地域生活を支える住宅の確保(番外編2)~介護用リフトの導入~

地域生活を支える住宅の確保(番外編2)~介護用リフトの導入~

渡邉由美子



前回のコラムの続きとなりますが、自分が立つことも歩くこともできない状況の中で、女性介助者一人で持ち上げ、車椅子から様々な場所に移乗させるのは大変な重労働です。その大変さを軽減したいと考えてはいましたが、機械で吊り上げられる介護用リフトを使うことに強い抵抗感を持っていました。最初は、UFOキャッチャーのぬいぐるみではないのに、ベルトで毎回締めつけられ、目的地に運ばれる感じがどうにも耐えられず、もっと人間らしく移乗する方法は無いものかとリフトの導入を進めたスタッフと何度も議論を重ね、喧嘩もして導入しました。

慣れてみれば介護者と私の関係に体力的・精神的な余裕も生まれ、「一キロ痩せた、太った」と抱えてもらうために体重を極度に気にして食べたいものも我慢する生活よりもよほど人間らしい生活が出来るようになったと思えるようになりました。人材募集の年齢層の幅もぐんと広がり、人材不足解消の大きな一助となったことは間違いありません。その後、東日本大震災が発生し、東京は直接的な被害はなかったものの、何度も余震を観測し、本来止まるはずのアパートのエレベーターは余震の最中も止まらず、玄関のポストのレンガ張りのタイルがボロボロと床に落ち、壁はヒビだらけになってしまいました。

区の判定で、「一部損壊」の認定を受けることができたので、リフトの新設工事費用の助成を受けることができました。(本来、介護用リフトの住宅への設置費用は一人の障がい者に対して人生一度きりの制度となっています。)介護用リフトの消耗品の交換や不具合の修理も車椅子とは違って、修理費用が全額自己負担なのです。故に障がいが重度になればなるほど、どんなに家が老朽化してもその家に住み続けなければならない必然性をはらんでいるのです。

今回、たまたまこの家に住み続けては危険という意味の「一部損壊」の判定が公に出たことで、以前の家から道一本隔てたところにある、バリアフリーがもともと基礎的に整備されている物件を借りることができました。今年、その家に引っ越して10年目になります。前の家から比べれば、1ルームとなり居住空間は狭くなりました。しかし、部屋の中に段差は無く、玄関扉も引き戸が標準的に装備され、台所は車いすで調理が可能なように足元に空間のある設計となっています。

ベランダへも車いすで居室からそのまま出られるようにもなっていて、もう少し軽度な障がい当事者であれば、自分一人で何でも行い暮らすという意味の自律が可能な住宅なのです。入居当時はとても満足していて、一生分の幸運をそこで使い果たしたような気持ちで意気揚々と引っ越しをして、第二期一人暮らしのスタートを切ったものでした。

現在は、お風呂とトイレのリフトが一体型となったものを設置することが出来ているため、とても利便性が向上しました。しかし、住めば都のはずですが、10年経過した今となってはやはり、不都合な面が出てきています。この家も、水回り関係がよくつまり、居室の方に汚水が溢れてその度に自費でつまりを直したり、トイレットペーパーの使用をした後、水洗には流さないように工夫してなんとか今日を暮らしています。重度な障がいを持っていると、なかなか引っ越しが難しく、その現実をオーナーが知っていて、足元を見られているような体験を何度となくしています。

安住の地を得て、安心して当たり前に暮らすことは並大抵のことでは無いのです。それでも、私は恵まれているほうだと思います。雨風がしのげる住宅探しは、本当に至難の業です。家賃扶助をふくめて公的な住居獲得の支援を望む声は少なくありません。都営住宅の一部に車椅子専用住宅が創られるようになってはきましたが、そのような住宅に運よく入ることができれば、家賃も今住んでいるところの3分の1程度に抑えられますし、障がいの特性に合わせて中をリフォームして住める住宅の方式になっています。都営住宅を求める一般の人は、抽選のボールが1つしか引けませんが、障がいを持った人は5つ引く権利を与えて頂くことができます。

それでもその条件で住宅を求めている人はたくさんいるので、なかなか当選できません。また、都営住宅のある区市町村は限られており、住むところが変わると他の福祉サービスも今と同じように必ず受けられるとは限らないので、いろいろな意味でリスキーな選択となるのです。重度な障がい者が自立生活にチャレンジしやすい住環境の整備を国や東京都、区市町村はもっと本格的に取り組んで、誰もが望む暮らしを実現できるように支援していただきたいと切に願わずにはいられません。これも、粘り強く必要性を訴え続けていかなければならない大きな課題の一つです。さらに、障がいの重さに左右されることなく地域での暮らしが当たり前の権利となるよう、空き家の活用も含めて柔軟に住居を確保できるように、正しい理解のもと仲介するシステムが公に必要だと強く思います。


渡邉由美子
1968年6月13日生まれ 51歳
千葉県習志野市出身
2000年より東京都台東区在住
重度訪問介護のヘルパーをフル活用して地域での一人暮らし19年目を迎える。
現在は、様々な地域で暮らすための自立生活運動と並行して、ユースタイルカレッジでの実技演習を担当している。

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