知的障害

「知的障害」(英:intellectual disability)という呼称は、「精神遅滞」(mental retardation)とほぼ同意義であるが、現在では前者が使われることが多くなった。通常は、知能検査で測定した知的機能の遅れにより定義されるが、本来は、生活面における適応機能の障害も知的障害の大きな要因であることが分かっている。適応機能の障害の程度を定めるのは困難であるが、必要なサポートの大きさによって定義すると、実生活に置いて把握しやすい。知的障害は発達期(乳幼児期~18歳)頃に明らかとなるものであり、認知症などの成人・老年期に発症する知的機能の低下とは全く異なる。更に、全般的な知的水準の遅れであり、部分的に困難さを伴う「学習障害」(学習障害は発達障害に分類される)とも異なる。また、知的障害の程度により、原因、特徴、経過の違いに応じて、一般的に、軽度、中等度、重度、最重度に分類される。それぞれの基準の目安も設けられている。生涯にわたり心理療法的・社会的な支援を必要とすることが多い。

日本では、昔、「精神薄弱」が同義語として長期間利用されてきたが、1998年の「精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律」により、用語からくる偏見を避けるため、「知的障害」に統一された。2000年版DSM-IV-TR(精神障害の診断と統計マニュアル)では、「精神遅滞」という用語が使われているが、以下のような定義となっている。

1.明らかな知的機能の遅れ:個別施行による知能検査で、おおよそ70以下のIQ(平均より2標準偏差下が目安)(幼児においては、臨床的判断による)
2.同時に、現在の適応機能(すなわち、その文化圏でその年齢に対して期待される基準に適合する有能さ)の欠陥または不全が、以下のうち2つ以上の領域で存在:コミュニケーション、自己管理、家庭生活、社会的/対人的技能、地域社会資源の利用、自律性、発揮される学習能力、仕事、余暇、健康、安全
3.発症は18歳以前である
軽度:IQ(intelligence quotient:知能指数)レベル50~55からおよそ70~75
中等度:IQレベル35~40から50~55
重度:IQレベル20~25から35~40
最重度:IQレベル20~25以下

別の診断体系であるICD-10(国際疾病分類)では、「知的障害」と「精神遅滞」が併記され、基準は上記と似ている。発達期に明らかになる全体的な知的機能の水準の遅れ、そしてそのために通常の社会環境での日常的な要求に適応する能力の乏しさで判定される。しかしながら、知的機能は、知能検査によって測定されるが、知的機能と適応機能の全体的な能力の評価に基づいて行うべきである。IQ(intelligence quotient:知能指数)は、標準化され、地域の文化的基準が組み込まれ、個別的に施行される知能テストで決めるべきだとされている。

また、IQの定義自体が単一でない(適応機能など他の基準もある)、幼児期にはDQ(developmental quotient)にて推定することもあり、変化しうる、重度もしくは最重度では合併症のための死亡率が高く年齢が上がるにつれて有病率は低下するなどの理由により、正確な有病率の測定は困難と考えられている。


重症度分類:
軽度知的障害
知的障害のおよそ85%を占め、就学までは気づかれにくい。成人期までに、およそ小学校高学年程度の知能を身につける。成人後は、適切な支援を受けて生活し、家族を持つことや、簡単な仕事に就くことは出来る。特異的な原因は特定できないことがしばしばである。

中等度知的障害
知的障害のおよそ10%を占める。言語発達や運動発達は遅れるが、殆どが言語を習得し、充分コミュニケーションをとれるようになる。学力は、最終的に小学校2-3年生くらいとなる。成人期には、社会的・職業的支援が必要で、適切な監督下で、難しくない仕事ができる。殆どが器質的原因を同定できる。

重度知的障害
知的障害のおよそ4%を占め、3~6歳の知能に発達し、簡単な会話が可能となる。訓練により、自分の身の周りのことができる。成人期には、決まった行動や、簡単な繰り返しが可能であり、常に監督や保護が必要である。ほぼ、器質的病因がある。

最重度知的障害
知的障害のおよそ1~2%であり、3歳未満の知能に相当する。言葉によるコミュニケーションは困難だが、喜怒哀楽の表現が可能で、見慣れた人は覚えている。運動機能の遅れも認め、歩行も困難であることが多い。他の身体障害、てんかん、神経症状などを伴うことが一般的である。また、常に援助と世話が必要である。

原因:
知的障害の原因は、ダウン症候群、脆弱X症候群、フェニルケトン尿症、レット障害など遺伝的要因、出生前の病気、周産期の問題、幼児期の後天的要因など、もしくはそれらの組み合わせとされている。知的障害が重度となるほど、原因が明らかとなりやすい。全体の約3分の2のケースで原因が確認されている。

合併疾患:
上記、染色体異常、先天代謝異常、また他の身体疾患、神経学的異常は、知的障害が重度になるほど高率となる。 知的障害者がなんらかの精神障害を持つ確率は、一般の3~4倍高いとされている。特に広汎性発達障害の合併は20%近くにみられる。広汎性発達障害の場合、同程度の知能の集団においても他人との関わりが困難、限局した興味や行動パターンが明らか、また言語の遅れが大きい、個人の中での能力のばらつきなどが特徴としてあげられる。てんかんの合併率も高く、知的障害者の10-30%ほどと見積もられるが、知的障害が重度になるほど増える。

引用元: 時事メディカル