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生命に対する畏敬の念〜コロナ禍から考える〜

生命に対する畏敬の念〜コロナ禍から考える〜

安積遊歩



スウェーデンのコロナ対策は、ロックダウンもせず、経済活動も止めずに、人々の意志の力で乗り越えようという、それこそ強い意志を感じる。
感染者がどんどん減っているニュージーランドや台湾、そしてドイツやノルウェー、フィンランドなど女性首相のいる国とは、まるで違う対応をしている。

スウェーデンは世界で最も福祉の進んだ国とも言われ、日本でもスウェーデンに学ぼうとする人々は、福祉や教育の分野でも多くいる。
私も30年近く前になるが、1度訪れたこともある。しかし今回、スウェーデンの感染者数や死亡者数は、ずいぶん多い。高齢者が中心であるそうだが、随分前に死者も1000人を超えた。

そこで色々なことをしみじみと考えてみた。
スウェーデンは確かに高福祉を実現しているが、なぜ今回はロックダウンをしないのか。経済活動を止めず、学校を休校にしない理由も、人々の自由意志の暴走の方が怖いという事なのか。
子供から教育の機会を奪うことで家の中での虐待が増えることも怖れているとも聞いた。つまり休校して家庭の中で起こるDVや虐待の方が、問題であるというわけだ。

しかしそれにしても、とやっぱり思う。
日本はほとんど検査をしていないから、日本の感染者数や死亡者数の報道は、私はほとんど信じていない。だから比較する気にはなれない。

ただ娘の住むニュージーランドは、ついにロックダウン1ヶ月半で、感染者数0の日が何日かある。レベル4の自粛も、レベル3まで引き下げられた。テイクアウトのみだがレストランも再開され、林業や道路工事の仕事はできるようになった。
娘はDVの男性加害者プログラムでファシリテーターをオンラインでしているという。これはテレワークができるということで、まだ自宅待機を続けているが。こんなに違うので、私の中では、しょっ中ニュージーランドとスウェーデンとを比較してしまっている。

このニュージーランドの詳しい話は、娘がオンラインイベントでイベントをするというので、その報告に任せることにしよう。
ここでは更に私の考えを進めてみよう。

私が地域に出ようとした時の、最初にリーダーシップをとっていたのは脳性麻痺の人々、「青い芝の会」だった。福島でも養護学校の先輩2人が「全国青い芝の会」の支部を立ち上げた。「青い芝の会」は脳性麻痺の、特に男性たちが中心になって作った会だ。
私の記憶の中にある最初の彼らは、NHKの「現代の肖像」(クローズアップ現代の元版)に取り上げられていたものだ。私が10代の半ばぐらいで自己否定感満載の頃だったから、彼らの主張に耳を塞ぎたくなりながら見ていた。

ところがその後、退屈で孤独な在宅生活の中、「花見会をするからおいで」と誘われたことをきっかけに、私は障がいと命に対する認識をどんどん新たにしていった。

青い芝の会の思想と活動は、障がいの特に重い人を原点とする。障がいの重い人たちが地域の真ん中で、生き生きと生きられる社会こそが、本当に良い社会というわけだ。だから、障がいの重い人たちはどこに居るのか、尋ねて歩く活動から始まった。

在宅訪問の中で出会った人たちは、学校教育にも組み込まれることなく、ただひたすら家族のケアを受け、生きていた。家族も地域社会の中で、彼らが家の中にいるということを、ほとんどオープンにはできていなかった。
納屋の2階や座敷牢のような奥の部屋に隠されていた人々との出会いを求めて、私たちは何度も足を運んだ。

家族によっては、彼らを訪問する私たちを、非常に奇妙と感じながらも、我が子に近付こうとしてくれる人々に好意を示してくれた人もいた。
しかしそうした家族は非常に稀で、大抵の場合、私たちを「気味が悪い我が子のところに、更に訳の分からない不具者達が来た」と言わんばかりに、追い返されることもよくあった。

それでも何度も何度も、諦めずに尋ねることで、私の中にしっかりと根付いたもの、それは「生命への畏敬の念、あるいは畏怖感」というものだった。

言葉も無く、オシメをされながら天井の一点をじっと見つめる寝たきりの仲間たち。あるいは、歩いたり動いたりできる者は、物置や座敷牢に閉じ込められ、「1日1食か2食しかくれないで、早く死んで欲しいと思っている」と母親に言われながら生き延びている姿。
福島青い芝の会は、彼らを仲間と呼んで、彼らとの関係性作りは活動の中心の一つだった。
温泉街に住んでいたある仲間は、祖母と一緒にリビングにいて、私たちが繰り返し尋ねる中で心を開いてくれるようになった。というのも、彼女の祖母が、「自分にとって悪いことを言う奴がくると、絶対に顔を上げない。だけどあんたたちのことは顔をあげて、ニコニコする様になったから、あんたたちはいい人たちだぞい」と言ってくれたからわかったことではあるが。

