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雑感~権利の上に眠るな!~

雑感~権利の上に眠るな!~

古本聡



介護制度の利用者について言えば、自分で介助者を集められない人でも、ある程度の範囲では自由に生活できるようになってきたのは、非常に喜ばしいことではある。ピザの宅配を頼む感覚で電話一本して介護に来てもらえる。その気安さが為に昔とは違う問題が生まれてきた。利用者は、人間関係を一から作る努力をせずに、派遣されてきた介助者が気に食わなければ、これまた電話一本で事業所に、この介助者は自分のイメージとは違う、と文句を言う。これを繰り返す。

それはあくまで利用者の心構えが受け身であることを露呈する行動なわけで、事業所に依存する傾向が強くなっているだけではないのか。事業所が手を引くか、あるいは倒産し無くなれば、そんな受け身な利用者は、また家から出られない生活になってしまうんじゃないか…、と案じずにはいられない。「あくまで受け身」という点が気になるし、腹立たしくさえ思えてしまう。

ハングリーではなくなった障害者。一方ではそんなものを持っていなくても、なんとなく生きて行けるようになったことはよいことだ、と一定評価もできる。しかし、もう一方では、優生思想的な適者生存、弱者淘汰の傾向が強まってきている今の世の中を広く見渡すと、まだ安堵して、制度の上に胡坐をかくには早すぎるとも思う。

障害者解放運動の中で、ハングリー精神だけを頼りに、手弁当で、這いずり回るようにして、介助者がいなければボランティアを集めてでも懸命に命を繋ぐため、生活を継続するため活動してきた第1世代、第2世代。気が付けば第3世代、第4世代が育ってきていて、彼らは「生物学的に、ないしは社会的に殺されてしまうかもしれない」、という危機感を既に持っていない。日々の中で自分たちが受ける全く理不尽な、交通機関の利用制限や、障害を理由にした入店、入学拒否などの差別行為と、優生思想という巨大で狡猾、且つ非人間的なシステムとが密接に関連し合っていることに気付いてすらいない。「まるで学校でなが~い歴史の授業を聴いてるみたいだった」とは、優生思想に関連した私の講義を聴いた軽い障害を持った若い受講生の感想。これを聞いた私は、体中の力が抜け、一気に疲労感が増していくのを感じた。

自分たちの次の第3、第4世代は、「制度はあって当たり前」、介護サービス利用料も保障される。だが、その制度がある日無くなってしまったら、彼らは驚くほどひ弱だろう、と思わざるを得ない。

運動の歴史や、いま獲得している制度がどのような思考と行動の上に築き上げられてきたかを、今の世代が知らないというのは、部落解放運動でも女性運動でもあることだろうけれど、障害者の運動の世界も全く同じだな、と思う。時折、私の古くなった頭の中で、「権利の上に眠るな!」という市川房枝*)さんが残した言葉が思い出されたりする。

*) 市川 房枝(いちかわ ふさえ、1893年~1981年)は、日本の婦人運動家、政治家(元参議院議員)。


【筆者プロフィール】
古本 聡(こもとさとし)
1957年生まれ 脳性麻痺による身体障害1種1級
旧ソ連で約10年間生活。内5年間を現地の障害児収容施設で過ごす。
18~24歳の間、障害者運動に加わり、障害者自立生活のサポート役としてボランティア、介助者の勧誘・コーディネートを行う。
大学卒業後通訳・翻訳会社を設立、2019年まで運営。
2016年からユースタイルカレッジの重度訪問介護従業者養成研修統合課程での実習/講話を主に担当。
現在はユースタイルラボラトリー社員。
妻、娘の三人家族。