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ブックレビュー 『何も共有していない者たちの共同体』アルフォンソ・リンギス

ブックレビュー 『何も共有していない者たちの共同体』アルフォンソ・リンギス

高浜敏之



私たちが他者と出会ったときの驚きや戸惑いの根拠はどこにあるのだろうか?他人と他者は異なる。

慣れ親しんだ人と、共通の価値観や言葉を持ち合わせる人と、空気を分かち合う人といるときの安心感、そのとき私たちはその他人に他者はみていない。

共通のコードから逸脱する言動、身ぶり、認識と判断、と出会ったとき、すなわち異質な存在と遭遇したときはじめて、他者は他者として現前する。

他者と出会ったときの不安や驚異や戸惑いに耐えられず、私たちの中から、というか合理的理性から同質化の働きが発動し、共通コードに内面化するために、障害や疾病のレッテルを貼っていく。

その結果、無限の差異のざわめきはかき消され、他者性は消え去り、自己に内面化され、交換可能性を獲得する。発達障害、人格障害、知的障害、などなど、さまざまな障害名は増殖してきたし、これからも増殖するであろうが、これは私たちが他者と共に居続ける不安と全てを一元的価値に還元しようとする資本の運動の共犯関係の産物だと考える。

つまり私たちがかかげる、他者と共に生きる、の実践のためには、他者の他者性を不安のなかで享受し、レッテルによって還元せず差異のざわめきに耳を傾け続けようとする意思が求められる。

つまり同じである、ということを強要しないこと。

これは脱言語的、脱資本的、つまり脱権力的プロセスであり、従業員が1000名を超える会社において試みることは不可能であり、もはや諦めの境地に達しつつあるが、日常の細部の営みのなかでは時おり思い出したい、そんなときに時おり再読する本である。私たちが過剰な安心感を求めたとき他者は排除される、不安とは他者性と出会っている証であり、その不安と共に生きることは極めて倫理的な姿勢であることを教えてくれる本である。


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