船乗り、ヘルパーになる。

船乗り、ヘルパーになる。

篠原 あきら



 月並みな言葉ですが、人生は何が起こるかわからない、だから面白い。
 客船の乗務員として、年間の半分ほどを海の上で過ごしていた自分が、もう1年以上、陸の上で生活していることに、今でも若干の違和感があります。2020年2月に横浜港大黒ふ頭に停泊中のダイヤモンドプリンセス号の横を通り抜けて帰港したときは、このような世の中になるとは想像もしていませんでした。
 この航海を最後に船は止まり、私の船乗り人生は終わりを告げ、まさかの15年振りに就職活動。縁あって土屋訪問介護事業所にお世話になることになりました。

 まったくの未経験で飛び込んだ介護の世界、ここまでの約8ヶ月間はただひたすらに仕事を覚えることに専念してきました。ただ最近になってようやく業務にも慣れてきた時に、ふと船の仕事と介護との間に共通点があることに気がつきました。

 ひとつ目は、臨機応変な姿勢や柔軟性を求められること。船というのはご存知の通り、海の上に浮いています。そもそも地面が揺れている時点で、もう普通の感覚は通用しません。さらには強風や大波、時には台風などの自然現象が次から次へと起こります。
 港に着いたら着いたで、普段であれば1時間ほどで終わる入国手続きが、現地の事情で半日ほどかかったり、現地旅行会社や訪問先の都合で観光ツアーの行程に影響が出たりなどは日常茶飯事です。
10年ほど前になりますが、ある南の島にて「リゾートホテルのプールサイドで南国を満喫」というややゴージャス感を売りにしたツアーを行った際、現地の手違いで観光バスの手配がつかず、
荷台にベンチを載せたトラックが2台並んだ時は、もう笑うしかありませんでした。

 このような経験を経て、まず大事なのは冷静でいられることだと学びました。状況を分析し、自分に何ができるかを考え、落ち着いて行動できるように常日頃から様々な状況を想定し、心の準備をしておくことが大切だと思います。

 もうひとつの共通点は人との出会いです。私が担当していた客船は、乗客が約1,000人いました。老若男女、本当に様々な方がいらっしゃいました。皆様それぞれに人生の物語があり、心豊かに人生を楽しもうとされていました。
 
 今、私が日々接している利用者様も同じでした。いろいろなご病気を抱え、ご本人様もご家族の皆様も思い悩んだ時期があったと思います。それでも今置かれている状況を受け入れ、前向きに生きようとされていました。
 
 この姿に触れ、頭では理解していましたが、人生は一度しかないということを改めて気づかされました。人生のことや家族のことなど、忙しさゆえにおろそかになっていたり、当たり前と思っていたことについて日々考えるようになりました。これは私にとってとても大切な気づきでした。

 私のヘルパー人生はまだ始まったばかりで、未熟者ではありますが、一期一会ならぬ一護一会、一人一人の方との出会いを大切にし、利用者様の日々の生活、生きようとする気持ちに、微力ながら寄り添っていこうと思っています。


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