地域生活を支える ~緊急事態宣言を受けて思うこと~

渡邉由美子



新型コロナウィルス感染症の感染者拡大を防ぐため政府から緊急事態宣言が発令され、一か月間の更なる外出制限が出されました。それに伴い私の24時間介護が一部揺らぐ事態となっていて、各事業所と連絡を深夜まで取り合い、なんとか事なきを得られそうな見通しが立ってきました。この重度訪問介護という仕事で介護者も自分の生計を立てている人は収入の問題もあるので、国がどんな宣言を出そうとも電車やバスまで止まることが無い限り感染リスクを背負いながらでも通常出勤して、いつも通り介護をしていただいています。いつ何時でも休めない仕事で申し訳ないと思いながらも、地域生活がそれによって継続できるのでとても感謝しています。

その一方、東京で感染者が増えていくニュースを耳にし、非常勤のアルバイトで私の介護を担っている人たちの中から「もし重篤化したら死に至るとわかっているからコロナが落ち着くまで介護を休みたい」と言う申し出があると、私は「生活できなくなってしまうから来てほしい」とは言えませんでした。普段何事も無い時は、自立生活が以前よりは容易に継続できるようになったような錯覚をしています。

でもそんなことは決してなく、世の中が非常事態となれば、たちまち人材不足が加速して危うい生活となることを改めて痛感しました。重度な障がい者はどんな状況下にあっても、介護を必要としないわけにはいかないのです。アルバイトであっても、例え火の中水の中と考えて共に生きてもらえる関係性を、普段から築いておく必要性を改めて感じました。平常時からの慢性的な人材不足を解消するため、バイトへの誘い方も、「ちょっと時給の良いバイトしませんか?」と軽く誘っているのです。若い人たちには介護という言葉が重く、やりたいと思えないと聞いたことがあり、最近は「サポーターになってください」と声をかけることも多くなってきました。「サポート方法は伝えるから大変でもないし、不安でもない、大丈夫大丈夫、やってみようよ。」車椅子の人の暮らしを見ることで、違った視点を持つきっかけができて楽しいから、来てみてほしいと常々お願いしているのです。

もともとボランティアでも、介護をしてくれる気持ちのある良い人々が私の周りに集まってくれています。それでも覚悟を決めて介護の仕事をしているというわけではないのです。将来目指す職業は残念ながら介護ではない人がほとんどです。

そんな今どきの人たちに介護の重要性を伝えていくことが重要なのですが、来れる時に来てくだされば助かる的な誘い方に応えてくれた人たちに、緊急事態の今休むなとは言えないのです。育ってきた環境も、社会的に守られて生きてきた世代に、その熱いパッションを求めることは私には困難でした。結果としてたくさんの方にバックアップ派遣を依頼する形で今日をなんとか生きている状況です。永続的に安定した介護人材の確保は本当に難しい課題です。

そんな国民の苦労など微塵も知らない安倍首相は、連日記者会見やニュース番組に出てきて長い説明をしていますが、結局国民のこれからの生活が今までとどう変わるのか、働けなくなった人に対して具体的に何を保障するのか、ちっとも理解ができません。働けなくなった人たちの中から、介護職に転職しようと考える人が増えてほしいと私は思います。休めない仕事ですが、無くならない仕事であることをこの機会に知ってもらいたいと思います。

コロナウィルスについての報道はもちろん必要なことではありますが、テレビが壊れたように、それしか放送しない番組が継続されていることには違和感を覚えざるを得ません。そんな状況でも通常通り介護に来ていただいて、今日を生きることができていることに深く感謝するしかありません。

そして私は、東京都台東区に自立生活をしたいという願いを実現するために、20年前に一念発起して移り住んで以来、こんなに家にばかりいることはありませんでした。何故ならば、ただ必要な介護を受けて暮らすだけではない生活を、追い求め続けてきたからです。衣食住と自分でできない日常生活を、介護者にサポートしていただきながら暮らす生活だけではなく、就労や結婚はできなくても、なるべく社会との接点を持って活動的に暮らしていこうと考えて行動してきました。

そんな考え方で、自分の人生としての思いのたけに合うものを探しながら、走り続けてきました。でも3月4月の私の暮らしは一変しています。いくら外出が生きがいと思っていても、遊びの外出ばかりをしたいわけではないのです。一週間ほとんど切れ間なく外出の目的が定まっていた私にとって、一人暮らしをしてからこんなに家にばかりいたことはありません。最初はたまにはゆっくり骨休めするのも、20年の節目としては悪くないと思っていました。

緊急事態宣言に伴い、私自身のルーティン活動のほとんどが一時休止となりました。家に介護者と共にこもり、私も介護者も感染リスクをできる限り避ける行動や、生活をすることが、自立生活の継続のために最も重要と考えるようになりました。今はそれが最も大切なミッションです。



渡邉由美子
1968年6月13日生まれ 51歳
千葉県習志野市出身
2000年より東京都台東区在住
重度訪問介護のヘルパーをフル活用して地域での一人暮らし19年目を迎える。
現在は、様々な地域で暮らすための自立生活運動と並行して、ユースタイルカレッジでの実技演習を担当している。

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