重度訪問介護

【法令根拠】
 重度訪問介護は障害者総合支援法(正式名称:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)で定められている障害福祉サービスの一つ。  同法第五条第3項において、「重度訪問介護」とは、重度の肢体不自由者その他の障害者であって常時介護を要するものとして厚生労働省令で定めるものにつき、居宅又はこれに相当する場所として厚生労働省令で定める場所における入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に供与することと定義されている。
 介護保険法を根拠とする居宅サービスの「訪問介護」とは別のサービスである。

【重度訪問介護の対象者】
重度訪問介護の対象者は厚生労働省令(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則)第一条の四で規定されており、重度の肢体不自由者又は重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって、常時介護を要するものとされている。具体的には以下の基準とされている。 

障害支援区分が区分4以上(病院等に入院又は入所中に利用する場合は区分6であって、入院又は入所前から重度訪問介護を利用していた者)であって、次のいずれかに該当する者
 1 次のいずれにも該当する者
  (1) 二肢以上に麻痺等があること
  (2) 障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも「支援が不要」以外と認定されていること
 
 2 障害支援区分の認定調査項目のうち行動関連項目等(12項目)の合計点数が10点以上である者

【重度訪問介護の一般的なサービス内容】
 一般的に、常時介護が必要な重度障害者の居宅や入院中の病院に訪問し、排泄や食事のみならず、身の回りのこと全てを介護するサービスであり、訪問時間も日中、夜間問わず10時間前後のサービスとなる場合が多い。


【重度訪問介護の問題点】
〇通勤における重度訪問介護の利用が認められていない。

社会保障審議会障害者部会(第67回)(平成27年7月14日開催)の資料1- 1において、『個別給付については、障害者の社会参加の促進、地域での障害者の自立した生活を支える上で重要であるが、これらの制度の趣旨や人員・財源の制約などから、「通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出」は対象外としている。」と記載されている。 また、平成29年7月21日付けで、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課から 「経済活動に係る支援については認められない」との回答が出ている。 どうしても介助者を通勤や職場で必要とする場合は、企業が負担することになっているので、企業側としてはそこまでの負担は背負いきれず、重度障害者の雇用には足踏みしてしまうため、重度障害者が経済的に自立したいと思っても、この問題が壁となって自立が進まないという矛盾が生まれている。

〇障害児の重度訪問介護の利用が認められていない。

 重度訪問介護の対象者は障害者総合支援法第五条の3で「障害者」とされており、その「障害者」の定義が同法第四条で(障害のある)「十八歳以上のもの」とされているため、十八歳未満の障害児は重度訪問介護を利用できないことになっている。
 実際に重度の障害児を抱える家庭では重度訪問介護のように重度障害児を長い時間、ヘルパーに介助してもらえる制度が無いため、居宅介護や訪問看護、移動支援等、短時間の制度を組み合わせていかざるを得ず、保護者や家族にとってとても負担の大きい状態になっている。


【障害福祉サービスの全体像】
障害者総合支援法で定められている障害福祉サービスは以下の通り。大きくは介護給付と訓練等給付の2つに分けられる。

<介護給付:介護を行うためのサービス>
居宅介護
 居宅において入浴、排せつ又は食事の介護等を提供するサービス
重度訪問介護
 重度の肢体不自由者その他の障害者であって常時介護を要するものに対して、居宅や病院等において入浴、排せつ又は食事の介護等や外出時における移動中の介護を総合的に提供するサービス。
同行援護
 視覚障害により、移動に著しい困難を有する障害者等に対して、外出時において、当該障害者等に同行し、移動に必要な情報を提供するとともに、移動の援護等を提供するサービス。
行動援護
 知的障害又は精神障害により行動上著しい困難を有する障害者等であって常時介護を要するものに対して、当該障害者等が行動する際に生じ得る危険を回避するために必要な援護、外出時における移動中の介護等を提供するサービス。
療養介護
 医療を要する障害者であって常時介護を要するものとして厚生労働省令で定めるものにつき、主として昼間において、病院その他の厚生労働省令で定める施設において行われる機能訓練、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護及び日常生活上の世話等をするサービス。
生活介護
 常時介護を要する障害者として厚生労働省令で定める者に対して、主として昼間において、障害者支援施設その他の厚生労働省令で定める施設において行われる入浴、排せつ又は食事の介護、創作的活動又は生産活動の機会の提供等を行うサービス。
短期入所
 居宅においてその介護を行う者の疾病その他の理由により、障害者支援施設その他の厚生労働省令で定める施設への短期間の入所を必要とする障害者等につき、当該施設に短期間の入所をさせ、入浴、排せつ又は食事の介護等を行うサービス
重度障害者等包括支援
 常時介護を要する障害者等であって、その介護の必要の程度が著しく高いものとして厚生労働省令で定めるものにつき、居宅介護その他の厚生労働省令で定める障害福祉サービスを包括的に提供するサービス。
施設入所支援
 その施設に入所する障害者につき、主として夜間において、入浴、排せつ又は食事の介護等を提供するサービス。

