ノーマライゼーション

定義
ノーマライゼーションまたはノーマリゼーション(英語: normalization)とは、英語で「normalization」とは「標準化・正常化」、または「常態化」という意味があり、1950年代に北欧諸国から始まった社会福祉をめぐる社会理念の一つで、障害者も、健常者と同様の生活が出来る様に支援するべき、という考え方である。また、そこから発展して、障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿であるとする考え方としても使われることがある。

またそれに向けた運動や施策なども含まれる。「障害がある人を変える」という意味合いではなく、彼らがありのままで健常者とともに生活ができるように「周りが変わる」という視点も含まれる。日本の国立国語研究所は等生化という、日本語に言い換える例も提案している。また、性別や人種、民族や国籍、出身地や社会的地位、障害の有無など、その持っている属性によって排除されることなく、地域であたりまえに存在し、生活することができる社会を目指す理念として理解されることが、今では多い。

歴史的経緯
ノーマライゼーションの理念は、1950年代にデンマークの社会省担当官だったニルス・エリク・バンク=ミケルセンによって考案され、それをさらに発展させて普及させたのがスウェーデンの「ノーマライゼーションの育ての父」ベンクト・ニリィエである。

当時のデンマークでは、知的障害者を家族や社会から完全に切り離し、特別施設に収容するという措置が行われていました。そのあつかいも、人権が守られないようなひどいありさまだった。その改善をもとめて、知的障害者の親の会が運動を起こし、1950年に政府に要望を提出した。そこで、運動にかかわっていたバンク=ミケルセンが提唱したのがノーマライゼーションであった。それを受け、デンマークでは1959年に知的障害者福祉法が成立。知的障害者にも、一般市民と同じ生活と権利が保障された。その条文にも、ノーマライゼーションという言葉が記されている。この法律は「1959年法」として知られるようになり、1960年代にはスウェーデンやイギリス、そしてアメリカなど世界中にノーマライゼーションの考え方が伝わっていった。その過程で、対象者も知的障害者だけではなく、すべての障害者や社会的弱者、そしてマイノリティへと広がった。

ノーマライゼーション8つの原理
スウェーデン知的障害児者連盟のベンクト・ニィリエは、そのノーマライゼーションの理念を整理し、「社会の主流となっている状態にできるだけ近い日常生活を、知的障害者が得られるようにすること」として以下の8つの原理を定義した。彼がこれをアメリカにも広めたことで、この考え方が世界中に広まることになった。
・1日のノーマルなリズム
・1週間のノーマルなリズム
・1年間のノーマルなリズム
・ライフサイクルでのノーマルな発達的経験
・ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
・その文化におけるノーマルな両性の形態すなわちセクシャリティと結婚の保障
・その社会におけるノーマルな経済的水準とそれを得る権利
・その地域におけるノーマルな環境水準

ノーマライゼーションの身近な例
車椅子が走行しやすいように、段差や障害物を減らすバリアフリー化が進められたり、車椅子利用者対応トイレ、エレベーターが整備されたりしているが、これもノーマライゼーションの具体例である。また、2017年からは、車椅子に乗ったまま乗車ができるユニバーサルデザインタクシーサービスが始まるなどしている。

 バリアフリー、ユニバーサルデザインとの違い
バリアフリーとは、「高齢者や障害者が社会生活を送る上で障壁となるものを取り除くこと」で、建物などの段差や仕切りをなくし、車椅子などが走行しやすいようにすることを指す。現在では、設備だけにとどまらず、社会制度、人々の意識、情報など、さまざまな障壁を取り除くことも意味している。一方、ユニバーサルデザインとは、「はじめから、誰にでもやさしい商品や環境であるためのデザイン」のことで、障壁をなくすという発想ではなく、あらかじめ障壁のない設計をあたりまえにしようとする考え方である。双方とも、ノーマライゼーションの一部となる概念である。


日本におけるノーマライゼーションの取り組み

厚生労働省のノーマライゼーションの理念
厚生労働省が提唱しているノーマライゼーションとは、「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指す」という理念です。「以前は特異と思われていたことがあたりまえの状態になっていること」、という意味を含んでいる。これを理念としてのノーマライゼーションに当てはめる場合、「障害がある人を変える」という意味合いではなく、彼らがありのままで健常者とともに生活ができるように「周りが変わる」という視点も持ち合わせている。

ノーマライゼーションの歴史 北欧デンマーク発祥
この「ノーマライゼーション」という言葉が誕生した背景には、ある人々が対等に扱われなかったという出来事がきっかけとしてあった。その現状を改善しようと、一人の男性がノーマライゼーションという理念を誕生させた。

日本でのノーマライゼーション進展状況
日本では、1981年「国際障害者年」をきっかけに認識されはじめ、これまでに政府が施策を実施してきた。また、民間でも多くの法人などが取り組みを進めている。

日本ノーマライゼーション協会
社会福祉法人ノーマライゼーション協会とは、「すべての人の人権を基軸としたノーマライゼーション社会の実現」を理念として、障害者、高齢者の日常生活などを支援するための事業や施設の経営・運営を行っている機関である。

教育現場におけるノーマライゼーション
教育の現場においてもノーマライゼーションが浸透しはじめており、「どのような背景をもつ子供・大人もともに学ぶ仕組みや環境が整った教育システム(インクルーシブ教育システム)」が世界的に関心を集め、実現されてきている。

インクルーシブ教育システム
英語のインクルーシブ「inclusive」は、「あらゆるものを含めた」という意味合いがある言葉。日本における「インクルーシブ教育システム」は、障害のある幼児・児童への配慮や学びの選択肢を増やし、障害の有無に関わらず、可能な限り共に教育を受けることができるシステムとされている。さらには個々のニーズに応えた指導を受けることもできるように、少しずつなってきている。日本国内の具体例としては、保育現場に専門家が訪問し、障害のある子供の指導を支援する「保育所訪問支援」などが挙げられる。 一方、海外においては、障害児だけではなく、英才児、ストリートチルドレン、働いている子供、過疎地の子供、言語的・民族的・文化的に少数派の子供などが含まれ、まさにどのような子供も、ともに学ぶという考えが強い。

日本におけるノーマライゼーションの課題、問題点
これまでノーマライゼーションに基づいたさまざまな取り組みが行われてきたが、いまだに障害者に対する、「障害があり、助けが必要な人」という視線が一般に根強くあることは否めまない。例えば、車椅子ユーザーが直面する悪路などの物理的なハードル、「車椅子に乗っている人」として見られる心理的なバリアはまだまだ存在し、これらは今後取り除かれていく必要がある。車椅子に乗らない障害者や、高齢者、子供たちに対する課題もそれと似ていて、まだまだ本人たちの能力や可能性を高められるようなノーマライゼーションに基づいた価値観が一般化されていないというのが現状である。

自立し、共生できる世界を目指して
ノーマライゼーションというと、障害者、高齢者のみにどうしても結びつきがちだが、誰しもが何かしらの不便や問題を抱えている。しかし、それを見ないふりをしたり、押しとどめたり、急激に変えようとしても問題の解決にはならない。問題を抱えながらも、「誰もが幸せに暮らせる社会を築く」という視点を養うことが、今、我々日本人全体に問われているのだ。ごくあたりまえの視点で、もし自分がその立場だったらどうあってほしいかを考えることが、ノーマライゼーションといえるのではないだろうか。