ニュース&ブログ

メンズ土屋㊵ 「ばんから」

メンズ土屋㊵ 「ばんから」

佐藤健輔


「やってしまった」

 とある利用者様の支援終わりにいつか行こう、いつか行こうと目をつけていたラーメン屋さん。
 すでに時間はもう後数十分で日付が変わる。最近打たなければいけないほど出てきた杭(お腹)がもう一段出る覚悟を決めて我が家から車で数分、なおかつ深夜まで営業しているそのお店に私は足を踏み入れた。

  「お?」

 がらりと引き戸を開けて暖簾をくぐると香ばしい……ニンニクのにおい?
 暖色系のあたたかな光にふらふらと導かれて券売機の前に立つとその匂いの元がすぐ分かった。
 店内にずらりと並ぶカウンター席の奥にちょこんと瓶が置かれている。

「ニンニクそのものがある……その隣はつぶすやつか」

 よく見れば深夜であるはずの店内には半分くらいの席がお客さんで埋まっていた。
 その誰もがその瓶からニンニクを取り出し、ラーメンや餃子のたれ、果てにはライスの上にニンニク破砕機でつぶして豪快に乗せている。
 そりゃニンニクのにおいも充満するというものだ。
 疑問も解けて。さあ、何を食べようかと思案すると……。

「いらっしゃいませぇ~!」

 カウンターの奥から元気よく声をかけてきてくれた女性店員さんに思わず会釈してしまう。
 日付も変わるかという時間帯に満面の笑み……変なところで感心してしまった。
 ちょうどいいので一人であることを伝えると空いてる席どこでもどうぞとニコニコと案内してくれた。ついでにお勧めのラーメンは? と豊富なメニューが並ぶ券売機の前で尋ねると「ガツンと行きたいなら『極み角煮』が良いですよ~」と即答。

「じゃあ、それにしようかな。あ、餃子もいいなぁ」
「太りますよ?」
「……でも食べたい……は?」

 無遠慮に太るよって何だこの店員さん。
 そう思って改めて目線を向けると……髪の毛束ねていたシュシュを外してVサインを返してきましたよ。
 そのまま見つめ合うこと数瞬。

「お疲れ様ですね。こんな時間まで働いてるんですか佐藤さん」

 ……おおう。

「眼鏡かけてないからわかんなかったですよ。津崎(仮名)さん、お互い様ですね」

 とあるご近所の娘さんだった。聞けば週末の深夜帯はここで働いてるとのこと。
 なんとなく顔見知りがいたことで気が楽になった私はお勧め通りの角煮ラーメンを注文して席に着く。

  「あ、餃子頼んどくんだった……」

 ぼーっと店内を見回しながら次回来た時にでも頼もうと思いなおす。
 この店は東京豚骨のラーメンが売りのチェーン店でお昼時には駐車場がいつも埋まっていた。
 しかし、あっさり目のラーメンが好きな我が家の妻と子供たちは興味がないらしくこういう時でもなければ来れない。

 自然と期待があふれる。
 そんなこんなで数分、シュシュを戻した津崎さんがラーメンを私の前に配膳してくれた。
 おお、すごいな……これはカロリー0とは言えない。(写真は許可を得て取りました)

  「はい極み角煮でーす! 存分に太っちゃってくださいね」
「他に添える言葉はあるはずだ」
「肥える?」
「意味は同じだ」
「横幅大丈夫ですか?」
「失礼系の語彙は豊富だな!?」

 私が小説を書いてることを知っているだけにこの手のやり取りはこの娘さん得意なのである。
 ほら見ろ、周りの店員さん笑ってるじゃないか。

 なんとなく気恥ずかしい思いをしながら彼女を追い返し、仕事終わりの一杯(ビールではなくラーメンだ)に手を付ける。
 レンゲでスープを掬うとこれでもかと浮かぶ油。
 しかも香ばしく、ネギの香りがする。

「いただきます」

 ――ズッ


 一口すするとガツンと来る醤油メインの豚骨スープ。  しよっぱい!? でも……甘っ!?

 甘じょっぱいとも違う、ちゃんと塩気の後にくる甘みが新鮮である。
 そのまま箸で分厚い角煮をほおばる。
 ホロホロほどける赤身ととろりとした脂身がスープとは違う甘みを届けてきた。
 なんじゃこれ、ウマいやないかーい!! これはアレが欲しくなる!!

   コトッ……。

「ふへへ、そろそろこいつが必要なんじゃないっすか? 旦那」

 小ライスである。定番である。そして確かに今の私には必要だった。
 私の眼前に置いた犯人はわかっている。こいつ…………出来る。
「○○円です」

 サービスじゃなかった!?

「……(無言で財布から小銭を手渡す佐藤健輔37歳)」
「追加でソフトクリームはいかがでしょうか?」
「いつからここはファーストフード店になった!?」
「スマイルは時価です」
「あからさまに違いを出してきた!!」

 ちなみに後程話を聞いたら彼女は単純にバイトの時間は終わっていて、さあいよいよ帰ろうかという時に私を見かけたのでプライベートでおちょくりに来たとのこと。フダンハマジメナイイコナンデス。

 最強の(カロリーも定番としても)極み角煮ラーメンとライスの組み合わせ。
 ライス、スープ、麺、角煮、ライス、チャーシュー、ライス、スープ。
 その後は邪魔されることもなく完食!! 気づけば額には汗、唇には油、背中にはひんやりとした外気……外気? 

 気が付けばすでに日付は変わっていて店内のお客さんのほとんどが帰宅を始めていたようである。
 何回も開け閉めした扉から飛び込んできた冷気が今は心地いい。

 最後にこってりしたスープを飲み干して体を芯から温めて……。

「ごちそうさまでした」

 両手を合わせてご挨拶。

~おまけ・佐藤完食、津崎さん帰宅準備後~ 

「お粗末様でした」
「君が作ったわけじゃないよな!?」
「ほらほら、愛情が」
「コラムのネタにするからな君」
「は!? 私怒られちゃいますよ! お父さんに」
「腹水は盆に返らないんだよ、お嬢ちゃん」
「な、何割フィクションですか? 先生」
「一厘、少し反省なさい……おかげで今回のコラムがコメディ一色です」

 また今度家族で行こうと思います(‘ω’)ノシ

  

佐藤健輔のプロフィールはこちら