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ロシアの小話~アネクド-ト~

ロシアの小話~アネクド-ト~

古本聡



「アネクドート」(анекдо́т、anekdot)って、ご存知でしょうか。この名称は元々、古代ギリシャ語の「アネクドトス(ανέκδοτον=公的に話されない話題)」から由来していて、ロシア語では「滑稽な小咄」を意味します。専制政治のロシア帝国時代に生まれ、ロシアの民衆により育まれた、この芸能とも呼べる言葉の遊びは、旧ソ連の共産主義政権時代には、政府による徹底的な思想言論統制の下,秘密警察の監視や密告を恐れて従順に振舞いつつも,本音では政府や指導者を小話で痛烈に批判して,その欲求不満を解消しようとする大衆の心の支えになってきたと言われています。そして、それは今でも健在です。なお、日本ではそのうち特に旧ソ連で発達した政治風刺の小話を指して用いられることが多いようです。ちなみにアネクドートのネタは、政治風刺はもちろん,経済,社会,歴史,民族,軍隊,日常生活、エロなど多岐にわたり,その時代時代の社会状況や大衆心理を反映しています。

ロシア人の生活の中で,この「アネクドート」は大変重要で大きな位置を占めています。リラックスした会話の場では,気の利いた一口小話を披露し合うことが習慣にもなっていて、「こういうアネクドートは聞いたか」、「新しいアネクドートはないか」という会話が飛び交います。夏は郊外のダーチャ(別荘)に出かけ、裸で太陽を浴びながらシャシリク(串刺しの焼肉)を片手に,ウォッカを飲みながらアネクドート.冬は冬で温かい部屋で酒を酌み交わしながら長い夜をアネクドートで笑い明かすのが、ロシア人にとっての至福なのだそうです。

ロシアのアネクドートが他の地域や国の笑い話、ジョーク、洒落と大きく異なる点は、洒落やジョークほどに皮相的ではないことです。アネクドートでは、地口合わせ、語呂合わせを軽く扱ったり、冷遇したりはしないが、決して上座には据えません。アネクドートは社会的で反権力的であることが求められ、風刺と笑殺の効いたとどめは、単なるオチではなく、もっともっと意味深なものなのです。

アネクドートは本来口頭で語られるもので、特に監視と抑圧のきびしかった時代には、それは密かな口頭によるコミュニケーションであり、内容によっては非合法でもありました。共産主義時代、アネクドートは声高にちらつかせることのできない火薬を蔵していたが、ソ連の体制が崩壊し、ペレストロイカとグラースノスチ(情報公開)の時代になっても、ロシア人たちはそうした習性からぬけきれず、東京のタクシーのなかでさえ、まるで運転手がロシア語を聞き分けるKGBの手先であることを警戒するかのように、声をひそめて、アネクドートをしゃべるので、アネクドートの内容よりも、そうした態度のほうが面白かったのを、懐かしく思い出します。

ともあれ、ここに幾つかアネクドートを紹介しますので、一回読んでみてください。

アネクドート1
『昔は政治犯がたくさん、シベリアに送られていました。
ある時、一人の男が強制収容所に送られてきた。
囚人の一人が「お前は何年くらったんだ」と聞くと、その男は「20年だ。何も悪い事していないのに、20年の刑が宣告された」と答えた。
すると、他の囚人が言った。「そんなことはあるまい。もし無実なら、10年ですんだはずだ」』
一口コメント
酷い時代でした・・・。

アネクドート2
一人のロシア人がローマ法王に謁見して、質問した。
「法王様、天国とはどんな所ですか?」。
法王は目をつぶり、少し考えてから、こう答えた。
「天国では人びとは一枚の布をまとい、靴を履かず、そこら辺に生えてる木からもぎったリンゴをかじって暮らしている」。
すると、ロシア人は言った。
「それなら、我が国と同じだ!」

アネクドート3
ある時、一人のチェコ人が一人のスロバキア人に最新のニュースを伝えた。
「今度、わが国に海軍省ができるそうだ」。
すると、スロバキア人が言った。
「いったい何のためにだい?わが国のまわりには海がないのに、なぜ海軍省を作るんだい?」。
チェコ人が答えた「じゃあ、なぜソ連に文化省があるんだ」。
一口コメント
文化の無いソ連に文化省があるなら…