何度か行くうちに、彼女を連れて、町の共同温泉にも行くようになった。もちろん私1人で行くことは不可能だから、健常者の仲間と私と4人くらいで、月に1回は行こうと頑張った。

その後、福島青い芝の会は地域にさらに根付こうと、当事者自身による作業所作り等に乗り出した。廃品回収や内職のような作業をしながら、地域での生活を求め実現して言った。しかし、福島県青い芝の会としては1980年代の前半には、重い障害を持つ人たちが隔離や排除のない地域生活を実現するという命題半ばに、発展解消することとなった。

その他にも様々なことがあり、1983年、私はアメリカで自立生活運動を学ぶこととなった。その地で、自立生活運動のリーダーであったジュディ・ヒューマンとした会話は今でも忘れられない。

私は在宅訪問で出会った、重い障害をもつ仲間たちは、アメリカの自立生活運動の中でどんな位置にいるのか、と彼女に尋ねた。彼女は真剣に聞き、答えてくれた。「重い障害を持つ人たちを本当に助けるには、私たち自身が助からなければならない。自分が何をしたいのか、どうありたいのか、を真剣に考えて、それを実行していくことが大切。重い障害を持つ人たちが、本当の意味で助かるために、私たちは私たちの人生に、まず責任を取らなければならない。」私はそれを聞いて、どこかでとてもホッとしながらも、どこかに薄暗い部屋に置き去りにされていた仲間たちに、さらに後ろめたい気持ちが募るのを感じた。

バークレーの自立生活センターでは、私が福島にいた当時、出会った重複の重い障害をもつ仲間らしい人には、誰一人出合わなかった。重い言語障害を持っていても、意志をそれなりに周りの人に伝えるのは可能な人ばかりだった。

私にとっての障害者運動は、あの在宅訪問で出会った重い重複の障害を持つ仲間との平等や、彼らの解放とは何か、というところから始まっている。声をかけても少しも返事をしてくれることなく、あーあーと声をあげるだけで、存在することの意味をある意味、徹底的に混乱させてくれる人々、それでも彼らは生きていた。そして、彼らに生きていて欲しいと願い続けてケアする家族も、確かにいた。訪ねる中で、自分もまた彼らと同じように見なされる、個性を持ちながらも、彼らの生命にただひたすらな畏れと、時に慈しみを感じ続けた。

アメリカから帰ってからは、重い重複の仲間の命が見せてくれていた、畏怖感や慈しみからは離れて、自分のしたい事に邁進する事になった。「結婚」である。ところが、日本の女性差別は半端なく厳しいから、障害を持つ私は女ではなく、ましてや嫁や妻でもないと彼の家族に罵られた。この凄まじい女性差別の中で、私は自由意志と人権思想だけでは、全く動かない日本の厳しい現実を徹底的に思い知った。

ところで今回女性首相のいる国は、コロナ対策に早い時点から非常に賢い決断判断をし続けている。

ニュージーランド、ドイツ、ノルウェー、フィンランドなど、女性がリーダーシップをとる中に、生命に対する尊重を越えた畏敬の念を感じ、それを守ろうとする潔さと必死さ、そして抜群のコミュニケーション能力が見える。

残念ながら日本社会と特に政治は、圧倒的な男性中心社会だから、女性のリーダーシップが微塵も発揮されていない。女性の体が持つ生命を継承していくという、どの命にとっても最も大事な生命の有り様が、暮し、教育、労働、医療、あらゆる場で蔑ろにされている。

自分の体を大事にできなければ、人の命に敏感になれるはずはない。
女性首相たちの行動力は自分の体にある命を守ろうとする本能にも則っているかのようだ。

しかし、スウェーデンの医療は、あくまでも命を守ろうとする視点はなく、自由意志を尊重するというところに立っているかのようだ。
A L Sの人やお年寄りの人の人工呼吸機器装着率は、コロナが広がる前からも、低く抑えられてきた、と聞く。

そんな中、日本の障害者運動は、世界の中でも重い障害を持つ人たちが地域の中で自立しようとする活動の盛んな国と言われている。
世界の中で常に110位以下の、日本の女性の地位、その差別の激しさをよそに、重い障害を持つ人と支援者の群れが少しずつではあるが、広がっている日本という不思議な国。その核にあるのが、この生命に対する畏怖感、畏敬の念ではないかと思うのだ。
しかしその感覚は容易に権力によって利用されてきたし、利用されてしまう。

このコロナウイルスで女性のリーダーシップがどんなに生命を守るという事に対して機能していることが明らかになった。それにプラスして、日本の障害者運動が果している、どんなに重い障害を持つ人にも、地域生活の実現を、という真実の理念を広げていくために、私たちの役割はさらに大きい。

【略歴】
1956年、福島県福島市生まれ。生まれつき骨が弱いという特徴をもつ。22歳で親元から自立。アメリカのバークレー自立生活センターで研修後、ピアカウンセリングを日本に紹介。障害者の自立生活運動をはじめ、様々な分野で当事者として発信を行なっている。
2019年7月、NHKハートネットTVに娘である安積宇宙とともに出演。