ニュース&ブログ

介護のお仕事から学んだこと  『ちゃんと言うべき事は言わなければならない』

介護のお仕事から学んだこと  『ちゃんと言うべき事は言わなければならない』

佐藤健輔



丁度このお題を上司から風の噂で聞いたころ。
タイミングよく振り返る機会があったのでその時の会話を思い出しながら書かせていただきました。

「実務者?」
「そう、旧1級ヘルパーの資格取ろうかと」
「すっかりなんというか……介護の世界にどっぷりつかってるわね」
「?」
「半年前まで新幹線のケーブル敷設してた人の顔じゃないわ……早くない? いくら何でも」
「そうなの? まあ取っておいて損はないし」

宮城に住んでいる幼馴染が何か頼みごとがあったらしく実の姉をメール便代わりに私のところに派遣したのだ。ぶっちゃけ横暴もいい所である。

仕事のついでに私の自宅に遊びにも来たかったというので二つ返事で了承して、そんなゆるーい会話を先日幼馴染のお姉さんと交わしていた時の話だ。

  「んで? 佐藤君は何か変わった? 妹からは『なんかケーキ作ってる……職種間違えてない? あいつ』って聞いてるけど」
「なぜケーキを私が頻繁に作ってることを知っているのか問い詰めたい」
「佐藤君がコラムでケーキのこと書いてたからじゃないかな?」
「…………読んでたのかあいつ。いやいや職種は間違えてない、ヘルパーとして働いている」

ちなみに子供たちは彼女の持ってきたお土産『人生ゲーム』に夢中で珍しく静かである。

「それがわっかんないのよね。佐藤君もともと現場で設計や整備してたんでしょ? なんでまた介護?」
「その辺もコラムで書いてるからご一読を、というか姉さんの妹(幼馴染)がきっかけだな」
「あの子? またなんか余計な事言ったのかしら?」
「いや、私が介護に向いてるって」

※コラム『なぜ介護?』をご一読ください。

「……それで決めたの? 相変わらずおおざっぱというか見切り発車というか。それで続いちゃうのが佐藤君らしいけど」
「まあ、いろいろ学びつつ何とかやっていけて……る?」
「なぜ疑問形。そういうからには思うところでもあるの? 珍しいじゃない、あんまり悩まないでしょ基本的に」
「基本的に、であって悩まない事はないよ。そして別に悩んでいるわけじゃあない。学んだ事が多いだけです」
「ふうん、例えば?」
「勘違い」
「……勘違い?」

おおよそ学ぶ、という言葉からは逸脱している単語だが事実そうなのである。
では何を『勘違い』しているかというと……認識だ。
利用者に寄り添い必要なケアを提供するのがヘルパーである。
そのために努力を惜しまないのは当然だが、先日こんなことがあった。
支援時間を終えて利用者様宅を離れる際、利用者さんから雑談を持ち掛けられる。もちろん普段であればほんの少しの時間おしゃべりするだけだがこの日は違った……ものすごい長いお話である。

  そのまま一時間ほど話をしている際にかけられた言葉は苦笑を禁じえなかった。

『佐藤さんなら何でもやってくれるから助かるよ』

額面通り受け取るなら喜ばしいことだが、この日はやんわりとこう返すことにした。

『何でもはできないよ。私だけができるというのはないですよ』

実は翌日も朝早くから仕事があり、事前に支援時間通りに帰らなければいけないことを利用者様にはお話ししていたのだ。しかし、この日利用者様はどうしてもおしゃべりしたくて私を引き留めてしまったということらしい。

『佐藤さんなら許してくれるから』

これは大きな勘違いである。
利用者様とそこからしばらく誤解を解くためさらに時間を有した。

何が勘違いなのかというと……『ヘルパーも人であり、生活をしているということ』

そして前述のとおり、たまたまその日は私にとって都合の悪い日だった。
根気よく利用者様だけの『佐藤』ではない事。

『○○さん。気に入ってもらえるのはうれしいし、とても助かりますがそれは相手の都合を踏み倒していい理由にはならないんですよ~』

その人その人で事情は違えど、家庭や生活がある事。

『でも……今日話したくて……』
『明日の朝、このまま仕事に行けないので一度家に(片道1時間)戻らないといけないんです』

利用者様の希望はかなえたいが、それがすべてではない事。

『○○さんも都合が悪いときとかありますよね? 私にもそういう時があります。そういう時は前もってお話しさせていただいてますよね?』
『いや~』

そんなことを話しているうちにさらに一時間が経っていた。

――それがほんの一週間前のことである。

「で? 結局……理解してもらえたの? というか翌日の仕事行けたの?」

お互いに、のほほんと私が作り置きしたクッキーを口にはこびながら幼馴染のお姉さんから問われる。

「多分……納得してくれているはず。で、仕事にはいったけどあまりにもヘロヘロなのを不憫に思われて途中で帰宅許可が出た」
「……なんというかまあ。大変だったわね」
「なあなあになって他のヘルパーさんにも副次的に迷惑かかるかもしれなかったから……」
「そういうことって結構あるの?」
「あると思う、実際実務者の資格講習でこういう例がありますって講師の方から似たような話を聞いたよ」
「それを実体験したわけだ。感想を20字以内で述べよ。ただし文中に必ず『佐藤は愚か』を使用すること」
「……小説から引用してまで私に自分は愚かと言わせたいのか?」
「お人好しを大概にしないから佐藤は愚かだ」
「……即答な上にちゃんと字面では20字以内だ。無駄に傷つけられた」

今回の会話で学んだ私の教訓は『ちゃんと言うべき事は言わなければならない』だ。


※佐藤健輔プロフィールはこちら