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『夢とチャレンジ』~合理的配慮 後編~

『夢とチャレンジ』~合理的配慮 後編~

安積宇宙



先日、ニュージーランドのワイタンギ条約という国の基礎になっている条約が結ばれた土地に訪れた時のこと。ツアーに参加したら、入場したのが私たちが最後で、歩きながらガイドさんに着いていく列の一番後ろになってしまった。例によって車イスだと時間が歩く人より多くかかるので、最後尾だと余計に前の人と距離がすぐに離れてしまうことがある。そして、車イスの目線も低いから、横以外あまり何も見えない。「前に通してください」と言おうかなと悩んでる間に、ひらけた場所に出て、次出発する前に、車イスを押してくれていた友人が、前の方まで行ってくれた。そして、帰宅してから、友人が「最初から前に行かせてくださいって言えばよかったかな」と聞いてくれた。人によっては、幼い頃のわたしみたいに前に通してもらうことを嫌がる人もいるだろう。そして、自分で声がけをしたいので、車イスを押してくれてる人に、声をかけてもらうのが嫌な人もいるかもしれない。でも逆に、押してくれてる人に任せて、先に通してもらうようにしてもらいたい人もいるかもしれない。私は、今回は正直どちらでもいいかなというような気分だった。だから、出発した時から後ろだな、と思って、前に通してもらおうかなと思ったけれど、結局言わないでいたのだ。そして、誰かが気づいてくれて、通してくれるかも、といった少し他人任せな思いもあった。でも、誰も通してくれることもなかったので、途中から少し先に行かせてくださいと言わなかったことを後悔した。だからこそ、友人がどうしたらよかったかなと話を振ってくれたのはとても嬉しかった。わたしの中でどこかで、先に通してもらうことを躊躇する気持ちがあるのをぬぐいとって、彼女の問いは、他人任せにしないで、自分で決めて、言語化する大切さを思い出させてくれた。

もっと多くの人がこういう感覚を共有できる社会であれば、私は小さい頃、「優先」してもらうことを後ろめたく恥ずかしい気持ちにならないで済んだかもしれない。

恥ずかしいと思っていたら、なかなか列の前にでることはできない。でも、社会の意識は、行動することによって変わっていく。そういう思いもあり、最近では、先に行かせてもらえるよう周りの人にお願いすることが増えた。そして、前まで気になっていた視線も、自分の中でなぜ先に行かせてもらうのかという理由をしっかり納得できるようになったら、気にならなくなってきた。

そして、もう一つエレベーターに先に乗ることについて印象深いエピソードがある。数年前ボストンに行った時の話だ。ピアカウンセリングの土台となったカウンセリングのワークショップに参加するための渡航だった。空港から会場に向かうのに電車に乗った。乗り換えをするときに、プラットホームから改札へ行くためエレベーターに向かった。先に二台のベビーカーを押したお母さんたちが待っていた。私たちが近づくと、さっと前を開けてくれて、「エレベーターは、あなたたち(車イスに乗った人たち)の運動によってできたから、先に乗っていいわよ」と言ったのだ。そんなこと知ってる人すらほとんどいない日本から来たものだから、とっても驚いた。そして、ありがたく先に乗せてもらって、無事会場にスムーズに到着することができた。

前は他人のフリをしたいなんて、遊歩に冷たくしてしまったけれど、彼女のそういう行動が、私が生きやすい社会を作ってきてくれたことを、今なら理解ができる。そして冷たい視線を向けてくる人は、日々の忙しさの中で余裕がない人なんだと思う。だから、冷たい視線を向ける人たちが悪いわけでも、ないのだ。いつか、そういう人たちと対話がしてみたい。そして、理解が生まれればいいなと思う。それぞれが生きやすい社会を求めるのは、わがままではなくて、お互いにとって大切なことなのだと思う。

【略歴】
1996年石丸偉丈氏と安積遊歩氏の元に産まれる。
母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱いという特徴を持つ。
ニュージーランドのオタゴ大学、社会福祉専攻、修了。現在、ニュージーランド在中。
共著に『多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A』(ミツイパブリッシング)。
2019年7月、NHKハートネットTVに母である安積遊歩とともに出演。