全ての必要な人に必要なケアを ~文字盤奮闘記~

吉田ひとみ


私の中で、とても印象に残っているご利用者がいる。新規サービスを一通り任せてもらえ立ち上げたサービスだった。

今から3年前くらいの話だ。
当時はコーディネーターとして徐々に仕事を任される様になり、新規の立ち上げサービスも以前ほど分からないことや悩むことが少なくなっていた。


初めて当時のマネージャーとインテイクでご自宅にお邪魔させてもらった際、私が最初に驚いたのは文字盤の読み取るスピードだった。

ご利用者それぞれで使う文字盤も違えば、読み時のポイントやご利用者様が瞬きをしての合図なのかなど、細かく言うとキリがないが人によって様々だ。
それでも、とにかく早かった。
ヘルパーの読み取るスピードは、まるでおしゃべりしているかのような感覚で読み上げていった。

今まで私が文字盤を使わせてもらう時、ご利用者様側が瞬きをしてくれていたのだが、瞬きもなく会話をしているのだ。

今まで文字盤をやって多少苦戦したことはあったが、全く出来ないわけでもなく、そこまで苦労したことのない私であったが、さすがにそのスピードを前にして猛烈に不安に駆られた。
文字盤だけでなく、他のケアもやり方が今までと全く異なり、そのことにも不安を覚えた。

実際に研修に入らせていただき、文字盤を必死に読み取ろうとするも、なかなかご利用者様と視線が合わずどこを見ているかもよく分からなかった。
案の定、ご利用者様から注意を受けることが多々あった。
自分では一生懸命やっているつもりでも、全くそれが活かされていないのだ。

本当に悔しいし悲しいし申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ご利用者様からは『私は文字盤でしか意思を伝えられない、コミュニケーションが取れないと緊急時は死ぬ』そんなことを言われ、益々プレッシャーと不甲斐なさなんかもあり、どんどん負のスパイラルに陥ってしまった。

一通りのケアが出来る様になったが、文字盤に関しては自分でも完全に苦手意識がついてしまい、どうしても上手くいかない。
少し読めたかなと思うと、必ずどこかで躓いてしまう。

文字盤は、単語や文章の区切るポイントを間違えてしまえば、全く別物に聞こえてしまう。
濁点や半濁点、小文字なども文字盤拾おうとすると余計に難しく感じてしまう。
一向に苦手意識を拭うことが出来なかった。

自分なりに講習に行ってみたり、動画を見たり勉強もしてみた。
本当にこれで苦なく読める日が来るのか…疑心暗鬼ではあったが、実践することしか出来なかった。

注意を受けながらも、なんとか頑張ろう、少しずつでも自分が成長していると信じて、言われたことを忠実に守る様に心掛けた。
目を合わせるポイントや自分の姿勢や文字盤の角度の見直し。
そうすると、いつの間にか読めるようになっていた。
自分でも気が付かないうちにテンポ良く読めていたのだ。

私の文字盤が上手く出来てない余り、ご利用者様をイラつかせてしまうことが多々あったのだが、それも無くなっていたのだ。
逆に言うと、文字盤でのコミュケーションが上手くいかないことで、相当なストレスを与えてしまっていた。
改めてコミュケーションを取れることの重要性を感じた。
お互い人間だから、感情的になってしまったりすることは勿論ある。
でも、お互いが根気よく向き合うことで道は開けるんだと感じた。

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