筋ジストロフィー

筋ジストロフィーは筋ジストロフィー(筋ジス)とは、筋肉(骨格筋)の変性や壊死(えし)が起きる遺伝性疾患の総称。進行性の筋力低下や筋の変性、萎縮を特徴とする疾患。類似した筋症状を示す疾患は多数ある。
筋症状の発症年齢や症状が強く認められる部位、進行の速度、遺伝形式などによっていくつかに分類されているが、比較的頻度の多いのは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィーなどである。
この内、最も頻度の高いのはデュシェンヌ型である。2015年7月に難病指定され、日本国内の患者数は約25400人と推計されている。

症状や発症年齢、遺伝形式によって分類される「病型」
「筋ジストロフィー」は発症年齢や遺伝形式(病気の伝わり方)に応じて分類される「病型」がある。
ジストロフィノパチー
デュシェンヌ型筋ジストロフィー
ベッカー型筋ジストロフィー
女性ジストロフィノパチー
肢帯型筋ジストロフィー
先天性筋ジストロフィー
筋強直性ジストロフィー
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
エメリー・ドライフス型筋ジストロフィー
眼咽頭型筋ジストロフィー

小児領域における代表疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーはX染色体劣性遺伝という遺伝形式を取る疾患で、ほぼ男児に限って3000人に1人ほどの頻度でみられる。小児期から筋力低下がみられ、歩行障害、呼吸、嚥下障害などを認め、生活のためには車椅子や人工呼吸器が必要になってくる。
一方、成人にみられる筋ジストロフィーも多数ある。筋強直性ジストロフィーは比較的頻度が多く、頚部や肩の筋萎縮に加え、手を握ったり物を掴んだりするとうまく離せないという症状(筋強直症)がみられる。

筋ジストロフィーの症状
動きにくくなるだけではなく、さまざまな症状がある。筋肉(骨格筋)の障害は、運動機能(歩いたり手を動かしたり)の低下だけでなく、以下のようなさまざまな症状を引き起こす。
- 咀嚼(かみ砕く)、嚥下(飲み込む)、構音(言葉の発音)機能の低下
- 眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)、閉眼困難(目が閉じにくい)、眼球運動の障害
- 表情の乏しさ

次のような症状も骨格筋の障害により起きることがある。
- 拘縮(関節が硬くなり、動かせる範囲が狭くなる)・変形
- 骨粗しょう症(骨が弱くなる)
- 歯列不正(歯並びの乱れ)、咬合不全(かみ合わせの不良)
- 呼吸不全、咳嗽力低下(強い咳ができず、痰が出し切れない)
- 誤嚥(ごえん:食物や唾液などが誤って気管に入ってしまう状態)・栄養障害
心臓(心筋)や腸の運動(平滑筋)にも筋肉が関わるため次のような症状も起きる。
- 心不全・胃腸の機能不全・便秘(平滑筋障害)

一部の病気では、筋肉の障害以外に下記の症状も合併することがある。
- 中枢神経障害:知的障害発達障害、けいれん
- 眼症状:白内障、網膜症
- 難聴

筋ジストロフィーの治療法
体の機能と合併症の有無を定期的に検査すること、将来に生じる障害を予見した対応を取ることが基本。
運動機能とそれ以外の機能障害・合併症については、疾患ごとの特徴はあるものの、順序は定まっていない。

リハビリテーション
健康維持や生活の質・活動範囲を維持する上で、早期からの導入が必要です。
リハビリテーションは関節可動域訓練、転倒・事故予防対策、装具や車いす処方、呼吸理学療法、摂食嚥下訓練、IT訓練・社会参加支援などが中心です。
筋力増強を目的とした筋力トレーニングは筋肉を痛めるリスクが高いため、勧められない。

呼吸機能低下への対応
呼吸機能(肺活量)が低下し、血液中の酸素や二酸化炭素を正常に維持できなくなる(呼吸不全)と、人工呼吸療法を行う。一般的に非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)という、マスクを用いて呼吸を補助する人工呼吸器を使用する。。人工呼吸器を適切に使うことで、呼吸不全による死亡は激減する。一方で、不適切な使用法や設定により、十分な効果が得られていない事例も多く見られる。専門医療機関できちんとした管理を受けられることが望ましい。
筋ジストロフィーでは多くの患者が、呼吸器管理期間が長期に及ぶ。良好な呼吸管理を維持するには、肺をきれいに保つこと・柔らかく保つこと(二次性肺障害の予防)がきわめて重要。呼吸リハビリは、この目的において不可欠なもの。また、在宅で呼吸器を使用される神経筋疾患患者には排痰補助装置が保険適応となっている。

心機能低下への対応
心機能の低下(心不全)に対しては、心保護剤を中心とした対応を行う。規則正しい生活や体重管理、十分な睡眠確保など生活管理も重要だ。呼吸不全が存在する場合は、適切な呼吸管理が必要。不整脈については薬物治療のほか、ペースメーカー・除細動器などの植え込み式機器や心臓カテーテルによる焼灼術(アブレーション)を行う。
筋ジストロフィーでは運動機能の低下や呼吸器装着などで、一般の人に比べて心臓への負担が低下しているので、心機能が低下していても自覚しにくいのが特徴である。このため、心機能低下に気づかずに過ごしていて、感染などをきっかけに突然心不全が悪化し重篤な事態に至ることがある。

咀嚼・嚥下機能低下への対応
咀嚼・嚥下機能が低下すると、十分な栄養が摂取できない、食べたものや唾液が気管に入る「誤嚥」を生じるようになる。
臨床症状や嚥下機能評価に基づき、嚥下訓練や食形態の調整、補食などを考慮する必要がある。
十分な栄養が摂取できない、誤嚥リスクが高い場合は経管栄養や胃ろう造設も行う場合がある。
脊柱変形への対応
筋ジストロフィーの患者は、歩行可能な時期から足の拘縮・変形が見られるようになり、小児期発症の患者さでは、歩行不能になった後に脊柱の変形(側弯)や胸郭の変形が見られることが多くある。
これを防ぐために、早期からの下肢関節可動域訓練、立位訓練、座位姿勢の指導が重要で、車いすを使うようになってからも、適切なシーティングが重要である。

引用元:クリニカルステーション(https://mdcst.jp/md/