<訓練等給付:日常生活や社会生活を営むために必要な訓練を提供するサービス>

自立訓練
 障害者につき、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、厚生労働省令で定める期間にわたり、身体機能又は生活能力の向上のために必要な訓練等を提供するサービス。
就労移行支援
 就労を希望する障害者につき、厚生労働省令で定める期間にわたり、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等を提供するサービス。
就労継続支援
 通常の事業所に雇用されることが困難な障害者につき、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練等を提供するサービス。
就労定着支援
 就労に向けた支援として厚生労働省令で定めるものを受けて通常の事業所に新たに雇用された障害者につき、厚生労働省令で定める期間にわたり、当該事業所での就労の継続を図るために必要な当該事業所の事業主、障害福祉サービス事業を行う者、医療機関その他の者との連絡調整等を行うサービス。
自立生活援助
 施設入所支援又は共同生活援助を受けていた障害者その他の厚生労働省令で定める障害者が居宅における自立した日常生活を営む上での各般の問題につき、厚生労働省令で定める期間にわたり、定期的な巡回訪問により、又は随時通報を受け、当該障害者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言等を行うサービス
共同生活援助
 障害者につき、主として夜間において、共同生活を営むべき住居において相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他の日常生活上の援助を行うサービス。


【障害福祉サービスの利用者負担】

障害者総合支援法の障害福祉サービスは原則「1割」負担とされており、それ以外は税金で賄われている。さらに利用者負担額については世帯ごとの前年の収入に応じて負担額の月額上限が定められており、その金額以上の自己負担は生じないことになっている。生活保護受給世帯や住民税が非課税の世帯については、利用者負担はない。

<障害者の利用者負担の月額上限>
・生活保護受給世帯・・・0円
・市区町村民税非課税世帯・・・0円
・市町村民税課税世帯
(所得割16万円未満:前年世帯年収約300万円~600万円)・・・9,300円
・上記以外(前年世帯年収約600万年超)・・・37,200円

世帯の範囲には、十八歳以上の障害者の場合は利用する本人と配偶者が含まれ、本人と配偶者の前年の収入を参考に負担額を決定する。親の収入は本人の前年の収入には換算されないことになっている。
十八歳未満の障害者の場合は、保護者の属する住民基本台帳での世帯が範囲となる。
ただし、サービス事業所やグループホームなどで発生する食費、光熱費、交通費などの生活費などは自己負担。

【障害福祉サービスの利用方法】

障害者総合支援法に定められているサービスを利用するには、以下の手順で申請を行って支給決定を受ける必要がある。

① 居住地の市区町村に申請
居住地の市区町村の障害保健福祉窓口で支給申請を行う。
 尚、介護給付の申請では医師の意見書が必要となるが、意見書は市区町村が医師へ依頼する場合もある。
② 障害支援区分の認定調査
申請を受けた市区町村は、サービスの必要性について面接を含む80項目の認定調査を実施し、障害支援区分を認定する。
障害支援区分には「非該当」と「区分1~6」の合計7区分があり、区分の数字が大きくなるに従って支援の程度が高くなる。
③ 利用意向の聴取、サービス等利用計画案の作成と提出
 市区町村から「サービス等利用計画案」の提出を求められる場合は提出が必要。サービス等利用計画案は、市区町村が指定する「指定特定相談支援事業所」の相談員に依頼して作成することができるほか、本人や家族、支援者が「セルフプラン」を作成することも可能。
※指定特定相談支援事業所にサービス等利用計画案の作成を依頼する場合は、市区町村の障害保健福祉窓口で計画相談支援の利用申請を行い、相談支援事業所リストから選んだ指定特定相談支援事業所と契約を結ぶ。指定特定相談支援事業所の相談員が面接を行い、サービス等利用計画案を作成する。計画相談支援の利用は無料。
④ 支給決定
申請者に支給決定通知書と受給者証が送付される。通常、申請から支給決定まで1~2ヶ月を要することが多い。
⑤ サービス等利用計画の作成と提出
サービス等利用計画を作成し、市区町村へ提出する。サービス等利用計画案とは異なり、サービス等利用計画は、サービスを利用する具体的な事業所名を記載して市区町村へ申告する。
⑥ サービスの利用開始
サービス等利用計画に記載した事業所で利用者が受給者証を提示して契約を結び、利用を開始となる。