私の今までの社会経験はかなり偏ったものだと思っております。数学・理科担当の塾講師を5年ほど、高齢者デイサービスを10年ほど、車の運行請負を3年ほど行なってまいりました。全く共通点が無い、と言って良いほど業務の内容は違います。しかし、振り返ってみると、それぞれの仕事で学んだこと、身に付けたことは現在の訪問介護の仕事にも役に立つことがたくさんあったと感じております。
・塾講師
この仕事の目的は生徒たちの成績を伸ばし、受験という舞台で合格を勝ち取ることに他なりません。結果を生むために講師としてできることは何でしょう?もちろん、丁寧でわかりやすい説明方法を身に付け、伝えることで大多数の生徒たちの成績は伸びて行きます。しかし、それは過去に積み重ねた学習が一定以上修められている生徒に限られたことなのです。本来修めているべき基礎知識が身に付いていない生徒にとっては、何がわからないのかが解らない、聞けば聞くほど混乱してしまう、そしてどれだけ一生懸命に勉強に取り組んでも理解ができず、自分は努力してもできない、と劣等生のレッテルを自身に張り付け、悪循環に陥ってしまいます。
この経験を通じて、丁寧な説明をすること以上に、個々との対話を通じて相手をよく理解し、本人に状況を気づかせ、進むべき方向性を探す手伝いをすることが重要なのだと感じました。
・高齢者デイサービス
ご利用者の残存機能の低下予防、現状維持、できることなら機能改善を目指していくのが一番の目的です。しかし、現実的に歳を重ねるごとに心身機能が衰えていく方が多い中、残存機能を活用することよりも、転倒しないよう、けがをしないようにと安全面に重きを置くようになってしまいました。この時の私は、利用者主体の考え方ではなく、支援する側主体の考え方になってしまっていたのです。そんな中、上役から、とあるデイサービスに見学に行ってみるといいと言われ、足を運びました。その施設は在宅生活は障害物があることが当たり前であるため、『バリアフリー』ではなく、意図的に段差や坂を作る『バリアアリー』の施設でした。一日の活動は各利用者の意思で決められ、施設内通貨を稼ぎ、使うことでプログラムに参加できる、この利用者主体の徹底ぶりに感銘を覚えました。
・車両運行
駅~病院への定期的なバス便を見かけることはありませんか?この仕事は顧客(病院や施設)のご依頼に合わせて、送迎コースを組み運転手を採用、教育、手配し、運行を滞りなく維持するというものでした。自分は高齢者施設経験があり、資格も持っていたため、デイサービスの運行時に車椅子や歩行器の誘導を頼まれることがありました。施設職員が人手不足の中、いつしか当たり前のように手伝うようになっていました。ある時、上役と話の中でそれを咎められたことがありました。運転士が介護の資格を持っている人は稀であり、他の運転士がやれないことをやってはいけない・・・。軽い親切心のつもりが他の運転士の仕事をしづらくさせてしまっていたのです。自分の領域を超えたことをしてはいけない。当たり前のことすら理解していなった自分を反省した出来事でした。
本題である『良いヘルパー』について考えてみます。一言で『ヘルパー』といってもいくつかの段階があると考えます。
『入社したての未経験ヘルパー』の段階では、ご利用者との対話を通じて相手をよく理解し、瞬間瞬間の必要なケアを実践でき、ご利用者の日常生活を支えることができれば『良いヘルパー』だと思います。それが一人のご利用者のみならず、2人、3人とより多くのご利用者の支援で独り立ちできれば、それは間違いなく『良いヘルパー』と言えるでしょう。では、同じご利用者のヘルパーとして2年、3年と長い期間入っていた場合はどうでしょう?『入社したての未経験ヘルパー』の時と同じように振る舞うことが『良いヘルパー』でしょうか?私はNoだと思っています。ご利用者側は当然の心理として、慣れた人に来てほしいし、言わなくても気づいてやってくれるヘルパーが来てほしいですよね。よく知らない人より知っている人の方が良いに決まっています。しかし、地域での生活を24時間365日続けていくには、1利用者当たり最低でも4人のヘルパーが必要になります。ですので自分がご利用者にとっての『特別な存在』にならずに、他のヘルパーを受け入れやすい環境を作れる方が、本当にご利用者の事を考えている『良いヘルパー』だと思います。
訪問介護、特に重度訪問介護は地域で暮らしたい障碍者のための利用者主体のサービスですので基本、要望には応えていきたいと思いますが、稀にヘルパーの領域を超えた要望、を訴える方がおられます。その時に安易に引き受けずに、断る勇気を持てる人が、本当の『良いヘルパー』だと考えます。一生その方に付き添う覚悟が持てるなら話は別ですが・・・。