地域生活を支える介護者との人間関係① ~新人介護者へ~

渡邉由美子



この文章を書いている時期は、一年の中で最も介護人材を得る事が難しい時期です。

それは当然のことだと思います。でも、重度障がい者の生活を休みにすることはできないので、申し訳なく思いながら生きています。

常に人材不足なので、誰に聞いても厳しい現状しか聞こえてきません。
利用者は「今月はなんとかしのげたが来月こそはもう生活が成り立たない、どうしよう」という叫びのような訴えをしている者が多数います。

私も、その一人です。現状が長年解消できないのは何故だろうと最近ふと考え込むことがあります。重度訪問介護の賃金単価がなかなか上がらない等の問題がよく指摘されていますが、それだけではないのだと自責の念も込めて私は思います。

最近私が感じることは、健常者の生活であれば寝息を立てている夜中まで人と一緒に毎日いるということは、親しい友人や結婚したての新婚さんならいざ知らず、そうでない限り入れ代わり立ち代わり他人と一緒に暮らすことはないと思います。日常生活全てに人の手を必要とし、自分一人ではできない重度障がいという特殊な生活環境下だからこそ、密度の濃い人間関係であまり見られたくないトイレや入浴を、しっかり密着して傍にいて安全に行って欲しいのが基本です。

だからこそ、信頼関係が必要になるのです。そこがこの仕事の本質的な難しさなのだと思います。

身体を自分の意志では動かせないということは、想像以上にもどかしいのです。そのもどかしさのやり場がなく、一番身近にいた介護者へ感情の矛先が向いてしまい相手を傷つけてしまう事も起こってくるのです。

介護技術より、コミュニケーションの方が何倍も難しいのです。感情で八つ当たりのごとく接しられては、介護する人はいたたまれなくなってしまうのは当然と、我に返る時思うのですが…。

それ故に、この仕事は「お金だけで割り切って働いてください。」とは、とても言えないのです。
重度訪問介護の資格を取って働いてくださる介護者の皆さんは金の卵だと思います。

しかし、地域で自分らしく少しでもより良い人生を送りたいと、願えば願うほどどうしても要求が高くなってしまいます。
昨日まで全然違う価値観や人生観で暮らしてきた健常者が、私の望む暮らしをすぐに理解できたらそれはそれで怖いことだと頭では解っています。とにかく新しい介護者は私の基本的な介護を覚えるだけで精一杯な状況で、頑張ってくださっていることも解っています。まず、ルーティンの生活パターンをしっかり覚えてお互い不安なく生活ができるのが、新人介護者との第一歩だと考えています。

私がもし、健常者でサービスを提供する立場になったとしたら、そんなに様々ある利用者の要望に応えきれる自信はないのですから、本当に矛盾に満ちたことをしていると冷静な時は思います。

介護の仕事はいろんなスキルが求められます。
家事援助であれば家は清潔に整頓されて、掃除は行き届いていて欲しい。
自分の衛生観念で掃除して欲しい。
食事作りでは、シェフを求めているわけでは決してないけれど、おふくろの味的料理は自分の好みの味で作って欲しい。
多少の繕い物はできて欲しい。
外出介護も果てしなく時間が許す限り、遠くまで付いてきて私の社会参加活動が円滑に出来るよう、動いて欲しい。
などと思ってしまう。

そして、可能ならば事務仕事も出来れば、自分の思いを世の中に発信できる。
余暇も楽しみたい。
そんな外出の時は、業務業務した接し方ではなく、一緒に楽しむ感じで関わってもらえたら嬉しい。

決して家族でも友達でもないのだけれど、一番様々な事を何でもやるのが介護者という存在なのだから。

まさに、遠くの家族より近くの他人を素でいく生活なのです。

喜怒哀楽も共に感じて、生活の根幹を支えて欲しい。その合間には穏やかな日常生活が淡々と流れ、リラックスできる空間でありたいと高望みをしているのです。

私は、自分で日常生活ができた経験はありません。

なので、どうしても健常者なら何でも出来ると、考えてしまいがちです。物事をやるにはそれなりの必要な時間というものがあるのですが、その感覚をどうしても経験していないので短い時間で想定してしまい、必要以上に速さを求めてしまいます。それが、新人介護者とうまくいくことの高いハードルになってしまっています。

障がいは、目に見えるものだけではなく、経験不足という二次障害的なものも併せて人間関係の円滑さを欠いてしまうのです。重度障がい者の一般論としても言えることだと思います。介護に入って日の浅い介護者との人間関係の難しさについて書いてきました。

次回は、年単位で週に何回も介護に入ってくださり、共に暮らすぐらいの関係性の介護者との人間関係や距離感、依存関係に陥りそうになるような事例について記してみたいと思います。

本当に健常者と障がい者が共に生きるとは、難しいと感じています。しかし、地域で暮らす以上、できるだけ楽しく心地よく、介護者との人間関係を継続していきたいと思いなおしているところです。



渡邉由美子
1968年6月13日生まれ 51歳
千葉県習志野市出身
2000年より東京都台東区在住
重度訪問介護のヘルパーをフル活用して地域での一人暮らし19年目を迎える。
現在は、様々な地域で暮らすための自立生活運動と並行して、ユースタイルカレッジでの実技演習を担当している。

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