以前お付き合いのあったケアマネージャーさんからご依頼をいただいた。
全く聞いたことがない病名で、どういう症状が見られるかも分からなかった。
進行性のご病気で運動失調や起立性低血圧、神経異常の病気でもあるのだが、脳の萎縮もみられる病気だった。
ちょうどご依頼をいただいたのは初夏だったのだが、進行して呼吸器になり入院、そこから気管切開をされたとのことだった。
初めてお会いした時、口パクでご挨拶をさせてもらった。
とても品があり優しそうな方だった。
独居で生活されている方なので、退院と同時に在宅支援をスタートするかたちだった。
準備が整い、いざ退院。
基本的にはCNとして任せてもらえていたので、退院カンファレンスや立ち上げについての準備は一通りやらせてもらっていた。
順調に夜勤がスタートし、週2、3日私も夜勤に入りながらそのご利用者様と関わりを深めていった。
とても思いやりがある方で、こちらが申し訳なくなるくらい遠慮する人だった。
どのようにしたら、遠慮なくこちらに要望など言ってくれるのか。
コミュニケーション方法は、基本的に口パクで会話、もしくは指差しで文字盤を使用される方だった。
ただ、この方はスピーチカニューレを入れており、少しずつであるが発音ができる段階まできていたのだ。
とある日、私が夜勤で少し間を空けて訪問した時だった。
日中主治医の先生が往診に来ており、ちょうどスピーチカニューレを入れて発音の練習をしている時、ご利用者様が私の顔を見て、『吉田さん、久しぶり〜』と言ってくれたのだった。
本当に猛烈に嬉しかった。
当たり前のことが当たり前として理解出来ていなかったのかもしれないのだが、私のことを名前も顔も久しぶりに来たということを覚えてて、何より私の名前を呼んでくれたことだ。
口パクがスムーズにいかないこともあり、コミュニケーションが難しと感じ時も全くと言っていいほど怒らずにいてくれた。
ケアに関することだけでなく、色々な話をする中で、この方はどういう人生を送ってきたのか、どういう声でどういう話し方をするのか。
そんなことを思っていたりもしたので、本当に声が聞けたことは物凄く嬉しかった。
進行性のご病気にかかろうが、私と同じようにクリアだし、記憶や意思も持った同じ人間。
そのことを痛感した瞬間だった。
今はなかなかスピーチカニューレを使っての発語が難しいと聞いている。
会話は難しく、なかなかご本人の要望を聞き取るまではいかなかったし僅かな期間だったのかもしれないが、その瞬間そのご利用者様に関われケアを出来たこと、声を聞けたことを誇らしく感じる。