先日、厚生労働省は重度訪問介護を使った就労問題について、「雇う企業側に対しての助成金を増やす」という方向を新たに打ち出しました。あくまでも通勤・通学・就労中は、重度訪問介護のサービスは使えないという、従来の基本姿勢を覆すことは、現時点では出来なかったわけです。
それは、とても残念なことであり、能力のある障がい者の持てる力の発揮ができる機会を、全否定された結果となりました。しかし、そんなことでは雇う企業は無いのが当然ということを、厚労省に引き続き粘り強く訴える必要があります。重度訪問介護を使って就労のできる時代を勝ち取っていくために、運動を継続的に展開していきたいと強く思っている一人です。
理想は理想として、今現在重度障がい者が地域で生きることを実現するための所得保障制度を、改めてここに記してみたいと思います。
まず、所得保障の公的な受け方として、二つの選択肢があります。
一つは、生活保護法による「健康で文化的な最低限度の保障」を受けての自立生活の方法です。この法律は、他法優先という原則があるので、後半で記す障がい者の社会保障制度の中の所得保障制度として障害者がその程度に応じて国や東京都、住んでいる区市町村から貰える手当の類は、収入認定の対象となり、生活保護から引かれることとなります。もう一つ引かれるものとして、今年10月からの消費税増税に伴い、年金生活者支援給付金が新たに創設されました。が、これも生活保護の収入認定の対象となってしまい、生活保護者は貰えない制度となり、実質生活費が切り下げられ、より苦しい生活を送らざるを得ない状況となっています。(東京都の重度手当については代理受領の形を取れば収入認定から除外されます。除外要件などについての詳細はお知りになりたい方、お問い合わせください。)
もう一つは、私自身が今の暮らしを成り立たせている、生活保護は取らずに各種手当・障害基礎年金で生活するという方法です。この方法については、自分自身が使っている制度なので、少し詳細に説明していきます。
令和元年12月現在、1ヶ月分の金額となります。障害基礎年金・特別障害者手当については、物価スライドで支給されますので、毎年金額が多少変動します。
障害基礎年金(1級)(国):81,260円 ※2ヵ月に一回、一括支給
年金生活者支援給付金:6,250円 ※消費税増税に伴うもの
特別障害者手当(国):27,200円 ※3か月に一回、一括支給
重度手当(取得要件が非常に厳しい)(東京都単独事業):60,000円
※同じ名称で他の地域にも数か所存在するが、年間で貰える金額が東京の1ヶ月分程度という少額なものに留まっている。そもそも無い自治体がほとんどである。
心身障害者福祉手当(台東区):15,500円 ※4か月に一回、一括支給
※これも区によって金額の格差がとても大きい。
合計:190,210円
障がいの等級によっても、上記のものは金額が変わります。3級以上障がいの軽い人は、そもそもほとんど対象とならないか、金額が少額で、生活費にはとても足りません。また、家族と同居の場合は、障害基礎年金以外は扶養義務者等の所得が一定額を超えた場合も、手当は支給されません。
現金給付ではありませんが、医療費の窓口負担3割が東京都指定病院であれば東京都負担になる受給者証、福祉タクシー助成券の交付を受けられる場合もあります。排泄におむつを必要とする人にはおむつ券の交付も、自治体格差はあるものの、必要に応じてひと月いくらまでという制限付きで交付を受けることができます。すべて、利用者からの申請が原則なので、様々な制度情報を知ることにより、生活費を抑えることが可能となります。
このように、様々生活の困窮状態を回避する制度が東京にはあるように思いますが、家賃は車椅子で住もうと思えばそんなに抑えることは物理的に不可能です(ちなみに、私は1ルームで88,000円でバリアフリー対応の家に住んでいます。そこでないと暮らせない身体状況なのです)。介護者を24時間365日必要とすれば、消耗品も普通の一人暮らしより沢山必要です。体温調節が出来にくく、体調管理が大変なので、夏はクーラー、冬は暖房を多用しないと入院などのリスクがすぐに高くなってしまうという状況下で暮らし続ける経費としては、とても厳しい金額になってしまいます。
最初の話に戻ってしまいますが、手当や年金で生活するのは本来望んでいる普通の人と同じ暮らしとはかけ離れてしまうので、重度訪問介護による介護者付きの就労が少しでも可能となり、それが当然のこととして認められる社会になってほしいと切に望みます。
よく、「税金で生活しているのだから、これだけやってもらっていてまだ不十分とは何事か」という議論がありますが、重度障がいを持って暮らすということは経費がどうしてもかさんでしまうのです。もちろん、国民の皆さんの血税を使った暮らしであることは事実なので、出来る限り大切に使わせていただくということは言うまでもありません。
しかし、私は土日の外出時、2人介助が必要な場面において、公的介護人以外にボランティアさんの協力もお願いせざるを得ないのが現実です。その交通費や食費などは、生活費から捻出しています。そんな風にして、普通の人にはかからない生活費があるのです。普通に生きると言葉では言いますが、所得保障の観点から言っても、それはとても難しいことなのです。
障がい者のことをあまり知らない一般の人々に、その辺りの重度障がい者特有の事情を、ぜひ理解して頂ければ、とても嬉しく思います。
渡邉由美子
1968年6月13日生まれ 51歳
千葉県習志野市出身
2000年より東京都台東区在住
重度訪問介護のヘルパーをフル活用して地域での一人暮らし19年目を迎える。
現在は、様々な地域で暮らすための自立生活運動と並行して、ユースタイルカレッジでの実技演習を担当している。