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『重度訪問介護で平和をつくる  part 8』~素面(しらふ)の思想~

『重度訪問介護で平和をつくる  part 8』~素面(しらふ)の思想~

安積遊歩



常識とか普通とか一人前とか、これらすべての言葉の中に障がい者は含まれていない。だから幼い頃からこうした言葉が嫌いだった。

常識とは常にマジョリティーの言葉である。マジョリティーにとっては、障がいのない身体が常識となるから、私たちすべての身体と状況は常に非常識だ。

重度訪問介護は、その常識を持たねばという社会の中に、私たちの現実を常識とも普通ともしようという試みである。

それが、いわゆる多様性ということでもある。常識のない普通でない存在がマジョリティーの集団にいたとき、その存在は隔離や管理という状況を強いられる。

ところで、子どもたちもまた圧倒的な大人社会で、その知性を潰され続けている。例えば、お酒やタバコをいいとは、子どもたちはまるで思っていない。タバコは臭いし、お酒は大人ばかりが楽しそうだったり、愚かになったりで子どもにとっては不思議なものでしかない。

そんな大人に付き合って大人のそばにいなければならないほど、昔子どもたちは暇ではなかった。私の年代までは子どもたちの生きる場は自然の中だった。野山を駆け巡り川に飛び込み、そうした自然との触れ合いの中に自分の可能性を広げてきた。

ところが、ずいぶん自然環境は破壊され、子ども世界への大人の介入は激しくなった。そんな中で子どもたちは、まったく諦めを知らないから、大人から許されるものの中で自分の喜びや知性を育もうとする。

それが多くの子にとっては、コンピュータだったりマンガだったりする。不登校の子の多くが、ゲームやマンガやそれらを使って生き延びようとする。それは、大人が嗜好品に依存するのとよく似ていたりもする。

私は子どもだった時、常に大人と対等でいたいと思っていた。0歳から2歳まで注射を打ち続けられたので、その悔しさと悲しみと、そしてその声を聞かない医師たちへの怒りを泣き叫ぶことで、諦めず伝え続けた。そしてついに2歳の時に母が妹を出産するということで、その注射がとまった。

なぜこんなにも、女性解放と子どもの人権の徹底的な回復を願い、障がいを持つ人への社会のあり方を変えようと努力するのか、幼い頃を振り返れば振り返るほど、自分の存在と考え方が非常識だったからだとよくわかる。

ところで私には上に兄と、下に妹がいる。お小遣いをくれようとする人は、まず兄に五千円、私と妹に三千円というパターンが多かった。私は物心ついた時から、異をとなえて、兄に四千円、私たちに三千円ずつと要求した。さらに最終的には、一人三千三百円を主張し、可愛げのない子どもとか生意気な子とか言われたものだ。

また、父のお酒やタバコに関しても、日々文句を言っていたので、私が16歳の時、彼は禁煙。もっとも、素直には辞めない父だったから、兄が大学に受かることを祈念して「俺はタバコをやめるのだ」と偉そうに言い、兄に屈折したプレッシャーをかけもしたが。

お酒については私は13歳の時に、父に「お前も少し飲んでいいぞ」と言われ急性アルコール中毒になった。「少し」と言っても、すでに酔っ払っていた父は私が飲むのをおもしろがっていたから、私が苦しがってのたうち回るのを、本当に心配していたのは母だった。

タバコもお酒も大人になれば解禁されるという常識のなかで、私たちの知性を奪い続けている。先住民の世界には、お酒やタバコを大人になったら許されるという、バカな決まりはまったく効かない。経済消費市場主義社会の常識や普通や一人前という言葉が、これらの嗜好品を使って子どもの世界を追い詰めているのだ。

大人たちを許さないと叫んだグレタさん。お酒やタバコやさらには肉食の害も、気候変動に関係していることを詳らかに語ってもらわなければならないほどに大人社会は病んでいる。

障がいを持つ人たちが生きにくいのは、子どもたちを追い詰め続ける大人社会の常識が跋扈しているからである。

先日、お酒のあるパーティーに参加した時に、父親に「お酒を飲まないで」と頼んでいる子がいた。父親もその願いを受けて飲まないでいた。それを見た他の大人たちが、「飲まないでと頼んでいる子もすごいが、それを受けて素直に飲まないでいる父もすごい」と賞賛。わたしは賞賛する大人たちに一抹の疑問を感じていた。なぜなら本当はその父親は酒が苦手だったので、子どもの力を借りて周りに巻き込まれない戦略を取っているのだと知っていたからだ。

子どもはいつだって、親に正しいことを伝えたいと思っている。そして、できる限り大人たちの力になりたいと思って生まれてくる。

アルコールもタバコも大量の砂糖やカフェインも、子どもには禁止して、大人は嗜好品という名でエンジョイする。こんな非対等な関係の中に差別は無くなるはずはない。大人たちの愚かさ加減をいつまでも見せつけるのはやめて、もう少し子どもの声を真摯に聴く中に、差別からの解放があるとわたしは考えている。わたしのこの考え方を「素面(しらふ)の思想」と言ってくれた人がいた。重度訪問介護で平和を作り続けるために、素面の思想がさらに広がっていくことを願っている。


【略歴】
1956年、福島県福島市生まれ。生まれつき骨が弱いという特徴をもつ。22歳で親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介。障害者の自立生活運動をはじめ、様々な分野で当事者として発信を行なっている。
2019年7月、NHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。