障害者と性~T君との出会いと新会社の設立~

障害者と性~T君との出会いと新会社の設立~

畠中忠&畠中真由美




畠中) 私たちは今年の6月に新会社(合同会社ポエンテ)を設立しました。

真由美)元々、三重県で障がい者の地域生活支援を支援するべくNPO法人を運営しているのですが、その中で何回か、これはちょっとご家族やヘルパーさん、相談支援員さんには相談しにくいんだろうなという悩みを打ち明けて下さる障がい者の方に出会いました。それは性の問題だったり、お金の問題だったりするのですが、そういうものに対して今より柔軟に対応できないかな、と考えたのが設立のきっかけです。

畠中) 僕としては、プライベートでいろいろ経験してきた障がい当事者として、自分の失敗を誰かの役に立たせたいというのもあります。

真由美)…それは我々の離婚とかっていうことですね。

畠中) 脱線しかけましたが、ポエンテ設立の直接のきっかけはT君との出会いです。

真由美)もう彼と関わるようになって丸2年になりますが、ひょんなことから事務所に出入りするようになったT君という男性がいらっしゃいまして。30代知的障害の男性なのですが、自分はゲイでセックスするのが好きだけど、なかなか三重県では相手を見つけられないし、家族から同性愛は恥ずかしいと怒られるし、作業所でゲイだって言うと仲間外れになってしまうからつらいんだと話してくれました。彼は相談支援の利用者さんというわけではなかったのでこちらも気楽におしゃべりしていたのですが、女子会的なノリで話しているうちに、彼がその辺で出会った男性とコンドームも使わずにその辺でセックスするのを好んでいると知って、こちらから働きかけるべきかどうしようかと迷うようになりました。

畠中) その辺って2回言った…。彼自身、あまり良くない性生活をしている自覚はあったんだけど、実際誰かから誘われたりしてチャンスがそこにあると、「気持ちいいこと」を優先してしまうんだ、ということだった。このチャンスを逃したら、次にいつセックスできるんだろうって思ってしまうと。

真由美)そういう風に出会った相手からひどい扱いを受けることも多くて、何度も傷ついている様子だったね。話を聞いて、煩くない形で何か彼の役に立てないかと考え、まずは彼に保健所の無料性感染症検査を受けてもらいました。当初彼は、ゲイだから検査を受けるように言われたんだと勘違いしていたので、ゲイは病気でも悪いことでもなんでもなくて、飲み物でいったらコーヒーが好きか紅茶が好きかっていうくらいのものだっていう話もしました。例えは乱暴ですけど、好みの問題だって知ってほしくて。

畠中) いろいろ聞いていたから、検査結果が陰性でほっとしたね。

真由美)その後、もし性感染症にかかったらどうなるのか、なぜ男性同士でもコンドームが必要なのかということを説明しました。彼はそんな話をはじめて聞いたと言って、びっくりしていました。そこから時間をかけて、T君は大人だし自分の思う通りに行動する権利があるんだけど、私は友達としてT君が不特定多数の人とセックスするのはやめてほしいと思っていると伝えました。

畠中) 結局、好きな人ができたときに自分が困るんだよ、というのが一番効いたみたいだったね。

真由美)T君の行動は、法律で禁止されているわけでも、明らかに危険というわけでもないから、自分で納得して選択してもらわないといけないと思っていろいろ考えました。私にとっては性教育ってこんな風に役に立つのか、と実地で体験した出来事でもありました。ただ肝に銘じておかないといけないなと思ったのは、もしもT君が知識を得て自分で考えた結果として、不特定多数の人とのセックスを続けることを選んでいたとしたら、それはそれで尊重しないといけないということですね。そうじゃないとただの押し付けになってしまう。ちなみにその後、彼にはめでたく恋人ができて、それはそれで悩みもあるとは聞いていますが、今はまあまあ幸せだそうです

畠中) 障がい者の地域生活=まずは生活の安定を、ということで住居、食事、排泄、入浴といった面に重きをおいてしまうけれども、そこが何とか回るようになると、今まで後回しにしていた問題に目が向くようになるのかもしれないですね。 そのひとつに「性」がある。T君の他にも例えば、デリヘルを使いたいけど言語障害があるために電話でうまく話せなくて困っているとか、恋人ができたけど車いすで利用できるラブホテルがわからないとか、そういう話も聞きました。ただ、そういう話ってなかなか介助中や相談支援の場で聞けることではないんですよね。個人差のある問題ですから、お互いがいろいろなことに配慮する必要がある。

真由美)T君の場合は本人がかなり積極的に話してくれたから、それがいい方向に転がった感じです。

畠中) 今ではNHKでも障がい者の性について特集されたりするし、性について発信する人も増えました。社会が一歩進んで、一般論として「障がい者にも性欲あるんだぞ」というところから、個人の問題として「性欲はあって当然だけど、いろいろ難しいな」という流れになってきているように思います。また一見同じように見える困りごとも、障がい種別や、その障がいが先天性か後天性か、どんな生活スタイルかといった背景をよく考えないと、見当違いのサポートになってしまう恐れがありますね。

真由美)もともと日本では、障がいあるなしに関わらず性の話をオープンに話すことに抵抗のある人が多いし、まして自分の性について話す、誰かに性について支援を求める、というのはさらに難しいかもしれないですね。一つ間違えるとただの下ネタになってしまいます。

畠中) 僕自身、素面で話すのは少し恥ずかしいと思いますし。それが正直なところなんじゃないでしょうか。

真由美)ともかくまずは、どういう形でそういう悩みを拾い上げるか、というのが一番の課題ですね。

                                                        
畠中忠 
1977年生まれ鹿児島県出身、脳性麻痺2種2級
普通校、養護学校、訓練校を経て授産施設で働き、その後一般企業に就職。
退職後はグループホーム勤務ならびにNPO法人自立生活センター・津の立ち上げにかかわる。
2006年に独立し、現在はNPO法人CIL・ARCH代表を務める。
ダイエットとリバウンドを繰り返している。

畠中真由美
1980年生まれ三重県出身、社会福祉士
大学卒業後人材派遣会社に就職するもブラックすぎて退職。
その後自立生活センター・津のヘルパー兼事務として勤務。2006年に畠中とともに独立。
同年に畠中と結婚し女児を出産するも3年で離婚。
現在はNPO法人CIL・ARCHで勤務しつつ、合同会社ポエンテを設立。

合同会社ポエンテ 
ちょっと周りの人には相談しずらいような困りごとを解決しよう、という目標のもと、畠中真由美と畠中忠によって2019年6月に三重県で設立。
現在お悩み大募集中。
何かありましたらこちらへ→poentegk@gmail.com




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