『海を越えて』~卒業旅行~

『海を越えて』~卒業旅行~

安積宇宙



一ヶ月間の卒業旅行に出かけていました。
卒業旅行といっても、結婚式や誕生日会、ワークショップや会議などいろんな予定がニュージーランド各地であって、その合間に懐かしい人を訪ねに行ったりするというものでした。

始めは、友人二人と、友人の二歳の娘さんと車で二日間かけてニュージーランドの首都のウェリントンまで行きました。目的は、「Little People’s Conference (小さな人会議)」に参加すること。そう、一緒にドライブした友人二人も私と同じくらいの身長(約125cm)なのでした。同じくらいの身長の人たちだけで旅に出るのは初めてのことで、出発する前はどうなることかと心配でした。なぜなら、私は外にいるときは車イスが必要だし、車に荷物を積むことだってできないからです。だけど、私の友人たちは同じ身長でも、長距離歩くことができるし、重いものだって持つことができます。その代わり、彼女たちは、小人症で手足が短めなので、高いところに手が届かないことがあります。そういうときは、私が手を伸ばしてとったりして、お互い自分ができることでカバーしあって、旅を進めることができました。

私は、小さい頃、ほかの障害を持った人たちと一緒に過ごすことが嫌でした。私一人でも、町に出ればたくさんの注目を浴びます。それが、車イスの母と歩けば、注目は二倍。そして、ほかにも障害を持った人たちと一緒にいれば、目立つこと目立つこと。本当かどうかは知らないけど、障害持った人たちと一緒にいるときに、周りの視線から、「障害を持った人たちは障害を持った人同士でしかいれないのね」というような哀れみを感じたのです。 そして、障害を持った人たちと一緒にいるときは、余計に「健常者の社会」から分断されているような気がしました。そんなこともあって、障害を持つ人たちと特に町中を一緒に歩くのが嫌でした。

でも、中三の時、先輩の女の子から、「宇宙と一緒にいると差別されるかもしれないから一緒に居たくない」と言われたことがありました。それは私がほかの障害を持った人といたら、さらに差別をされる感じがするからいたくない、と思ったのと全く同じ考えでした。そう言われたこともショックだったけれど、自分が同じ考えを持っていたのもショックでした。 そこから、少しずつほかの障害を持った人たちと関係を作る努力をしようと思い始めたのです。

そして、今は、障害あるなし関わらず、自分が一緒にいたい人といればいいんだという当たり前のことに気づきました。 一緒にドライブ旅行に行った友達の一人は、大学一年生の頃出会った友達です。初めて会ったのは、路上。同じくらいの身長の車イスの子がいるのを見かけて、数回すれ違った後に、わたしから声をかけて、一緒にカフェに行ったのがきっかけでした。私から声をかけて、友達になった初めての障害を持つ友達です。別に、わざわざ「障害を持つ」と言わなくてもいいのだけれど、お互い似たような、だけど全く違う人生を歩む同志として、とても心強い仲間という尊敬を込めて、「障害を持つ」と紹介することにしました。

旅のなにがよかったって、私たち三人とも、同じ理由で他の障害を持った人たちと一緒にいたくないという思いを経験したことがあるという話や、体が小さいからこそ日々感じるいろんなことについて、ふとした瞬間に共有しながら過ごせたことでした。私たちは普段、「普通」の身長の人たちと一緒にいる時間の方が長く、高いところに手が届かない、とか、周りからの視線をどう感じるか、とか、生活の中のちょっとした不便さや疑問を共有することが少ないのです。でも、旅をする中で、「ん?」と思ったり、「少し困ったな」と思うタイミングが似ていて、一緒に「今の人の態度違和感あったよね」とか「今の不便だね」とか、共有できることがとても新鮮で、同時にとても居心地のいいものでした。

始まるまで、不安だったドライブの旅が、最後は深い安心感と共に幕を閉じたこと、とても友人たちに感謝しています。安心感は、できないかもしれないと思っていたことが、できるとわかったというところからやってくるものでした。「小さな人の会議」については、次回、どんなだったか紹介したいと思います。


【略歴】
安積宇宙(あさかうみ) 1996年石丸偉丈氏と安積遊歩氏の元に産まれる。
母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱いという特徴を持つ。
ニュージーランドのオタゴ大学、社会福祉専攻、修了。現在、ニュージーランド在中。
共著に『多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A』(ミツイパブリッシング)。
2019年7月、NHKハートネットTVに母である安積遊歩とともに出演。



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