間違い ~ALS利用者ケア現場でのあるある~

井上輝寿


ピンポーン!
いつものように呼出しの際のチャイムが鳴った。
すぐに利用者の枕元へ行きパソコンを覗くとメッセージは無く画面はTVのまま。表情を見るといつもと違った感じでこちらを見ている。

何かおかしいなと思いながら基本の質問事項を聞いていく。
「吸引?」「室温?」「体勢?」「痛い?」「パソコン?」etc。
ちなみにこの利用者さんは「YES」は右の口角を少し上げ、 「NO」の時は右の口角を目一杯に上げて怒ったような顔になる。
で、この時の答えは全て 「NO」、要はずっと怒ったような顔をされてたのだが質問が終わるとキョトンとしたというかいつもと違う表情でこちらを見ている。

その日の調子で見極めが難しい時もあり、念のため再度問いかけをしたが答えはやはり 「NO」。

ちなみに他の事かと確認したらこれまた 「NO」。

んー、どういう事かとしばし考え、もしかしたらの一言が頭に浮かんだので聞いてみる。
「間違い?」
すると口角が少しだけ動いた。

ALSのこの利用者さんは下唇でスイッチをカチャカチャして要望を伝えたりパソコンを使われる。そして長くスイッチを押すとチャイムが鳴ってヘルパーに伝えるのだが、何かの拍子で長く触れた為のピンポーンだったと言う事だ。

私はベッド足元の席に戻り気がつくと何だかニヤニヤしてしまっていた。
何故かと言うとこの方は頑固で、用事がある時以外は俺に構うなのスタンス、支援以外のパーソナルな質問に対しては基本無視の人で見るテレビもNHKの小難しい番組が多い。
思えばさっき見せたいつもと違うどうしたら良いのか的な顔は「やってもうた、間違って押してもうた」の表情だと考えると、何だか可愛らしいというか人間らしい一面が見れたようでほっこりした気持ちになったからだ。

まあ普通に考えれば誰だって間違いはあるから当たり前の事ではあるのだが。

と同時にこんな事が頭をよぎった。
利用者さんはヘルパーが何か支援で間違った時にこんな風に感じてくれたらなと。

色々な現場に入らせて貰ってるが、概ね利用者さんはこちらの間違いというかミスには基本厳しいし、人によっては露骨に嫌な顔をしたり厳しい口調で注意される事が多い。
もちろんやってはいけない重大なミスは存在するし、日々自由にならない環境の中では相手の間違いによる自身の感じる負荷を考えれば中々そうもいかない事は理解できるのだが。

と、同時に自分の事も振り返る。これもよくある事だが前に行ってた手順が急に変わったり、前回言われた通りにしたらそんな事指示してないと言われた時に自分はどう思ってるかと。

結局の所お互い相手の間違いには基本厳しいのだ。

だからこそ支援の現場においては、お互いが相手を尊重し寛容な気持ちで接する事が出来たらなと思う。
まあ皆間違いくらいはするもんだよなーな感じで。

支援が終わって外に出ると小雨が降っていた、天気予報は曇りのはずだったが。

まあしょうがないか、天気予報士も人だもの、「間違い」はあるよな。







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