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ブックレビュー 「ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION」 佐宗 邦威著

ブックレビュー 「ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION」 佐宗 邦威著

吉岡理恵



株式会社BIOTOPEというコンサルティング会社代表の佐宗邦威さんという方が執筆された本です。

イノベーションというものは、いままでのやり方を踏襲していても未来がないような気がすると感じたひとりの人間が、妄想を繰り巡らせ、妄想の実現化を構想することから始まると本書にはあります。そして、旧来の組織を「生産する組織」と名付けるなら、その特徴は、トップダウンで決まる戦略、効率を最大化する業務改善と分業、そしてインセンティブによる目標設定であると図式化されています。これは、官僚的なヒエラルキー組織であり、トップ以外はシステムの歯車のように扱われ、課された目標の達成状態の管理によって三角形が成立すると記されています。本書にもあるように、こうした組織は時代の要請に沿って作られ、成功実績を築いてきました。

しかしながら、佐宗氏はこうした生産する組織ではイノベーションは生まれないと感じたようです。それは、佐宗氏の就業・起業経験から、サラリーマンとしての就業は誰かが作った組織のなかで与えられた役割を達成することが求めらるアウトサイド・インの世界だったが、自らが起業した会社においては新しいアイディアを生み続けないと生き残れないというインサイド・アウトの逆のベクトルが働いていると感じたからだそうです。そして、生産する組織の中でイノベイティブであるということは、自らのOSをアップデートしないと叶わないと思ったそうです。

その「創造する組織」は持続的知識創造の最大化と定義され、内発的動機を持つ人がボトムアップで新たな知識をともに創造する組織であるとしています。よって、創造の生態系を生んでいくには、ビジョン・ドリブン、すなわち持続可能かつ加速可能なビジョンの実現のために、場を広げ、仲間を巻き込み、点から面のネットワークを創る取組みが必要だとしています。また、イノベーションとは、ひとりの妄想を起点に、その熱意が必要なチームを作り、チームの総力で数々の壁を乗り越え、最後まであきらめずに粘り強く取り組んだ結果、世の中に届くものだと思う、という一文があります。これは、トップダウンの戦略ではなかなか作りえないものだそうです。

また、イノベーションプロジェクトの成功の一つのポイントが、テーマを「自分事化」しているか否かだそうです。しかしながら、創造の着火点が妄想であることを鑑みると、妄想を口にするということに対して躊躇する人が大半なので、問いと表現によって引き出すことをしているそうです。そしてその問いの部分では、未来の可能性に焦点を絞った質問をし、回答は即興で得たものを大事にしているとのこと。質疑応答の中で、自分で思ってもみなかった理想のイメージが表出することが多いようです。

そして、現代の潮流に必要なのは、何のためにやっているのか、どんな社会を実現しようとしているのか、の意義、すなわち経営理念=ミッション/ビジョンだそうです。このミッション/ビジョンに対して「one for one , and for all」という、ひとりはひとりのために、結果としてみんなのために、というモデルを採用する企業の方が持続可能でありクリエイティブな風土を生み出すだろうと予測しています。そのためには、まず個々人のその仕事に就いた動機、そして会社やチームの歩んできたストーリーをシェアすることが大切だそうです。そして各々の歴史を踏まえ、未来の変化を見据えると企業が変革することができるそうです。また、社員一人一人がこのミッション/ビジョンを個人の想いや日々の仕事と結び付けて自分の言葉で語る場を作ると、コミュニティの形成と変革の火が広がっていくと記されています。

本書を読んでいくと、デザイン思考という単語がキーワードとなっていて、そのデザイン思考とは、主観性を重視し、独創する意志のある人が、構想、設計、ビジネスという3つの分野の共創によって実行していく方法論、と解説されています。この方法論は創造性の民主化と表現されることもあるそうです。そして、この共創を、意義に共感した人々によるチームで、どうやったら〇〇できるか、という問いを探求、明確さ、共感性を目安に議論をファシリテーターが進め、その内容を可視化していくことがコツだそうです。

