多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)とは、
錐体路、小脳および自律神経の障害を引き起こし進行する神経変性疾患であり、次の3つの疾患に起因する。

線条体黒質変性症
筋強剛、動作緩慢、無動、姿勢反射障害などの症候が初発時より見られるので、パーキンソン病との鑑別を要する。パーキンソン病と比べて、安静時振戦が少なく、進行は早く、抗パーキンソン病薬が効きにくい。また、声が高調で震える構音障害がよくみられる。

オリーブ橋小脳萎縮症
運動失調、測定障害、拮抗運動反復障害(迅速な交代運動が困難となる)、協調運動障害、眼球運動異常などの症候があり、中年以降に起立歩行時のふらつきなどの小脳性運動失調で初発し主要症候となる。
多系統萎縮症の中でも最も頻度の高い病型である。初期には皮質性小脳萎縮症との区別が付きにくく、二次性小脳失調症との鑑別が重要である。

シャイ-ドレーガー症候群
起立性低血圧(症状を伴う起立時の血圧低下で、しばしば失神を伴う)や尿閉 、尿失禁などの排尿障害、便秘、呼吸および嚥下困難、涙液および唾液の減少、勃起障害など自律神経症候で初発する。
頻度の高い自律神経症候としては、勃起障害(男性)、呼吸障害、発汗障害などがある。注意すべきは睡眠時の喘鳴や無呼吸などの呼吸障害であり、早期から単独で認められることがある。呼吸障害の原因として声帯外転障害が知られているが、呼吸中枢の障害によるものもあるので気管切開しても突然死があり得ることに注意が必要である

いずれの病型においても、進行するとこれら三大症候(小脳症候、パーキンソニズム、自律神経障害)は重複してくること、画像診断でも脳幹と小脳の萎縮や線条体の異常等の所見が認められ、かつ組織病理も共通していることから多系統萎縮症と総称されるようになった。

自律神経障害で発症して数年を経過しても、小脳症候やパーキンソニズムなど他の系統障害の症候を欠く場合は、他の疾患との鑑別を要する。

主な治療は循環血液量の増量、圧迫帯、および血管収縮薬による対症療法となる。
パーキンソン症候があった場合、抗パーキンソン病薬は、初期にはある程度は有効であるので治療を試みる価値はある。また、自律神経症状や小脳失調症が加わってきたときには、それぞれの対症療法を行う。呼吸障害には非侵襲性陽圧換気法などの補助が有用で、気管切開を必要とする場合がある。嚥下障害が高度なときは胃瘻が必要となることも多い。リハビリテーションは残っている運動機能の活用、維持に有効であり積極的に勧め、日常生活も工夫して寝たきりになることを少しでも遅らせることが大切である。

この疾患は臨床所見、自律神経所見、およびMRI所見に基づいて診断するが、パーキンソン病、レビー小体型認知症、純粋自律神経不全症、自律神経性ニューロパチー、進行性核上性麻痺、多発性脳梗塞、および薬剤性パーキンソニズムでも同様の症状が生じることがあるため、認められる症状に応じた治療を行う必要がある。

引用元:難病情報センター 多系統萎縮症(指定難病17) https://www.nanbyou.or.jp/entry/221