ニュース&ブログ

改めて、脳性麻痺とはどんな障害か

改めて、脳性麻痺とはどんな障害か

古本聡



以前、「アテトーゼ型脳性マヒ者の介助」という記事で、身体の不随意運動を伴う脳性麻痺者の介護・介助において、介護・介助者が留意すべき事項について述べましたが、今回は、脳性麻痺と呼ばれる身体機能障害そのものの種類、原因、特徴などにスポットを当ててみたいと思います。

脳性麻痺は、運動機能障害の原因となる病態の一つで、平成25年度の内閣府の調査では日本には約7万4千人いるようです(参照:平成25年度版 障害者白書「障害児・者数の状況」 )。私も、脳性麻痺が原因で四肢に障害があります。

脳性麻痺とはどのようなものか
脳性麻痺は、胎児から生後4週までの間に脳(主に運動中枢系統)が何らかの損傷を受けて起こるものです。病変発生時期が生まれるまでの期間にも当てはめられますので、先天性の障害ということです。したがって、生後1ヶ月以降の病気や事故で起こる脳内の病変や損傷とは、明確に区別されます。

脳性麻痺の種類:
脳性麻痺は、次にあげるような幾つかの種類に分類されます。
痙性麻痺 ― 脳性麻痺の全分類の中で最も多く観られる型です。反射神経が強調され(過敏になり)、筋肉の動きが硬くなります。 運動障害性脳性麻痺 ― この型の脳性麻痺は、大きくアテトーゼ型脳性麻痺とジストニア性脳性麻痺の2種類に分かれます アテトーゼ型脳性麻痺は、無意識に起きる、ゆっくりとした身もだえするような動(いわゆる不随意運動)き、ならびに筋肉の過緊張などが特徴です。また、ジストニア性脳性麻痺は、四肢筋よりも体幹運動に麻痺の影響が及ぼされるために、体幹が正常に保持できずに姿勢が捻転している場合が多く観られます。
運動失調性脳性麻痺 ― 筋肉を自発的にスムーズに動かすことができません。
低緊張性脳性麻痺 ― 筋緊張が低下状態になり、クニャクニャと垂れてしまいます。
混合型脳性麻痺 ― 上記の各型の2つ以上が合わさった状態です。

脳性麻痺の原因
脳性麻痺の主な原因として挙げられるのは、胎児期の脳形成異常、脳出血、妊娠中の感染症、出生時の仮死状態、脳内低酸素状態、新生児期の黄疸、脳炎などですが、現代の医学では原因を特定できないことも多くあるようです。 生まれてすぐ脳性麻痺だと診断できる、というよりは、発育段階で運動機能発達の遅れなどが顕著になって確認されることが多いようです。 私の場合は、2か月早い早産で仮死状態にて生まれ、その後の3ヶ月検診で首の座りなどの遅れを指摘され、診断に至ったそうです。

原因例:
妊娠中の感染症 ― 母親が妊娠中に風疹(三日ばしか)、サイトメガロウィルスなどのウィルス感染症、トキソプラズマ症(寄生虫による感染症に罹患すると、胎児に脳障害が発生し脳性麻痺になることがあります。
胎児への酸素供給不足 ― 胎盤の機能不全や、胎盤が子宮壁から時期尚早に剥離することによって、また臍帯が絡むなどの要因で胎児に十分な酸素が供給されなくなることがあります。
出生時体重約1.5kg未満の未熟児 ― 臨月で出生した新生児に比べて、約30倍の確率で脳のどこかの部位に障害が発生する可能性があります。
分娩時の合併症 ― つい最近まで、脳性麻痺の主要な原因は、難産における新生児の低酸素症であると言われて来ましたが、近年の研究では、これは、症因の10%に過ぎないことが判明しています。
Rh不適合 ― 母子間の血液型不適合によって発生した脳損傷が障害を引き起こすことがあります。現代では、予防手立てが多くあるので、脳性麻痺の特に大きな原因とは考えられていません。
その他の先天的欠損症 ― 脳の形成不全、遺伝性疾患、染色体異常、およびその他の先天的欠損がある新生児は、脳性麻痺になるリスクが高くなります。
後天的脳性麻痺 ― 脳性麻痺児の約10%は、生後2年間に発生する脳損傷が原因です。こうした損傷の原因として最も一般的なものに、脳の感染症(日本脳炎、髄膜炎など)や、ひどい打撲や挫傷による頭部・脳内傷害があります。

脳性麻痺の主な症状と特徴
これまでのところ、残念ながら、根本的に脳性麻痺を治癒する方法は見つかっておりません。ただし、リハビリなどで運動機能を改善したり症状を緩和し軽減したりすることができるケースもあります。 また、脳性麻痺そのものは進行性ではありませんが、脳性麻痺には二次障害というものがあり、状態が悪くならないように十分な予防・現状維持のためのケアが必要です。 二次障害とは、これも脳性麻痺の型や症状の重軽によってかなり広い範囲の個人差がありますが、私の場合は、不随意運動により常に頸部および肩、背中の筋肉に力が入っている状態なので、経年とともに頸椎が圧迫され、脊髄麻痺を発症することです。冒される頸椎が何番かにもよりますが、背中や腰のひどい痛み、肩こり、手足のしびれ、感覚の喪失が起こりえます。3番頸椎より上がやられると、横隔膜が麻痺してしまい、最悪の場合、窒息死、ということもあり得ます。発症は、身体の成長が止まる年齢以降が多いようです。

「脳性麻痺」というからには、体のどこかに麻痺が起こります。麻痺と言っても、「しびれる」ということではなく、身体が動かない、あるいは自分の思い通りに動かせない状態になる、と言った方が良いでしょう。

