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ブックレビュー 『母よ!殺すな』』横塚晃一/生活書院

ブックレビュー 『母よ!殺すな』』横塚晃一/生活書院

高山力也



この本は、私が当社ユースタイルラボラトリー株式会社に入社するにあたって受講した統合課程の初日の講義の際、講師を務めていた現COOである高浜から紹介されて取り寄せてみたものです。
初版は’75年すずさわ書店から刊行され’81年に増補版が出されたらしいのですがその後長らく絶版となり、ミレニアムを挟んだ’07年になってようやく数々の資料を追加した形で再販されました。私が手にしたのはその第二版です。

本著の著者である横塚晃一氏は、「全国障害者解放運動連絡会議(全障連)」の最初の代表幹事であり、「青い芝の会」全国連合会の会長を三期連続で務めたりした人物です。’78年7月の42歳の若さで亡くなられました。
もともとの「青い芝の会」は脳性麻痺者の交流や雑誌「青い芝」の発行など、どちらかというと穏当な集団であまり政治色は強くなかったといいます。
それが著者らの主導で急進的な政治活動団体へ変貌を遂げたのは、本著のタイトルとも関係する’70年横浜市金沢区でおこったある事件がきっかけです。
重度心身障害児である当時二歳の女の子を介護苦を理由に実の母親が絞殺したというもので、当時メディアなどでかなりセンセーショナルにとりあげられたようです。そして母親に同情的な立場から減刑や無罪を嘆願する運動が起こりました※1。
この事件に限った話ではなく60~70年代は障害者が犠牲になる事件が頻発しており、しかも何れのケースでも世論は加害者サイドに同情的でした※2。

もしも被害者の女の子が、何の障害も抱えていない普通の二歳の女の子だったら、世間はどう反応したでしょうか?二歳の女の子なんて一番かわいい盛りです。おそらくありとあらゆる罵詈雑言を加害者である母親に浴びせかけたことでしょう。 被害者が障害をかかえた子供だったら「お母さん可哀そう」、被害者がまったく健康な子供だったら「お母さん酷い」。。。このような世の風潮に対して、著者らは激しく異を唱えました。

「罪は罪として裁け」「障害児は殺されるのが幸せか」「重症児『殺されてもやむを得ない』とするならば殺された者の人権はどうなるのだ。そして我々障害者はおちおち生きてはいられなくなる」「彼女は重症児である我が子を以前にも殺そうと思ったのであり、そして遂に無抵抗な二歳の子供に兇刀を振るったのも外ならぬ彼女なのである。なぜ彼女が殺意をもったのだろうか。この殺意こそがこの問題を論ずる場合の全ての起点とならなければならない。

障害当事者である著者らにとっては、まさしく自らの生存権がかかった闘いだったといえます。

また資料的価値も高く、本著を読みますと70年代初頭の障害者運動黎明期における時代の空気というものが大体つかめることでしょう。

この仕事をしていると、ホント色々な方に出会います。中には実際に障害者運動の最前線で戦っていた猛者などもいらっしゃりまして、そういう方の話とかは正直メチャメチャ面白いです。
おそらく人数的には当たって砕けたほうのが圧倒的に多かったと思いますが、著者ら声を上げた者の「血と汗と涙」の上に今日の障害福祉サービスがあることは何とも興味深い話です。

※1 結局この母親は懲役2年執行猶予3年の判決となりました。通常、殺人事件に執行猶予はつきませんので、超例外的な温情判決だったといえます。
※2 例えば、’67年には生まれてから27年間心身障害でずっと寝たきりの息子を父親が絞殺、無理心中を図る事件がありましたが(「心身障害者安楽死事件」)、一命をとりとめた父親は心神喪失を理由に無罪となっています。




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