』/大阪大学医学部医療経済経営研究チーム編/ヴィレッジブックス新書

高山力也




皆さんの中で、生まれてからこれまでただの一度もお医者さんや病院にかからなかった方は、おそらく一人もいらっしゃらないかと思います。 また例えば夜中に突然お腹が痛くなって我慢できなくなったとします。そうしたら誰もが近くの病院の夜間外来などを利用して、お医者さんに診てもらうことでしょう。 ですが、実はこのような日本の医療のあり方は、世界的にみても極めて珍しいものなのです。

確か’83年頃からだったでしょうか。「医療費亡国論」なるものがまことしやかに囁かれるようになりました。ときの首相は中曽根康弘、「戦後政治の総決算」の掛け声の下、国鉄や電電公社の民営化や基礎年金制度の導入(年金の強制加入)など数々の改革が行われてきた時期です。 これまでの福祉拡充路線からプライマリーバランスを意識したものに変わりつつありました。「医療費の増大が国家財政を破綻させる」との「医療費亡国論」もこの文脈に則ったものといってよいでしょう。これが今日の「医師不足」を引き起こす原因ともなりました。

本著にもありますとおり、90年代の米クリントン政権は医療費の高騰※1に頭を悩ませており、比較的安価で良質な医療サービスを実現している日本※2にそのソリューションを見出そうとしたそうです。そこで日本の医療現場に視察団を派遣したのですが、わずか一週間で視察団は本国に引き上げました。「日本の医療をアメリカに持ち込むのは無理である」と・・・。 視察団の一人は「まるで1950年代のアメリカの病院で、アメリカ人にはとても耐えられるものではない」との感想をもらし、報告を受けたヒラリー・クリントンも「日本の医療従事者は聖職者さながらの自己犠牲の精神がみられる」と述べたといいます。 「日本は医療が高すぎる」「やがて医者が余る時代がくる」しかしながら当時のメディアではまだこんな論調でした。

それから月日が経ち、やがてお産を請け負ってくれる周産期の産婦人科医がいなくなったり、救急車のたらい回しなどという事態が起こるようになったのは皆さんもご存じのことでしょう。医療崩壊は現実のものとなりました。

福祉というものは、一旦崩壊すると後で立て直すのはなかなか難しくなる領域です。先日ある特別養護老人ホームが閉鎖して、その利用者の受け皿が見つからず困惑しているとのニュースを目に致しました。介護に関わる我々としても、対岸の出来事ではすまされなくなってきていると思います。

※1 さらにいえば幾度となく医療過誤訴訟の急増による医師の診療放棄(Malpractice Crisis)という事態にまで至っていました。
※2 例えば’90年当時における新生児死亡率は2.6‰、平均寿命は78.8歳(男性75.9歳、女性81.9歳)、これらは紛れもなく全世界でトップクラスです。



【略歴】高山力也
某国立大学大学院を修了後、H11年に当時まだ珍しい再生医療を扱うバイオベンチャーに就職、先端医療領域での新規事業立ち上げに携わる。その後、生殖補助医療領域でのMRを経て、H19年大手ITベンダー系の事業会社に転職、バイオテクノロジーやヘルスケアを専門領域として投資活動や大学との共同研究を手掛ける。またその傍ら、医療経済などに関する見識も深める。H21年に独立、診療所や介護施設の開設支援コンサルを手掛け始める。このときの経験から介護・福祉領域での仕事のやりがいに目覚め、弊社ユースタイルラボラトリー株式会社にはH29年5月より参加。名古屋事業所や北九州小倉事業所など日本全国各地での新事業所立ち上げに関り、現在は土屋訪問介護事業所甲府を担当している。