具体的にどのような障害が生じるかは、脳の損傷の部位や程度によって様々で、障害の重さや内容は個人差が大きいです。一見しては障害があると分からないほど軽度な人もいれば、自力で座る姿勢を保てない重度の人もいます。例えば、歩行ひとつ取っても、「歩ける」、「グラグラして不安定だが歩ける」、「松葉杖たステッキを使えば歩ける」、「移動距離、体調によっては車椅子が必要」、「歩けず、移動には車椅子が絶対必要」と、いろいろな人がいます。

脳性麻痺の症状は多岐に渡るのですが、その中でもよくある症状を挙げておきます。
- 身体(特に手や足)の筋肉の過緊張、硬直。
- 動作が緩慢でぎこちない。
- 不随意運動(意志に反して身体が動く、急に跳ね上がる、震えるなど)。
- 体幹機能障害(姿勢が不安定、または保持することができないなど)。
- 上肢障害(腕力や握力の過不足、手先の器用さの低下など)。
- 下肢障害(立つ、歩くことが困難など)。
- 発語障害(明瞭に発語、発話することができない)。
- 嚥下、咀嚼障害、睡眠時などの無呼吸症。

この他にも、脳性麻痺によって身体の様々な部位に障害が現れることもあります。また、全ての症状が現れる訳ではなく、人によって、これらの幾つかが組み合わさって現れたりもするのです。

脳性麻痺の障害内容に個人差があることは上で述べた通りですが、脳性麻痺者の多くが共通して不得意とする事柄を2つほど、下に紹介しておきます。

- 力のコントロール
上で述べた症状の中でも、身体各部位の筋肉過緊張と硬直は、脳性麻痺者に顕著な特徴と言えるのではないかと思います。身体のどこか(特に手や足)が常に、あるいは頻繁に過緊張状態にあるのです。緊張度合いは一定というわけではなく、例えば私の場合は、精神的に強いストレス下ある場合、寒いときや疲れているとき、急または大きな動作をした直後などに身体の緊張が強くなることが多い傾向があるようです。また、精神的な緊張に比例して、体の緊張も強まることは、非常に顕著で、よくあることです。

体が緊張していると、自分で力をコントロールすることが難しくなります。脳性麻痺者は、動作に必要な力がないだけでなく、余計な力が入ってしまって体の動きが妨げられることも多いのです。力のコントロールができないと、関節の曲げ伸ばしがスムーズでないとか、体がピンと突っ張ってしまって自分ではどうにもならないことがあります。 他には、日常生活で言えば、例えば、ペットボトル入りの飲み物を飲むとします。左手でペットボトルを持って、右手で蓋を開けるとき、左手に力が入りすぎると。ペットボトルを握りつぶしてしまいます。また、開けた蓋を膝の上に置いて、両手でペットボトルを持ち上げて飲みたくても、右手の指がぎゅっと閉じてしまって蓋を離せないことがあります。両手でペットボトルを持って口元に近づける際も、中身をこぼさず、かつ飲みやすい角度に傾けるには力の加減が必要です。それができない場合が多いのです。

もう一つの例を挙げるとして、筆記する際に紙を押さえている手に余計な力が入って、紙をぐしゃぐしゃにしてしまう、などということもあります。

日常生活を円滑に進めるためには、また、動作をスムーズにカッコよく運ぶには、身体に余計な力が入らないことがとても重要なんだ、と痛感させられます。

- 一定の姿勢を保持すること、あるいは良い姿勢を維持すること
体幹機能障害があって、姿勢を保つことが難しい脳性麻痺者は少なくありません。自力で立てるけれど倒れないように立ち続けることができない人もいれば、背もたれがないと座っていることもままならない人もいます。また、一定時間、姿勢を保持することができるとしても、どこか不安定でバランスが悪く見えることがよくあります。例えば、身体を左右に大きく振りながら歩く人や、前かがみになって座る人も多く見かけます。傍から見ていると、その姿勢でいるほうが大変なのでは?、と思われるかもしれません。でも、本人にしてみると、そのアンバランスに見えてしまう姿勢が一番安定していて、その姿勢でなければ歩いたり座っていたりすることができない場合があるのです。

麻痺のある人は、とても微妙なバランスで姿勢を保っています。ほんの少しでも左右の足の位置がずれたり、体の傾きが変わったりするだけで体勢が不安定になり、生活動作ができなくなってしまうことがあるのです。これは、脳性麻痺だけではなく、他の麻痺者にも言えることだと思いますが、脳性麻痺者の場合は、バランスのズレによって次の動作に移れなかったり、動作ができなるだろうという予測によって精神的プレッシャーがかかってしまい、過緊張状態がさらに酷くなったりしてしまうのです。

ただし、体勢の維持や生活動作がしやすいからと言って、その姿勢が身体にとって一番楽であるとは限らないのです。身体が不自然に傾いたりよじれたりしていると、身体の一部に局部的な大きな負担がかかり、体力的にも気力的にも非常に疲労してしまいます。また、二次障害の原因になったりもします。本当は、自然で綺麗な姿勢いられれば身体には一番良いのでしょうけれど、そのような姿勢を保つことが殆どできない、というのが脳性麻痺者の、イタチごっこのような現実でもあるのです。


(2017年6月の記事より、再掲載)

【略歴】 昭和32年生まれ、脳性麻痺1種1級、6歳からの5年間余、旧ソ連の障がい児収容施設での生活を経験した最初で最後の日本人。早稲田大学商学部卒、大学院生だった25歳より英語とロシア語翻訳会社を経営。16年4月よりユースタイルカレッジにて障がい当事者としての講話を担当。