「プロってすごいな」

菅野真由美

私にとって介護に対するイメージは正直良くないものでした。
何故かというと10年近く整形外科に勤めていた時、身体の不調を訴えて来院される患者さんに介護職が多かったからです。腰痛、肩こり、背中の痛み、膝、手首…あらゆる部位に悲鳴があがっていました。
そして仕事の大変さを誰もが語り、気持ちも病んでいる状態の方を多く見てきました。
この先仕事に困っても介護職だけはやめよう、と当時の私は考えたほどです。

それが覆る気持ちになったのは父親の介護と看取りの体験でした。
末期の膵臓ガンを宣告されてからの父は、急激な速さで体調が悪くなっていきました。治療は何一つ効きません。本人は生きる事に貪欲で限られた選択の中でも、人として人間らしく自分の生き方を貫くタイプでした。東京大空襲の時に火の粉から逃れるために濡らした布団をかぶり、まだ冷たい川に一晩中浸かっていた経験があるぐらいの父なので、非常に頑固で家族や医師のいう事も聞きません。病院での生活を嫌がり、在宅で訪問看護、訪問ヘルパーに支えられながら人生の残り時間を過ごしました。

家族の立場からすると来てくださるスタッフの方には感謝しかありませんでした。
わがままな父の要望にも嫌な顔ひとつせず、どうしようもない愚痴にもうんうんと頷き、どこか痛い?どこか辛い?とつきあってくださり優しく接してくれました。 家族ではその優しく接することが出来ないのです。わがままを言われたり、体の疲労があったり、自分の時間が奪われている事にもイライラし、何かをするにしても雑になってしまうのです。
ですが、訪問スタッフがくるとテキパキとケアをこなし、とても作業がスムーズです。しかもニコニコしてます。父も機嫌がいいです。当たり前ですが帰る時もきれいに片づけていきます。

プロってすごい。
私にも出来たらいいな。

そう思えた経験でした。
他界後、介護の仕事につくなら絶対訪問、と決めていた私はたまたまユースタイルラボラトリーの求人を見て、「重度訪問介護?」と今まで聞いた事のない言葉に興味を持ってしまいました。
もっと重度の人がいるんだ。
呼吸器をつけて在宅生活をしている人がいるんだ。
介護の負担がある家族の気持ちは私自身知っています。私でも役に立てるような気がする、このタイミングで出会うのも意味があるのかもしれない、そう感じ思い切ってこの世界に入りました。

実際に現場で仕事を始めると色々な事があり、理想と違っていた事にも出くわします。
ニコニコしていようと心がけていたのに、笑顔を見せられない時もありました。上手くいかない事や、利用者の発言に傷ついたり、精神的な疲労が重なってしまったのです。
何の為にこの仕事を始めたのか、その初心すら忘れ、日々が流れていきました。
私は頑張っているのに…。
そんな気持ちがいつも心にありました。

半年ほど過ぎた頃、私は自己満足のためにそれをやっていた事に気づきました。父親に対してやってあげられなかった思い、その後悔を埋めるべく自己満足のために介護の仕事をしていた事に気がついたのです。

プロってすごいな。
それが始まりだったはず。大変な事を仕事でやる意味を教えてもらったはずなのに、忘れていた自分を反省しました。

あれ以来、勿論日々色々なことはありますが、自分ではなく相手を満足させることを常に考え仕事をしています。相手が満足すること、喜んでくれること、笑顔になってくれること、それが結果私の満足や充足感につながっています。

なによりもこの仕事を通して私自身の視野も考えも今までとは比べ物にならない程広がり、人として大事なことを勉強させてもらっています。
物事が一つの方向からしか見られなかった私が、様々な方向から物事を見られるようにもなりました。
初めは自分のためにでも、それが誰かのためになり、いつか社会のためになり、そして最終的には自己の成長として自分にかえってくる、介護の仕事とはそんな気がします。


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