インフェルノ / ダン・ブラウン(著) 越前俊弥(訳)

菅野真由美



皆さんはロバート・ラングドンシリーズを読んだことがありますか?
ロバート・ラングドンを聞いたことのない方も「ダ・ヴィンチ・コード」は聞いた事があるのではないでしょうか。本書はその「ダ・ヴィンチ・コード」の続編とも言っていい小説です。著者は元々は英語教師をしていてその後作家になり、父は数学者、母は宗教者、妻は美術史研究者であり画家、という環境でこの本を書いています。 この小説に登場する芸術作品、文学、科学、歴史に関する記述は、すべて現実のものであります。

主人公であるハーバード大学の宗教象徴学教授は、アメリカの大学の構内を歩いていた記憶を最後に、深夜にイタリアの病院のベッドで目を覚まします。教授は二日前からの記憶がなくなぜ自分がイタリアにいるのかわからないまま、そして何故か命が狙われます。理由もわからず襲撃者から逃れるうちに少しずつ事情がわかり始めました。鍵となるのがダンテの「インフェルノ(地獄篇)」をモチーフにしたボッティチェルリ作の「地獄の見取り図」。主人公は「神曲」の地獄の様子を克明に描いた絵に細工が施されていることを発見し、それを解読しメッセージを読み取っていきます。解読が進むにつれ複数の襲撃者に追われ、ますます混乱に陥り、背後に大きな組織も関わっていることに恐怖を感じます。そして人口爆発を懸念した遺伝学者のとてつもないバイオテロの計画を知り…

本書の魅力は徹底した調査に基づいて書かれているため、その歴史的背景はもちろんですが、建造物や美術品の詳細な記述がすばらしく、見た事がなくても、きっとこうなんだろうと想像をかきたてられ、色彩までがイメージわく描写になっています。そして大きな社会問題にも気づかされ、改めて今私たちが生きている世の中を考えさせられました。

外国文学に慣れていなかった私ですが、趣豊かな歴史的建造物や名勝をつぎつぎ訪ねながら、ノンストップで展開するサスペンスストーリーに魅了され、また巧緻な仕掛けが随所にめぐらされていて、あっという間に「上」を読み終えてしまい、その後が気になり「下」も読まずにはいられませんでした。

元々は娘のクリスマスプレゼントに購入したものですが、二人で盛り上がり、いつかこの本のストーリーに出てくるコース通りに歴史的建造物を巡ってみたいねと話したのを記憶しています。

秋の夜長にじっくりと読めます。芸術的なサスペンス、いかがでしょうか。


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