地域生活を支える住宅の確保 ~中編~

渡邉由美子



 前編でも述べてきましたが、電動車椅子を居住空間の中に入れ込んで生活することは想像以上に大変なことでした。

住宅を借りることができ、二十歳の頃からの長年の夢であった自立生活が現実のものとしてスタートできるのだと契約のできたその日に意気揚々とアパートの鍵を開け、家具の配置や引っ越しの段取りを決めようと思ったのです。でも部屋を開けた瞬間、現実が目に飛び込んできました。内見では大丈夫だと思った玄関土間の段差が何か対策を講じなければ、タイヤが空回りして中に入れない、内見の時は不動産屋の男性が勢いをつけて後ろから押してくれたから、たまたま運よく家の中に入れたに過ぎなかっただけで女性介護者一人が毎日出入りを手伝うとなると困難極まりない状況でスムーズには家に入れない、という初日から暗澹たる暗雲が立ち込めまくりの状況となり希望に満ち溢れた自立生活が絶望的な気分へと転落していきました。その時の悲しみの強さは今でも昨日のことのように鮮明な記憶として脳裏をかすめる時があります。重度の障がい者が普通に暮らす、とはよくスローガンのように言われ続けていますが、そこには幾多もの困難が立ちはだかっていることを身に沁みて体験した出来事でした。

 そして、その住宅に私より先に住み着いて私を出迎えてくれたもの、それは孵化したばかりのたくさんのゴキブリさんたちでした。2月の半ばに契約して、まだ暖房器具も何も設置できていない真冬の寒さの中でまさかの無数のゴキブリさんたちが私を出迎えてくれたのも、あまりにも衝撃的すぎて忘れ難い出来事でした。このようなことを書いて何が伝えたいかというと重度障がい者が家を借りるということが貸したくない大家さんや不動産屋さんと何としても地域に出るために必死に闘うということをしなければスタート地点にも立てなかったということをぜひ読者の皆さんにリアリティーを持って知っていただきたいと思いました。要するに借り手が少なく老朽化している、という状況を修繕改善もせずそのままの状況で住んでくれる人がいれば誰にでも貸すというような物件しか私たちには見せてもいただけない現状がまだまだある、ということです。

裏返せば電動車椅子をぶつけたり多少してももともと古いのでだいじょうぶということにはなるのですが…。障がい者に家を貸したら家が傷む(車椅子をぶつけるから)、火事が起こると本当に信じて疑わない人がとても多いです。お金もないから家賃が滞納されると思っている人もとても多いのです。(実際は私たちの暮らしは就労ができる方を除けば年金と各種手当が必ず入ってくるので家賃分を先に取り除いてしまえば、払えないことは絶対にありえないのですけど、火事の問題にしてももし万が一火事など起こしてしまったら、自分だけでなく後世の障がい者も自立生活への道を絶たれてしまう、という自覚を持って暮らしているので普通の人より安全面は気を付けて暮らしているのです。むしろ介護者も共に暮らしているということがあるので、リスクはとても低いといえます。世の中に蔓延している障がい者への誤った認識には、本当に困ってしまいます。)

 さて、そんなこんなすったもんだをしながらスロープ板をしくことで玄関の段差をクリアした私に次なる難関として待ち受けていた課題の一つは畳の上をいかにして電動車椅子が走るかという大問題でした。ホームセンターに行きウッドカーペットを畳の上に敷き詰め畳とウッドカーペットの間に虫が湧かないよう、防虫シートを敷きこんで針の長い画鋲を畳に等間隔に打ち付けてウッドカーペットが電動車椅子の動く摩擦でずれて走れない状況に陥らないように工夫して生活を開始しました。虫が湧くと嫌なので一年に一回、梅雨時前に男性のボランティアさんに力も借りて全部上に置いてあるものをどかし、防虫シートを敷きなおして畳に風を通す作業を毎年新しい家に引っ越すまで大掛かりにやっていました。自立生活をしたらこんな風に家の中を統一してこんな家具を置いて自分の城を築きあげるんだと思い夢をたくさん描いていましたが、住んでみると意外に物は置けず、いかにスペースを確保することが重要であるかを実体験から学んでいくこととなりました。

 お手洗いや浴室も段差や傾斜だらけ、スペースが狭くて手すり一本付けられないという状況を公的制度である住宅改修小規模(手すり一本から、20万円程度を限度とする)・中規模(賃貸住宅でも車椅子が入れるように間口を広げる等の改造を含む)・大規模(これはご自分で自宅を立て直すレベルを指すらしい、世帯主の所得状況等勘案事項がいくつかあるのでお住いの市区町村に具体的な金額などは問い合わせください。)の制度を用いて私の身体で住むことができる住宅へと変身させたのでした。その家は、とにかく老朽化が激しく下水管のつまり・漏水、ボヤ騒ぎが二回あり、生きた心地のしない家でした。次回は私が原因ではなく自分の家の真下が火元で火事が起きた時に、どうやって避難したか、狭いトイレやお風呂で介護用リフトも無く十年もの長い期間をどうやって暮らしていたかを述べてみたいと思います。



渡邉由美子
1968年6月13日生まれ 51歳
千葉県習志野市出身
2000年より東京都台東区在住
重度訪問介護のヘルパーをフル活用して地域での一人暮らし19年目を迎える。
現在は、様々な地域で暮らすための自立生活運動と並行して、ユースタイルカレッジでの実技演習を担当している。

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