こうした方法論を参考に創造と革新をしていくには、日本企業においては、新たなものを生み出しながらそれを既存の組織で生かしたり、組織と創造物をうまく接木する智慧が必要だと記されています。しかしながら、このイノベーションはすでに安定して価値を生み続けているビジネスを壊し過ぎずに既存モデルをアップデートしなければならないため、既存組織の変化に対する摩擦や調整コストが想定されるので時間がかかるそうです。よって、事業計画を理性的に伝えつつ、個人の想いを企業の意義に昇華させていくステップが必要であるとのこと。ただし、イントレプレナー(企業内起業家)には組織のビジョンやDNAに立ち戻り、あくまでも組織としてその活動を推し進めていく理由と文脈を作ることが大切であると記されています。

本書の最終章は、誰も答えをもたない経営モデル、というタイトルでした。不確実な時代における経営には、会社の思想や哲学などの存在意義を常に巻き込みながら問い続けること、多様な人が新たなものを生めるような環境をつくり、新たなチャレンジをする人を引き上げていくこと、そして創発が生まれやすい環境づくりにコミットし、戦略や戦術は現場の創発に委ねることが求められ、これらが次世代型リーダーの大きな資質になっていうだろう、と締めくくられています。


本書を読み進めることは、自分と組織について振り返る機会ともなりました。私が当社の社会的存在意義を、社会的課題の解決を事業として継続することで新しい価値を創造していくソーシャルビジネスオペレーターとして自覚したのがここ数年の間です。この自覚なく、ケアワーカーとして働いていたときは、目の前の切迫した課題への対処に追われてしまうことが多く、その一つ一つの対処は個人の力に依ることがほとんどでした。自分でなんとかできる範囲で、自分の頭と身体でそれなりに解決はしてきたように思います。そしてこの時期は、他人への評価基準が自分の主観に置かれており、私だけでなく他の同僚も個々人が自分の主観で自分だけのチームを編成していたように思います。

そして、会社の成長とともに現れたのが評価基準でした。この評価基準に対しては、最先端のビジネス書から抽出したキーワードを継ぎはぎしたような評価項目に、自分たちの意識を更生していくステップが必要だったように思います。これにより、組織の求める社員像ができあがり、良くも悪くも土屋人としてのOSを自らの体内に組み込まなくてはいけなくなりました。そして、私が私が、という職員はいつの間にか声を潜め、代わりに初めから土屋マインドを備える職員が増えていきました。

また、事業部が規模を拡大していくにつれ、優先順位が高くなったのは管理です。管理は、成長する組織における鉄則として、そして巨大組織の維持存続をはかるために、現在進行形でどうしてもその必要性が生じています。しかしながら個人的にはこの事業が、効率や生産性だけに依存してしまうことに疑問を感じています。なぜなら、この事業が、利用者といえども他人の生命と生活を護るために、ともに働く職員が感情を持った一人の人間としてそこに介入しているわけであり、その職員を歯車の一部と見なしてしまうことに私はどうしても違和感を感じるのです。

それは、一人一人の職員がなぜ当社で働き続けているかを考えると答えが導かれるように思います。なぜなら、今私が一緒に働いている職員たちは、個々人が当社の哲学をある程度自己内面化し、それを自らの使命へとそれなりに昇華させたからこそ、ともにこのミッション/ビジョンを自分や自分たちのチームのやり方で追及していると感じているからです。そしてその使命の到達先にあるものが実は自分たちの幸せに繋がっているのではないかということは、この事業に深く関わっていくとより実感が伴うように思います。福祉が、自分だけの思いや力で成し遂げられるものではないけれど、同じ思いを持った他人との共同でなら可能なのだという感慨です。そして、これを持続して営むことが、もしかしたら今現在、そして今後自分と関わってくださるすべての方々の人生の豊かさに繋がるのではないかという妄想です。

だからこそ私は、当社が、本書でいう創造する組織の方向性を目指し、まだ誰も答えをもたない経営モデルへ挑戦することを願っています。それは、管理監督だけを至上とする組織ではなく、ある程度の管理監督を必要としながらも、多様な人や価値観が礼節をもって付加されていき、自分たちのDNAを誇りにしながら新しいアプリケーションを共創し続けるような組織だろうと思います。おそらくそれには組織と個々人のOSのアップデートが幾度となく必要になってくるのでしょう。自分自身のアップデートはなかなかに難しいものだと日々感じていますが、可能な限り挑戦し、その中で私自身に熱意ある妄想が芽生えてきたら、それはワクワクしそうな気がします。



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