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『重度訪問介護で平和をつくる  part 6』~赤ちゃんと一緒に~

『重度訪問介護で平和をつくる  part 6』~赤ちゃんと一緒に~

安積遊歩



人間は繋がって、助け合って生きられるからこそ、人間なのだと私はこの63年間でしみじみ考え思うようになった。

そんな中、最近うれしかったのは、赤ちゃん救出のニュース。なんと、このブログにもその状況を菅野真由美さん自身が書いてくださった。その臨場感溢れる状況の中、彼女のリーダーシップがあまりにも的確で、何度も読んだ。特に、お母さんの手の位置が、水洗トイレの流れるボタンを押さないように励まして、胎盤が外に出るのを待つところなど、専門家以上の判断力だった。赤ちゃんを抱き上げてからは、赤ちゃんの顔を覆う膜に気づき、赤ちゃんがパッチと目を開いたというその様子、情景がまざまざと思い浮かぶ。

こうした判断力と実行力は、真由美さんが命にどう向き合ってきたか、この介助という仕事を含め、常に周りの人とどんな関係をつくっているかを伝えてくれた。

人間がその知性を十二分に発揮したときには、その知性が周りにも素早く伝播して、あっという間に機能するチームワークが形成される。彼女のその瞬間瞬間の命を守るための的確な判断力は、常に命と共にある日々の中から紡ぎ出されたものだったと思う。これこそが、リーダーシップだと心から尊敬する。

ところで、赤ちゃんの存在が平和を作った例をもうひとつ書こう。アメリカの元海兵隊だったアレンネルソンさんが冷酷な海兵隊員から平和活動家に少しずつ変わっていくときの、始めに登場したのも赤ちゃんだった。ベトナムのある村で戦っていたとき、誰もいないと思って入り込んだ民家に若い女性が苦しんでいる姿を発見したアレンさん。前向きで苦しんでいる彼女が出産をしていると気付いて、アレンさんが思わず手を差し伸べると、その手に産声をあげながら赤ちゃんがやってきた。アレンさんたち海兵隊員の訓練の中で、ベトナム人は人間ではなく尻尾を持って産まれると教えられていたが、手の中の赤ちゃんに尻尾はなかった。アレンさんは自分もまた母のお腹の中からこうして生まれたのだということを思い出し、呆然とその子を見守った。その子の母親が素早くその子を奪い取るように抱き上げてすごい勢いで外にかけていったという。アレンさんは二人が出て行ったあともしばらく動けなかったという。そして自分が生まれてきたときのことを思い、母を思い、自分がベトナムにいてしていることの残酷さを考え始めた。

赤ちゃんはどんな時にもどんな所にも生まれ続けてきた。たとえ戦場の中であってもけして諦めることなく生まれ、命を継承し続けてきた。

重度訪問介護で介助を受ける人たちは赤ちゃんほどに無力ではない。無力でないどころか自分の生と自由を貪欲に、助けを求めて生きようとする。しかしそこに関わろうとする介助者には何もできない人=赤ん坊のような状態という思い込みが激しくあるから、そこでの関わり合いは様々な葛藤を生む。

ところで赤ちゃんは、自分の無力さが絶対的な愛情を呼び起こすと信頼して生まれてくる。しかし、重度訪問介護を使う障がいを持つ人たちは、自分の身体のありようは無力であっても周囲の人々との関係に絶対的な信頼感を置くことは非常に困難だ。それどころかその無力と思われる身体は、様々な偏見や差別に晒され自分の意思や思いを徹底的に裏切り続けてきた。それは、介助者との関係以前に、自分の身体と自分の意思や想いとの間に大きな隔絶と葛藤があるのだ。

そこが赤ちゃんとは全く違う。 赤ちゃん達は自分の身体と、自分の意思や想いがまっすぐに繋がっていて、暑すぎても寒すぎてもお腹がすいてもお尻が汚れていても、泣いたり笑ったりで想いを伝えてくる。

ところが重い障がいを持った人たちは、そうしたシンプルさ、感受性の豊かさを自由に表現することを幾重にも恐れさせられてしまっている。重度訪問介護の介助者として長時間を重い障がいを持つ人の側にいようと考える人にぜひお願いしたいことは、自分の赤ん坊時代に少し想いを馳せながら、側にいてほしい。自分が関わろうとしている障がいを持つ人は、ただただ親や兄弟やその他の人たちの注目の中で生まれたあなた自身とは違う。しかしながらその無力さを上回る愛情を持って生まれた、あなた自身にもどこか繋がって、あなたの存在に圧倒的に期待している。

重度訪問介護は、信頼を基調として、互いの間に平和な関係性をどう作っていくかのプロセスでもある。


【略歴】
1956年、福島県福島市生まれ。生まれつき骨が弱いという特徴をもつ。22歳で親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介。障害者の自立生活運動をはじめ、様々な分野で当事者として発信を行なっている。
2019年7月、NHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。