「あなたの体は9割が細菌」

菅野真由美



あなたの体のうち、ヒトの部分は10%しかない。あなたが「自分の体」と呼んでいる容器を構成している細胞1個につき、そこに乗っかっているヒッチハイカーの細胞は9個ある。あなたという存在には、血と肉と筋肉と骨、脳と皮膚だけでなく、細菌と菌類が含まれている。あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものでもあるのだ。

これはこの本のプロローグの一節。

微生物はそのものの存在だけでは生きていけず、ヒトという宿主に寄生し相互関係を構築し共存してきたらしい。

筆者はイギリスのサイエンス・ライターで生物学の専門家だ。
調査のために出かけた先で一度ダニにかまれただけで熱帯病を患い、数年間まともなくらしができなくなるほど体を病んだ。
そこから抜け出せたのは専門家による正確な診断と、原因を退治するための大量の抗生物質だった。その大量の抗生物質の投与によって病を克服したものの、体内で共存してきた有益な微生物も死んでしまい、その後体調不良に陥った。自らの経験と緻密な調査と実験データ、専門家の意見をまとめた本だ。

2003年にヒトゲノム・プロジェクトが完了されたとき、研究者はヒトの遺伝子が線虫と同じ、21000個しかないことに驚いた。ヒトはなぜ、そんなに少ない遺伝子でこんなに複雑な生命活動ができるのだろう?
そのカギは体内に棲む微生物に多くの活動を「アウトソーシング」していることにあった。

赤ちゃんは産道を通るとき、母乳を飲むとき、母親から微生物一式を受け取り、その微生物集団と共に成長する。
ところが最近では、赤ちゃんがその微生物一式を受け取れなかったり、せっかく育ったコロニーを消滅させてしまったりすることが増えてきた。
肥満、過敏性腸症候群、アレルギー、自己免疫疾患、自閉症やうつ病など、20世紀後半から先進国で急増している病気は、人体内に存在する細胞の90%を占める微生物の様相が往来と変わってしまったことで生じている、というのがこの本のテーマだ。

あらゆる病気は腸からはじまる。つまりは消化だ。

「体は食べたもので出来ている。だから食べることは大事。食べる中身も大事。」
子供の時に親によく言われた言葉。自分の子育ての軸でもあった。
それでも世の中には便利なものが増え、手軽に空腹を満たすものにあふれ、人工的な味覚にも慣れてしまっている。

子供のときは食べ物を落としてもフッフッと息を吹きかけ、汚れを落とした気分になって食べた。
道路沿いに実っている桑の実やザクロを木からもぎって洗いもせず食べながら帰った。
風邪をひくと大した薬も飲まずただひたすら寝ていた。学校も平気で一週間くらい休んだし、お風呂も一週間入らなかった。
今から考えるとすごく汚い事が平気だった。
除菌などという言葉も日常生活では聞かなかった。
おそらく母からもらった微生物一式がコロニーを形成し私を守ってくれていたのだと思う。
それが大人になり、自らの意思で安易な食生活に陥った。手軽で便利で人工的な味覚におぼれた。

咳がでれば薬を飲み仕事へ出かけ、熱が少しでも上がれば医者に抗生物質を処方してもらい仕事に出かけた。
そこには「養生」などとはかけ離れ、自分の体を守ってきてくれた微生物という同志も過酷な状況にさせ殺してしまったのかもしれない。

私は30歳くらいから免疫性疾患にかかりそれ以来ずっと治療を続けている。苦しい時期も辛い時期も絶望した時期もあった。治験にも参加した。それでも今まで結婚も出産も仕事もできたのは、まぎれもなく医療のおかげだ。日々進歩する医療と新薬の開発によって私の人生は支えられた。感謝しかない。

医療に支えられるあまり、世の中が便利になったことがあたりまえすぎて、自分自身ができる大事なことを忘れていた、そんな事にも気付かされた1冊。

自分の免疫力を守ってくれている体のなかの小さな生物に今日も栄養を与えようと、そう心掛けて食事をしようと思えた1冊。

最近の新型コロナ騒動もかかる人とかからない人との境は何なのか。
「うがい・手洗い」を徹底していても罹患してしまうのは何故なのか。
身を守るためのソフトな部分は不可欠だが、自身の中身である体というハードな部分も今一度見直し管理する必要があると思える1冊です。

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