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ブックレビュー 『ロスト・ケア』著者;葉真中 顕(はまなか・ あき)

ブックレビュー 『ロスト・ケア』著者;葉真中 顕(はまなか・ あき)

佐藤健輔



 とある殺人犯の死刑が確定したところから始まるミステリー小説。
 一見そう思わせる切り出し方だが……読み進めていくとこれはなるほど、著者の書きたいことはそうではなかったと思い知らされる。

 もちろん良い意味でだ。
 死刑囚の心情に対する被害者の家族の心情が冒頭から示されていくのだが、様々である。
 もちろん殺人は悪、このブックレヴューを書いている私はそう答えるだろう。
 だが、ここに書かれている被害者の家族たちの心情は様々だ。

 救われたと感じるもの。
 疑問を持ちつつも胸をなでおろすもの。

 そこに書かれているのはおおよそ読者には到底理解できない。
 何故?

 そこには筆者が示したかったことが根底にある。私はそう解釈をした。
 老人介護という複雑な問題に切り込んでいるのだ。
 そこには介護に疲れたもの、介護による貧困に晒されたもの、介護される側ではなく介護する側へ訪れる問題に対して書かれている。

 43人もの尊い命、それを奪った犯人に何故救われたと思うのか。
 そこに至る葛藤や強制的にとは言え『終了』した介護。
 我々は生業としている介護が家族にとってはどういうものなのか?
 義務? 義理? それとも?

 実行した死刑囚が何故心穏やかなのか。
 そんな疑問からなる読書は最後には家族の穏やかさに心が揺れる。
 もしかしたら実際に起こりうる、もしくは起こっていたかもしれないと想起させるこの作品。
 今回このコラムを書くに当たり読ませていただいたが一度読んだだけでは理解できなかった。
 何度も読み直して、本当はミステリー小説なのだからそこに着眼するべきなのだろうが……人が死なないことによりありえる未来が私の頭の大半を鷲掴みにする。

 著者は調べ上げたのだろう。
 そしてその『想像力』で組み上げ紡いだ空想の物語を『現実』として突きつけて来た。

 介護に関わるものの一人として一見していただきたいと思うし、そうではなくとも『終わりの無い』介護はいつ誰の身にも起こりうる。と考えさせられる『ロスト・ケア』と言うミステリー小説。
 貴方は共感しますか? 否定しますか?

 私の答えは……。




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