アネクドート4
「水爆の父」と言われたサハロフ博士は平和を唱え、反体制派と見なされて、自宅の電話は常にKGBに盗聴されていました。
サハロフ夫人が友達の夫人と電話で世間話をしていた時のことです。長電話になったので、盗聴していたKGBの捜査官はとうとうガマンできなくなりました。そしてサハロフ夫人の受話器から、いきなり男の声が聞こえてきました。「いいかげんに、長電話をやめたらどうだ!」
一口コメント
世界中の独裁国では、黙って盗聴します。通話に割り込んでくるのはKGBだけでしょうね。

アネクドート5
現場監督が部下の労働者に聴いた。「ウォッカを1杯飲んだら、働けるか?」。
労働者は答えた。「たぶん働けます」。
「ウォッカを2杯飲んだら、働けるか?」「たぶん働けます」
「ウォッカを3杯飲んだら、働けるか?」 労働者は「だから今、私はここにこうしていられるんです」。
一口コメント
いくら働いても給料が同じ。酔っぱらってでもいなければ、バカバカしくて出勤するわけない。

アネクドート6
メスのゾウと結婚した小さなアリの話です。
結婚した次に日にゾウが死んじゃったので、アリはこう言いました。
「楽しかったのは一晩だけ。これから残りの生涯ずっと、墓をつくるために土を掘らないといけない・・・」。

アネクドート7
ソ連では、車を買うのに何年も順番を待つのが普通でした。
ある男が車のディーラーに行って「車を買いたい」と言ったら、セールスマネジャーはこう答えた。
「それじゃ、この名簿に名前を書け。20年後に車を取りに来てくれ」。
男は「午前に来ますか、午後に来ますか」と尋ねた。マネジャーは尋ね返した。
「どう違うんだ? 20年先の話だぞ」。すると男は答えた。
「家の水道管を直しに業者がその日の午前中に来る予定なんです」。
一口コメント
気が長くないと、ロシアでは生きていけません。

アネクドート8
原潜の世界最長潜水記録は我が国の潜水艦が保有している。
「ミンスク」は2000年8月12日に潜水して以来、未だに記録を更新中である。
一口コメント
原潜「ミンスク」は、大規模演習中に艦内で魚雷が爆発、乗員118名とともにバレンツ海に沈んだ。

アネクドート9
KGB職員が、インテリっぽい男に職質をしました。
「あなたの職業は?」「物書きです。」 「ふん、労働者じゃないな。では、お前の両親は?」「商売をしておりました。」 「なんだ、ブルジョアか。お前の妻は?」「貴族の娘です。」 「ああ、ダメだ!お前は社会主義には相応しくない!…まあ、一応名前だけでも聞いておこうか。」「…カール・マルクス」
一口コメント
カール・マルクスは『共産党宣言』などで社会主義を提唱し、ソ連のイデオロギーの根幹を形作った人物。

日本の政治状況をネタにしたアネクドートもあるので下に紹介しておきます。

『歴代の日本の総理が集まって、国民の悩みをなんでも解決する催しを開いた。
すると、十代の若者が七人やってきた。若者の一人は、ホールケーキを持っていた。
「歴代総理の皆さん。我々はケーキを買って食べようとしたのですが、七人いるのに一個しか買う金がありませんでした。どうやって上手く分けて食べればいいでしょうか」
歴代総理は討論の末、抜本的解決を図るには、一つのケーキを七人で分けるのではなく、ケーキをあと六個調達するほうが良いという点では一致した。だが、方法がそれぞれ異なっていた。

ある総理は「郵政民営化すれば、皆さんの給料が上がってケーキをあと六個買えるようになりますよ」と言った。しかし、それは嘘だった。
またある総理は「友愛精神を持てば、ケーキ六個なんて自然と出てきますよ」と言った。
それももちろん嘘だった。
そしてある総理は「消費税を上げさせてくれれば、ケーキを六個買って上げますよ」と言った。
それもやっぱり嘘だった。
そして最後の総理はこう言った。「原発を動かさなければ、ケーキは作れませんよ」
若者は、最後の総理の顔面にケーキをぶつけた』



古本聡(こもとさとし)
昭和32年生まれ、脳性麻痺1種1級、6歳からの5年間余、旧ソ連の障がい児収容施設での生活を経験した最初で最後の日本人。早稲田大学商学部卒、大学院生だった25歳より英語とロシア語翻訳会社を経営。16年4月よりユースタイルカレッジにて障がい当事者としての講話を担当。