「樹(き)のように水のように生きる」

並木 紀子


第2回

このタイトルは私の理想です。
まだまだ、その様な境地に至ることは出来ませんが、それを目指して、日々を過ごしています。

自力で動かせない身体になってみて、あらためて
「植物って、なんて偉いんだろう!」と思います。
特に大きな広葉樹が。
春には、何も無かった枯れ枝からポツポツと新芽を出し、やがて美しい花を咲かせてくれます。
夏には、暑熱に耐えながら、葉を繁らせ涼しい木陰を作ってくれます。
秋には、次々とやって来る台風の激しい雨風をやり過ごし、きれいな紅葉を見せてくれます。
冬には、いさぎよく葉を落として、寒風の中でスックと立っています。
当然のことながら、辛いことに対して嘆いたりは一切しません。

彼らを見ていると
「動けないのが何だい?話せないのが何だい?
君は生きているじゃないか。それだけで充分幸せだろう。
今の君の使命は穏やかに楽しく過ごして、ケアしてくれる周りの人たちに幸せをおすそ分けすることだよ!」と言われているような気がします。
ドッシリと大地に根を張り、幹を伸ばし、空に向かって枝を差し伸ばしている樹は、私にとって憧れです。

今、しみじみと感じるのは、人の暖かさです。
主治医、病院のスタッフ、訪問医、訪問歯科医、訪問看護士、療法士、マッサージ師、針灸師、入浴のスタッフ、理髪師、区のボランティアなど、様々な方々にお世話になっています。

とりわけ、1番長時間、1番密接にケアしてくれているのがヘルパーです。
そもそも、見知らぬ他人を介護しようという志が尊いです。
また、私のような呼吸機使用者は、呼吸機の故障や回路の断裂、カニューレの抜管などがあれば、数秒の内に死に瀕してしまいます。
そういう患者を見守る緊張感、観察力と忍耐力は並大抵なものではないでしょう。
ほんとうに有り難いことです!
ヘルパーさんが帰る時に
「ありがとうございました」と言ってくれるのですが、
「いえいえ、こちらこそ!」と、心の中で言っています。
ほんとうに私は幸せ者です。

次に水について話したいと思います。
水は無色透明で、無味無臭です。
また、自由自在に姿を変化させます。

この地球上には、何と多彩な姿の水があることでしょう!
雲、霧、雨、雪、霰(あられ)、雹(ひょう)。
小川、激流、澱(よどみ)、水たまり、湖、大河、海。

人の身体で言えば、70%が水だそうです。
産まれた時は湯で洗われ、母親の血(水)から出来た乳を飲んで育ち、一生の間にどれだけの水を飲むことでしょう!
そして、臨終の際には末期の水を含ませてもらって、旅立って行くのです。
戦国時代の武士は合戦の前に、水盃を交わし飲んでからその盃を割り、死ぬ覚悟で戦いに出て行ったのです。
それ程にも水というものは身近であり、しかも神聖なものなのです。

先程、ヘルパーさんは有り難いと言いましたが、その気持ちを表すために、私はどうしたら良いでしょう?
今来てくれているヘルパーさんは、総勢18人です。
ほんとうに、様々な個性の人たちが居ます。
その人たちに、一律同じケアをするように求めたとしたら、どうなるでしょう?
きっと、とても窮屈な現場になってしまうでしょう。
(もちろん、最低限の介護技術は同じでないと困りますが。)
その他のところでは、一人一人の個性を最大限発揮してもらうようにしています。
その方が、ヘルパーさんが伸び伸びと働けるでしょうし、私も楽しいのです。

言わば、私が変幻自在な水のようになり、ヘルパーさんという器にお任せするという訳です。
この様にしていると、日々が大変楽に過ごせるようになりました。
以上が、「樹のように水のように生きる」というタイトルの由来です。

どうぞ、これからもよろしくお願いします!


並木紀子(なみきのりこ)
1951年生まれ。2009年に進行性難病のALSの診断を受け、現在は人工呼吸器をつけ重度訪問介護サービスを24時間利用しながら生活を送っている。
2018年に絵本を自費出版。
https://www.youtube.com/watch?v=q3DQ84quLPM
「体は不自由でも 心は自由です。空を飛びます。風を切って走ります。楽しい歌を歌います。あなたへ 言葉を送ります。のりこさんの 声を聴いてください。」
推薦文より

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