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『名前のない幽霊たちのブルース』~わたしののおはなし2~

『名前のない幽霊たちのブルース』~わたしののおはなし2~

わたしの



前回までのブルース】 地域のお祭でLIVEをしてみたいと言い出した私と、それに付き合う仲間たち。楽器ができない私はさっそく教えてもらいに通うが型通りのことしかできない。そうこうしているうちにいよいよ当日を迎えるのだが。

当日の会場は地域の小さな神社。その神楽殿の前のスペースで演奏することになっていました。ステージの前にはベンチが並び、そこに小さい子どもたちやママさんたちなどたくさんの人が集まっていました。11月のスッキリと晴れた日、私ははじめて人前で演奏する緊張で顔が強張りドキドキが止まらなかったのです。

私にはLIVE のイメージがありました。バンドを中心にして人が集まり手拍子されたりしてひとつのグルーヴが生まれる、そんな感じを今までどこかで体験したことがあったのでしょう。それを望んでました。

ところが「わたしの」の演奏がはじまると、それまで集まっていたお客さんたちが蜘蛛の子を散らすようにどこかに行ってしまいました。残ってくれていた人たちは焼きそばとかたこ焼きを食べている人たちで、その人たちも食事が終わったら一人消え、二人消えとだんだん減っていきました。私は演奏しながら「また減った。また減った」と落ち込んでいきました。

しかも途中で神社の入り口にゆるキャラが登場し、「○○くんがきたぞー!」とそっちにみんな駆けていきました。手厚くおもてなしをされているVIP待遇のゆるキャラと、誰も聞いていない隅っこで寂しく演奏する「わたしの」。あのときは本気でゆるキャラにドロップキックしたかった💢

「わたしの」の演奏の前にステージでは町の劇団が殺陣のパフォーマンスをしていて、それに子どもたちは大興奮していました。演奏のはじめはその興奮の余韻がまだ残っていたのですが、「わたしの」の演奏で徐々に冷え込んでいき、終わる頃にはすっかりクールダウン完了!

情けない。恥ずかしい。悔しい。もちろん「アンコール」なんてありません。終わったら聞こえるか聞こえないか分からないぐらいのまばらな拍手。その拍手の弱々しい感じも情けなく、いたたまれなくなってそそくさと楽器をしまい逃げるように会場を後にしたことを覚えています。

それが初LIVE でした。



なじみのお好み焼き屋での打ち上げで私はすっかりやさぐれていました。
「馬鹿にされた気分だね。誰も聞いちゃいない!」
最初は他のメンバーは黙って聞いていました。しかしあまりにも私が管を巻くので見かねたメンバーの一人が口を開きました。

「違うんですよ」私を見つめて言いました。
「何が違うっていうんだ。みんな逃げて行くじゃないか」
「違うんです。思い描いてるイメージが違うんです。LIVE してこうなるといいなという望みがそもそも違うんですよ」

「………」

「自分たちははじめてのLIVE ですよ。誰も僕たちのことを知らないんです。さらに僕たちはオリジナル曲です。誰もその曲を知らないんですよ。客の立場に立ってください。どこの誰かも知らない人たちがなんの曲か分からない曲をやってるんです。それでグルーヴが生まれたら奇跡ですよ。プロならそれは技術でカバーできるかもしれません。だけど僕たちは演奏技術も高くないじゃないですか」

一番楽器が下手なのは自分です。その自分の高望みと現実のズレを客のせいにしていました。本当は他人のせいじゃないんです。
一人の人間が思い描く「望み」や「希望」は、時にエゴだなと痛感しました。

「徐々にでいいんですよ。少しずつ浸透していけばいいじゃないですか。そしたら5年後にはイメージ通りになるかもしれないし、ならないかもしれない。でも、いいじゃないですか、それで」

私はその通りだなと思って聞いてました。

楽器ができない、音楽的センスも薄いリーダーですがそれに加えて時々変なことも言い出します。その度に周囲にいさめられたり、説得されたり、合わせてくれたりしてやりとりしながらここまで活動してきました。

「まずはお祭のBGMくらいの存在でいいじゃないですか」
「………」
「ちょっと耳に残って、なんだっけこの曲?くらいになれば万々歳ですよ」

その言葉によって、打ち上げがお開きになる頃には憑き物がとれたようになっていました。
右往左往しながらも積み重ねていくそのプロセスの中に本当に大切なものがあるのかなー。

そのあとも我々は細々とLIVEを重ねて、少しずつ知ってくれる人も増えていきましたし、バンドメンバーも増えていきました。初回に参加したイベントは3年連続で呼んでいただいてます。「わたしの」のその後のあゆみはいろいろ物語があるのですが…

遠回りしていたらここでお時間となりました。つづきはまた今度とさせていただきましょう。



つづく。




【プロフィール】
「わたしの」
1979年生まれ。山梨県出身。
学生時代は『更級日記』、川端康成、坂口安吾などの国文学を学び、卒後は知的障害者支援に関わる。
2017年、組織の枠を緩やかに越えた取り組みとして「わたしの」を開始。
「愛着と関係性」を中心テーマにした曲を作り、地域のイベントなどで細々とLIVE 活動を続けている。
音楽活動の他、動画の制作や「類人猿の読書会」の開催など、哲学のアウトプットの方法を常に模索し続けている。
♬制作曲『名前のない幽霊たちのブルース』『わたしの』『明日の風景』
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