「泣くこと」

「泣くこと」

菅野真由美(埼玉サービスマネージャー)



最近泣くことはありましたか?

泣くといっても理由は様々です。
悲しい時、うれしい時、悔しい時、感動した時。

現場のスタッフから、利用者に泣かれてどうしたらいいか困った、との相談を時々受けます。
非常に難しい問題ですよね。皆さんならどうしているのでしょうか。
利用者が泣くというのは比較的うれしい涙より悲しい涙です。思ったようにいかない、自分の気持ちが伝わらない、文字盤が上手くいかない、なかにはまだ現状の心の受け入れができずに悲観的になり「死にたい」と、泣いてしまう利用者もいます。介助者は泣かれるとますます焦り、何とかして泣き止んでもらおうと頑張りますが、結果どうする事も出来ずオロオロし疲弊してしまいます。現場を守るスタッフは本当に大変ですよね。

そもそも泣くとはどんな事が体の中で起きているのでしょう。悲しくても涙が出るのに、うれしくても涙が出るのは不思議ではありませんか。泣くことはいけないことなのでしょうか。

「泣く」には二つあるそうです。
一つは痛みなど神経への直接刺激による涙です。もう一つは喜怒哀楽といった感情によるものです。後者の喜怒哀楽の感情によって流れる涙は自律神経と深いつながりがあるようです。
自律神経は心臓を動かす、呼吸をする、体温調節をするなど、自分自身の意思ではコントロールできない身体の働きを調整しています。この自律神経が人の感情の動きによって刺激をうけ興奮状態に陥ったときにでるのが、いわゆる感情の涙だそうです。
もっと掘り下げると、自律神経には「交換神経」と「副交感神経」があり、両者が必要に応じて自動的に強くなったり弱くなったりします。「交換神経」は主に日中に活発に働き脳や身体の動きを促進させる、いわば活動する神経。
逆に「副交感神経」は眠っているときや心身リラックスしている状態で機能する休む神経。
しかし、感情が高ぶってでる涙はこの「副交感神経」が働いているのです。ちょっと驚きですよね。
怒りや悲しみが強い時はストレス状態にあり、脳は「交換神経」が優位に働きます。そこで自律神経のバランスを保つため一時的に「副交感神経」が優位に働き涙が出るそうです。
リラックス状態で働く「副交感神経」が機能することでストレス状態をリセットさせているのです。
感情によって涙が流れると、脳から分泌されるストレスホルモンや副腎皮質ホルモンの中のストレス物質も涙と一緒に排出されます。また涙にはストレスによって生じた苦痛を和らげる脳内モルヒネに似た物質も含まれるといわれています。

早い話、悲しいときや悔しいときに思いっきり泣くと、ストレス物質を排出し、苦痛を緩和することができるのです。
よく泣いたらスッキリした、は理由があるのですね。

私が20代の頃、職場のスタッフの身内が亡くなり葬儀に参加した事がありました。一緒に行ったのは40代の先輩。葬儀会場で私たちを目にしたスタッフは張りつめていた気持ちが一気に緩み号泣しました。悲しみの感情を理性で必死に抑えていたのですね。若かった私はその様子に戸惑い「泣かないで」と言ってしまいました。ですが40代の先輩は「思いっきり泣いていいんだよ」とやさしく声をかけ、その人の感情に蓋をすることなく号泣するそばで黙って寄り添っていました。しばらく泣いた後その人は凛とした姿で参列者にご挨拶をされていました。
かつて私はあれほど自分の発言を恥じたことはなく、辛い経験です。

話を戻しますが、この理論からすれば、利用者が何かに対して涙を流していたら、それを止めずにいた方が結果早く収まりがよいのかもしれません。
勿論痛みや苦痛があればそれを最大限に取り除き、話を聴く事を求められればそれに応じ、その時にやれる事はすべてやった上での事ですが、自分に向かっている怒りや落胆の感情であればやればやるほど悪化するでしょう。

スタッフから相談される度に私は話します。一通りやる事をやった上で危険な状態でなければ泣くことを無理には止めず、「何かあったら呼んでくださいね」とやさしく声をかけ少し離れて見守ってみたらどうでしょうかと。勿論これが正解ではないと思います。あくまで手段の一つの提案です。重度訪問介護の現場では明確な正解はなく、試行錯誤を重ねながら利用者とよい状態を見つけていく難しい仕事だと思います。ですがいつかその繰り返しを重ねることで利用者とよい関係性を作れることを信じたいと思います。


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