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母の本『癒しのセクシートリップ』を読んで。~私はこの本がなかったらこの世に生まれてきていなかったのかもしれない~

母の本『癒しのセクシートリップ』を読んで。~私はこの本がなかったらこの世に生まれてきていなかったのかもしれない~

安積宇宙



知人に母、安積遊歩の本をお貸ししたら、とても感動したと言ってお礼に素敵なピアスをくれた。貸したはいいものの、実は私は生まれてこの方遊歩の本を読んだことがなかった。物心ついた頃から、一番近くにあった本であり、一番距離を置いていた本でもあった。

思えば、この本は私の始まりである。私の父が遊歩に会いにきたのは、この本を読んで感動したからだそう。だから、私はこの本がなかったらこの世に生まれてきていなかったのかもしれない。運命とは不思議なものだ。

そんな馴れ初めを語る時、遊歩は「この本を書いた時には、これ以降恋人なんてできないかもしれないっていう覚悟で、すべて赤裸々に書いた」と言っていた。

この本だけではなく、遊歩はなんでもオープンな人なので、本を読まずとも彼女の人生のことはすべて知っていると思っていた。だからわざわざ、赤裸々に書かれた遊歩の人生を読みたいと思えてこなかった。

だけど、知人の「感動した」という言葉に興味を持った。この本のどんなところが、彼に響いたのだろうと知りたくなった。

家を出てから、四回の引っ越しも、すべてこの本と一緒だった。だけど、適当なところを開いてみては、数行読んですぐに閉じていた。それを今回は、初めて最初のページからめくってみた。

この本は、遊歩が話しているのを口述筆記して書かれたもので、口語体ではなく文章になるように編集されているものの、遊歩節が至るところに残っている。読んでいても、遊歩の声が聞こえてくるようだった。

なにせ、この本を書いた後は恋人すらできないと思っていた遊歩は、もちろん子供を産むなんて予想していなかった。そんな中、生まれてきたのが私だ。

私と遊歩は、同じ障害を持っているけれど、全く違った時代と環境の中で育った。
遊歩は生まれた時から、激しい医療の介入と虐待を受けてきた。私は、生まれた時から医療の介入は最小限に抑えられて、ましてや虐待なんてもっとも縁遠いような環境で育ってきた。それにも関わらず、遊歩が辿ってきた心のプロセスは、私が辿ってきたプロセスととても似ていた。

遊歩はいつだって、私に自分が子供の頃欲しかった環境を作り出そうとしてくれた。手術することはなく、一人ぼっちにされることもない。私がやってみたいと思うことは、できるだけ実現しようと、私の父と周りの人と一緒になって、動いてくれた。

こんなに守られて育ったのに、私の中にも、遊歩が感じたほど強烈ではないとしても、「女性」として見られたいと思うことからの、性への屈折した考えや、人に迷惑をかけてはいけないからといって、ものを頼むことができなくなるという経験や思いがあった。

この本を読んでいて、自分の感じてきたことと遊歩が感じていたことが、あまりに似ているから、こんな感情を私に引き継いで欲しくなかったと思うこともあった。遊歩と似たような苦しみを、経験したくなかった、って思った。遊歩はそこからくぐり抜けてきたのなら、私がその苦しみに囚われる前に、取り除いて欲しかったと。親が生きてきて辿り着いた到達地点に生まれてきて、親と似たような思いを繰り返さないで済んだのなら、どんなによかったか、って。

でも、それは遊歩が一番気をつけていたことだというのも知っている。自分が経験してきた中で受けてきた心のキズを、私に渡さないように、いつも努力していたのを見てきた。

だから、これは、どんなに親や周りの人が、社会からの抑圧のメッセージから私を守ろうとしても、難しいという表れなんだと思う。そして、私たちは生きていく上で、自分で経験することで、いろんな学びや気づきを得ていくのだろう。実際に、私の経験は遊歩とは全く違うもので、似たような感情の流れがあったとしても、それは何倍も微弱なものだ。

今まで避けてきた本だったけれど、むしろ、もっと早くにこの本を読んでいたら、自分が感じてきたいろんな葛藤や苦しみに、言葉を与えることができたのかもしれない。それができていれば、もう少し自分への理解を深め、楽になれていたのかもしれないとも思った。

でも、遊歩から離れ、自分でいろんな経験をしてきた今だからこそ読めたのだとも思う。

そして、だいぶ大人しくなってきたとはいえ、遊歩と一緒に過ごしていると、いまだに見え隠れする小さな純子ちゃん(遊歩が親からもらった名前)のことをもっとよく知れたのもよかった。遊歩の言動が、どんな経験に基づいたものかというのを、さらに理解できたように思う。

結局、読み終わっても、私はこの本ととても特別な関係性があるので、他の人たちがどんなふうにこの本を受け止めるのかはよくわからなかった。

でも、自分の「イヤだ」とか「やってみたい!」という心の思いに従って生きてきた彼女の人生はきっとどんな人にとっても、面白いものだと思う。
こんな生き方をしている人がいるのかって、新たな視点を得られるのは、間違いなしだ。

私が生まれた後に書いた本が二冊ある。案の定、両方ともまだちゃんと読んだことないので、これから読んでみようと思う。


【略歴】
安積宇宙(あさかうみ) 1996年石丸偉丈氏と安積遊歩氏の元に産まれる。
母の体の特徴を受け継ぎ、生まれつき骨が弱いという特徴を持つ。
ニュージーランドのオタゴ大学、社会福祉専攻、修了。現在、ニュージーランド在住。
共著に『多様性のレッスン 車いすに乗るピアカウンセラー母娘が答える47のQ&A』(ミツイパブリッシング)。
2019年7月、NHKハートネットTVに母である安積遊歩とともに出演。